2-幕間 女性警官、推理する
両手いっぱいの野菜を落とさずにパトカーまで辿り着いた先輩。
車内に常備してある大きめのビニール袋に野菜を入れ、後部座席にドッシリと載せた。当分は野菜を買わずに済みそうで喜んでいる。
「たくさん野菜もらったしー。今日の夜は天ぷらにするー?」
「なんでもいいです」
「あれー。ちょっと怒ってるー。もしかして彼にウチを取られると思って嫉妬しちゃったー?」
「しーてーまーせーんー」
「でも本当はー?」
「ちょっとしてる。って言わせないでくださいよ。誘導するのズルいですよ」
女同士でイチャイチャした空気から一転。先輩は仕事モードに切り替わる。警官一人当たりに配備されたタブレットの電源を入れた。
「真面目な話さー。彼どう思う? 免許証と比べてさ」
「……写真と比べて顔が小さいし、この歳にしては若すぎるなって印象はありましたね。面食いの先輩が好きそうな感じはしました」
「それだけ? 他に気になったところは?」
「……うーん、そうですね。体臭はおかしくありませんでしたし、薬物使用者特有の外見的特徴は見られなかったかと思います。
ちょっと挙動が怪しいくらいで健常者の域を出ませんね」
後輩からそれ以上の情報は出てこなかった。彼への印象は『常習的な犯罪は犯していない無職』という評価で落ち着いた。
「まぁ、そんなもんだよね。これは別に不審な点とは繋がらないけど、気になったのはコンタクトレンズをしてなかったことかな」
先輩はタブレットを操作し、記録しておいた運転免許証の番号から個人情報を検索した。
免許証の小さな証明写真では見逃してしまいそうな細部を拡大表示して後輩に見せる。
「ほら、目の部分見て。けっこう度数が強めのメガネなんだよねー。犯罪するにしても畑仕事するにしても、メガネ無しでやるわけないんだよ。
実際に近づいて確認したけどコンタクトレンズはしていないし、無職がレーシック手術を受けているとは考えづらい。裸眼なのに野菜を見つけたり虫をみつけたり、遠くまで焦点が定まっていた。
顔の輪郭まで変わってるし、なんか全体的におかしいのよね。まるで別人としか思えない。ま、これ以上深入りするにしても今の立場じゃ趣味程度に留めるしかないだろうけど」
「洞察力がすごいです。だからあんなに密着してたんですか。うちの本棚を占領した推理小説は見せかけじゃないんですね」
「嬉しそうにしちゃってー。やっぱ嫉妬してんじゃん。じゃあさ、ウチがケーちゃんをお持ち帰りするって言ったらどーする?」
「別にいいですけど……ちゃんと最後まで面倒を見られるんですか? 私に世話を押し付けないでくださいよ」
「草ぁ。ペット感覚じゃーん」