8-幕間 世界、ダンジョンパニック!
地球上の陸地を襲った世界的大地震と地球表面上のプレート運動には因果関係が見つからなかった。
同時に多発した空洞化現象による地盤沈下こそ地震発生の原因という怪しい説がネット上で話題になった。しかしその話題は被害状況の情報で埋もれていく。
地盤沈下説は都市伝説マニアの間では常識となっていたが、空洞化現象についての報道は各国で規制され、真実と嘘の両方がお茶の間で溢れかえっていた。
のちにダンジョンと呼ばれる空洞化は陸地であれば場所を選ばず発生していた。公道のど真ん中だったり、山の頂上だったり、駅の中だったり、家の敷地内だったりと人々の暮らしを理不尽に破壊した。悲しみとやり場のない怒りが地球全体を包み込み、被害が酷かった地域では強盗・窃盗や暴行などの事件が頻発した。
そしてダンジョンによるパラダイムシフトが始まる。
まだ騒動がおさまらず、人々が混乱している時期に無許可でダンジョンを冒険する人々が現れ始めた。
フロンティア精神に殉ずるように、率先して危険地帯へ飛び込んでいった冒険者たちはそれなりの死者を出しながらも成果を持ち帰ってきた。
命からがら帰還した人たちは、みんな口を揃えてこう言う。
「空洞の先に未知の世界が広がっている」
人々は自らの損失を取り返すように、装備を整えてダンジョンへと踏み出していった。
世界的ダンジョンの発生から半年後。ダンジョン騒動は各国によって事情が大きく異なっていた。
騒動が一番最初に落ち着いたのは中国だった。次に台湾、日本、韓国などアジアの国々を中心に落ち着く。
その他にも政府主導でダンジョンを国有化していった国々は市民の冒険心と引き換えに日常を取り戻していった。
逆にダンジョンを一般開放した欧米は日増しに市民の冒険心が加熱した。世界中からダンジョン目当てに移住や観光する人が増え、ダンジョン周辺の町は冒険者で栄えた。
景気がいいのは冒険者だけではない。冒険者が使う道具やジーンズが飛ぶように売れ、ゴールドラッシュの再来といわれた。
ダンジョンの発生により最も発展したのは意外にもアフリカだった。エジプトは現地人が続々とダンジョン調査へ赴き、素材や鉱石を叩き売りする巨大市場ができた。農家の成り手が減り、エジプト遺跡の発掘隊が人手不足に陥るほどダンジョン冒険者は人気の職業となった。
だがアフリカで最もダンジョンの恩恵を受けたのはケニアとナイジェリアだ。制度が甘いのをいいことに冒険者たちは電子マネーを用いて個人間取引のプラットフォームを確立し、最先端テクノロジーを駆使してダンジョン攻略に必要なコミュニティを急速に築いていった。
ケニア・ナイジェリア両国は今や世界最大のダンジョン装備輸出国として世界から注目を浴びている。
その後、ダンジョンで入手できる魔石を酸性の水溶液と組み合わせることで発電効率が高い燃料になるとアメリカの研究機関が発表した。その発表を受け、全世界の魔石需要とダンジョン冒険者の人気が跳ね上がることとなる。
低コスト低リスク脱炭素で国民の理解を得やすい魔石プール発電所は世界各国で続々と建設されていく。
表では、新しい事業家が魔石プール発電事業で成り上がって一世を風靡した。しかし裏では、安い土地を高く売るために住民を追い出す現代の地上げ屋が世界中で問題視されはじめていた。
特にメキシコでは町民全てをアメリカへ送り出し、町を丸ごと魔石プール発電所に変えて富を独占するなど非人道的な所業が堂々と行われ、それが新しい戦争の火種となった。
戦争が激化したのはアメリカだけでなく、中東でもダンジョンの取り合いで沢山の犠牲者が出ている。
戦争のさなか、空爆を逃れるためにダンジョンを活用する難民たちが現れ始めた。ダンジョン内では狩りさえできれば水や食料に困らない。それを理由にダンジョン内で店を持つなどして、地上よりも充実した生活を送れるという事実が世界中で報道された。難民問題が解決に一歩近づいたと人々は喜んだ。
特に難民を生み出し流出させる小国ほどその報道に目をつけた。
小国は国有化したダンジョンを難民のために使うのではなく、ダンジョン内で建設した施設をダンジョンシェルターと称して資産家たちへ売りつけるために使った。移住を条件とせず、シェルター税を毎年納めればいつでも利用可能な施設だと評判になった。しかもひとつのダンジョンで複数の資産家に売れるためコストパフォーマンスは抜群だ。
人々はダンジョンで入手できる資源だけでなく、ダンジョンそのものにさえ新しいビジネスを見いだした。
それにより一部の景気は良くなったが、多くの弱者はダンジョンで狩りを強いられることとなる。
ダンジョン市場を指差して世界の経済が良くなったと口々に言う。しかし経済とは経世済民。世を治めて人民を救うこと。ダンジョン革命は富をもたらしたが、その富はいったいどこへいくのだろうか。




