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11-1 俺、辿るロープ


「うう……ビニール紐……ひぐっ…ビニール紐だ……誰かが、ここまで来た……」


 頼むから蟻塚の手前で退いていてくれ。ここは道具に頼る人間が攻略できる難易度のダンジョンじゃない。園田蓮華がそんな優しい奴とは絶対に思わない。これはたった一人に向けた贈り物のダンジョンだから。人間に攻略させようって気持ちが感じられない。例の通路を通れる前提なら天道兄という人物も人間かどうか怪しい。


 もしもこの紐が俺の糸のような代物なら先へ進んでも生存の可能性が充分にある。でもこのビニール紐は人工物だ。

 俺のような怪物にまで変化を遂げていないなら蟻塚を突破できるとは思えない。実際、蟻塚は現存している。戦わずに退いたことを願うしかない。


 念のためビニール紐と俺の糸を結びつけておく。帰ると決めたときからずっと垂れ流していた糸だ。これでラスボス部屋からビニール紐までのルートを確保できた。


「いったん蟻塚に戻ろうか。もし人骨が見つかったら、チェリーには申し訳ないけどコロニーを落とす」


 なぜか出入り自由な蟻塚。せっかくだからくまなく調べていく。

 途中でチェリーの様子を見に行くと、既に卵が3個に増えていた。せっかくだし別れのベロチューしてから家宅捜索を再開する。

 元旦那コロニーの女王部屋と思われる蜜の壁を破壊して、くまなく調べるけど人骨らしきものは見つからない。狼狽える女王の顔も拝みつつ、せっかくだし女王ともベロチューしてから捜索の網を広げたが人骨は発見されなかった。


 とりあえず紐を辿るか。これが最後の希望だ。


「やった♪ やった♪ これで出られるー。空が見られるー。丸腰だから最強だー! 真っ直ぐ立ったら気持ちー!

 ……ふんふーん♪ 葉っぱ一枚あればいいー。葉っぱどこやねーん。あははははは!」


 さいっこーな気分だ! 帰ったらみんなびっくりするぜ! こんなんなってんだからさあ!


 おっと、ビニール紐を踏まないようにしないと。ズレたら大変だ。


「チェリーには感謝しないとな。俺ひとりだったらここまで来るのに相当な時間がかかっていたぜ」


 行きは良い良い帰りは怖い。

 ヒルミミズによる移動のせいで確実に正規ルートのボス部屋といえるのはゲジとムカデの2つだけ。その間の正規ボス部屋を全く知らない。もしかしたら元旦那コロニーは正規ルートのボス部屋なのだろうか。


 このビニール紐のおかげで迷わずに進めるけど、やはりそれでも見覚えのない道を通るのが怖い。定期的に分かれ道とぶつかって恐怖が湧き上がる。道を間違えたらどこまで続くかわからんのだぜ。アリが新しい通路を作ったりしてるし、無限の選択肢がありそうだ。


 このビニール紐は正解の帰り道に繋がってるはずだ。誰のおかげか知りたい。早く帰りたい。帰って感謝を伝えたい。


 開けた場所に出た。正規ルートのボス部屋か。部屋の主は超巨大ナメクジだ。普通やね。


 こちとら裏ボス討伐帰りじゃ。レイドボスやらユニークボスでもなきゃ瞬殺やぞ。


「黒紫光線!」


 うん。意外と生臭くない。貝の刺身っぽい味やな。醤油が欲しい。


 つーか。なんかおかしいな。紐はボス部屋を通ってる。なのにボスはピンピンしとった。


「なんでボスが無事なんだ。もしかして無限湧きなのか。それとも倒さずにビニール紐だけ延ばしてきたのか。ま、ナメクジはノロマやし。走って抜けたのかもしれんな」


 ボス部屋を出てビニール紐を辿っていくと、分かれ道で奇妙なことになっていた。


 なぜかビニール紐が3本に分かれていた。これじゃ正解の道がわからないじゃん。

 失意の中、ビニール紐に目を落とす。そしたら違和感があった。

 光を浴びせて注意深く見てみると、やっぱり違和感は間違いなかった。

 多分これ、結び目でわかるぞ。


 1本は、ナメクジ部屋に繋がる正規ルート。他の2本は後から結びつけたものだ。

 おそらくナメクジ部屋を抜けて元旦那コロニーの手前でひきかえし、再びナメクジ部屋からここまで戻ってきて捜索の幅を広げた可能性があるな。


 もしかしたら、待っていればビニール紐の主がここに戻ってくるかもしれないな。

 ただ俺はもうそんなに待てない。ホタルのプラネタリウムはもう飽きた。


「よし。帰ろう」


 正規ルートの紐を辿って帰る。分岐点に居続けるメリットは無い。


 そう思っていたのだが、このあと俺は分岐点まで引き返すこととなる。


 なぜなら次の分かれ道にビニール紐が1本しかなかったからだ。その1本の紐を辿れば必ず外へ出られる。さらに辿っていくと何度か分かれ道に突き当たったが、紐は分かれておらず1本のみ。


 安心すると同時に謎が生まれた。なぜ、さっきの分岐点ではビニール紐が3本に分かれていたのか。


 捜索の幅を広げたなら手前の分かれ道にも3本のビニール紐があっていいはずだ。わざわざ入り口から遠いところを優先するのは効率が悪い。


 最近捜索範囲を広げていたとしたら、現在もダンジョン内で捜索中の可能性がある。俺のために今も危険を冒しているのかもしれない。


「ちょっとダンジョン生活がのびるくらいや」


 結び目を注意深く見て、新しく結ばれたビニール紐を判別する。


 行き先は決まった。一番新しいビニール紐を辿れば会えるかもしれない。俺の心の恩人に。


 そうと決まったら八重歯で刀を造る。武器を作るのも手慣れたもんよ。刀の絵を描きまくった中学生時代の知識が役に立っとるわ。柄の部分に髪の毛と糸を巻いて完成や。


 出来た刀を分岐路に突き刺す。刃の腹に俺の名前を銘打っておいた。

 俺は刀を使わない。もし行き違いがあった時のための目印だ。みんな刀が大好きだからこうしておけば絶対に目に止まるはず。


 迷いを断ち切り、新しいビニール紐の道しるべを辿る。

 しばらく進んだらまた道が3つに分岐した。そしてビニール紐は2本の道に延びている。


「また分かれ道かい。結び目が新しいのは…こっちやな」


 分岐点が来たら新しい方へ新しい方へと進んでいく。そしてついにビニール紐が1本になった。


 さらに驚愕の事実が目に飛び込んできた。足跡だ。人の足跡に間違いない。ただ驚いたのはそこじゃない。足跡を見つけて喜びはしたが驚きはしなかった。


 驚いたのは目の前で足跡が消える瞬間を見ちまったからだ。


「足跡が残らないのはダンジョンの仕組みか。ビニール紐は無くならなくて良かった」


 消える前の足跡はひとり分だった。たったひとりでここまで来たんか。俺のために。いったい誰なんだ。


 消え始めた足跡を追わないと。走れば追いつくかもしれない。


 非正規ルートとはいえボス部屋がある。大変危険だ。ここに来るまでもボスの死骸があったから黒紫食いしておいた。急いでいても食事は大事。どんどん健康になっていくよ。


 元旦那コロニーで見つけた蜜団子塚の効果は特に大きい。触手をさらに分裂させられるようになったし、体のどこからでも触手を出せるようになった。新しく出したり分裂させた触手は元に戻すこともできる。いずれ全ての触手を戻せる日が来るかもしれない。まあ今のままでもいいけどね、邪魔にならないし。


 それよりも足跡が途中で途切れたんだが。これはどういうことだ。


 ああ、足跡に集中しすぎて気づかなかった。


 これ、バックトラックか。いつのまにか後ろにつかれてるじゃん。光センサーの出力もっと上げてりゃよかった。


「チェストおおおお!」

「あいたあああああああ!」


「チェスチェスチェスチェス…チェストおおおおお!」


 ガンガンガンガンガンガン!!


「いった! スーパー!」


 容赦ないな! まぁしゃーない。好きに打たせてやりましょ。

 不意打ちは効いたけど〖スーパー黄色人〗の状態になった今なら大した痛みもないし。不意打ちは効いたけどね! 不意打ちはね!


「はぁはぁ……かたいですね……」

「ほんと、あざっす。あざっすです。うす」


「なっ……しゃべった!? まずい!!」


 俺を叩くだけ叩いといて逃げやがった。でも許す。恩人だから。


「あ、ちょっと! 逃げんでください! ほんと、あざっすなんで! 助けに来てくれたんすよね!」


 ぜんぜん聞いちゃいない! 止まってくれない!


「信用されんのはわかるっす! こんな体やから! でもほんとのあざっすなんで! 分かれ道の刀、見てください!」


 本気で追えば追いつける。でもそれじゃダメだ。どういう行動を取られるか予想がつかない。

 なんかあの人の腰に手榴弾があったし、死なば諸共爆発なんてされたらたまらない。こういうときコミュ障はつらいな。どう接したら安心させられるかわからん。


 とにかく歩いて戻ろう。ビニール紐は無事だ。行きつく先は同じ場所よ。


「なにか打ち解ける名案が浮かぶかもしれんしな。思い切ってベロチューしてみるのもあり。念のためにうがいしとこう」


 ガラガラガラガラガラガラ。だらー。


 よし。口の中がさっぱりしたわ。家に帰ったら溶解液うがいできなくなるのが残念だなあ。洗面所が溶けちまう。


 光センサーで相手の情報を得つつ、光を届けて相手に俺の現在地を伝える。ホラーゲームだと怪物が急に現れるより事前に距離感が分かっていた方が安心するもんね。それと大きい音を出さないように気をつけよう。どれだけ安全だろうと大きい音を出されたらビビる。でも足音もビビるよなあ。静かすぎてもビビるし。

 そうだ。歌おう。


「やーれん、ソーランソーランソーランソーランソーラン、ハイ! ハイ! ニシーうんたらカモメに問えばー、わたしゃあれ鳥、あれーに聞け、チョイ!

 ヤサエン、エンヤーーーーーーーーァ!

 アーーーッ! アーーーッ! アーーーッ!

 サァーアのドッコイショ!

 はああドッコイショ! ドッコイショ!」


「……うるさいですね。刀剣類の所持とみなし、あなたを銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕します」


 黒髪ロング姫カットの女が語りかけてきた。分かれ道に突き刺しておいた刀を抜いて構えている。


「あ、あ、さーせん。勘弁してください。それ差し上げます。差し上げますんで許してください」


「この刀の現在の所有者はあなただということは否定しませんね」

「あ、はい」

「ところで、刃に刻まれた名前の方をご存知ですか?」


「お、俺です。つ、ついさっきその刀をつくったんで」


「あのですね。人を騙すならもっと上手く化けないといけませんよ。正体がバレバレです」

「い、いや、本当に! こんなんなっちゃったけど人間なんですよ!」

「そうですか……ではもしあなたが人間なら、私を見逃してくれますよね」


 嫌です、と言いたい。お礼を言うために逃したくない。でも行かせてやる以外に安心ポイントを獲得する方法が思いつかない。


「もちろん! お土産に刀も持ってってください!」

「ひとつ警告しておきます。私はあなたを危険な存在だと疑っています。疑いが確信に変わったとき、この爆弾を使いますからね。もしあなたが本当に人間だとしても爆発させます」


 この人、どっかで見たことがある気がする。でもぜんぜん思い出せない。つーか、そんなのどうでもいい。黒髪ロングの姫カットが似合いすぎていて可愛い。どこか金持ちのお嬢様だったりすんのかな。

 え、いやいや、なんで美人がここにいるんだよ。婆ちゃん家の倉庫に美人が来るわけないのに。


 たぶん地上で何かあったんだろうなぁ。婆ちゃん大丈夫かなぁ。


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