↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/243

8-3 ニート、裏面挑戦!


 本殿ホタルの範囲破壊光線の照射は6時間が経過しても全く衰えを見せない。


 これがもし地球表面で行われていたら環境が変わる。それほど強力な光の嵐を延々と続けている。台風を消滅させるほどではないが、台風を起こしたり射程範囲内を全てガラス化させるくらいのことはやっている。


 そんな光の嵐の下で坐禅を組んだままのニートがいた。


 放射線を受けすぎてもはやこの世で最も清潔な地球人だ。体内にはもう細菌ひとつ存在しない。


 人は皆産まれたときから微生物と共存する。例えまわりに同種の友がいなくても共同体がそばにいるのだ。

 だがニートは完全に孤独だ。おそらく世界一清潔で世界一孤独な地球人は彼が最初で最後だろう。


 イメージされるのは魔力袋一点に集中した融合だ。6時間もかけた最長の融合。それがなにを意味するのか。

 ニートは一応地球人。地球人は戦いの中で成長する。


【戦闘再開】


 ニートのターン。ジャンプでは届かない距離にいる本殿ホタルを倒すには遠距離攻撃しか方法がない。糸を出してもすぐに溶ける。宮殿は傷つけられない物質で出来ているため、触手を壁に刺して登っていけない。翼で飛んでいけたらいいが降り注ぐ光がそれをさせない。


 それなのにニートの遠距離攻撃は本殿ホタルに劣る。一応試しに破壊光線を撃ってみたものの、すぐに打ち消されてしまった。


 諦めかけたその時、ひらめいたのが自身の耐火性。坐禅を組んだニートは魔力袋の存在に気づき、超巨大ホタルの魔石の融合先を一点に集中した。


 そして今、融合を終えたニートが立ち上がる。


 本殿ホタルの破壊光線を受けすぎてニートの肉体は紫色に輝く。その輝きを上書きするようにニートの発光器が濃い紫色の輝きを放ち始めた。


 濃い紫色のニートの全身はだんだんと深く暗く黒くなっていく。

 その変化に伴って、足下から黄金の床が見えてきた。ニートが黒くなるにつれて黄金の宮殿から紫色の光が失われていく。



 本殿ホタルのターン。ニートの生存を光センサーで感知する本殿ホタル。ニートが滅ぶまで破壊光線の出力を最大で照射し続ける。

 破壊光線は光センサーと同様に感知の役割もある。最大で照射すれば宮殿内の状況を把握するのは容易い。

 それなのに徐々に光センサーの感知範囲が狭まり始めた。

 違和感はあれども対策はできず、これ以上の必殺技はない。本殿ホタルの攻撃方法は巨体を活かしただけの落下攻撃か範囲破壊光線のみ。

 ここまで来た侵入者に対して落下攻撃は嫌がらせにしかならない最終手段。

 したがって破壊光線が本殿ホタルの基本技であり必殺技。それで充分だった。



 ニートのターン。ニートの肌はだんだんと深い紫色から黒くなる。そして景色は暗くなる。

 黒紫のオーラを纏ったニートのもとに破壊光線の光が吸い込まれていく。


 黒紫状態のニートは光を吸い込むことで多幸感を得ていた。じっくりと光・熱エネルギーを取り込み続けること一ヶ月──。


 アホか。長すぎる。呑気に日光浴をしている場合か。世間がどうなっているかも知らないで。

 ただ気持ちは分からなくもない。本殿ホタルが出すエネルギーは地上では感じられない。晴天時に黒紫状態で日光浴をしても、水素爆弾を至近距離で爆発させても、今ほどの放射線は浴びられず多幸感は得られない。


 最終的には本殿ホタルとニートの間が一本の破壊光線で繋がった。本殿ホタルから直接光を受け取っている。


 勝負あり。本殿ホタルにニートを崩す手段はない。しかし黒紫のオーラを纏うニートは本殿ホタルの所まで飛んでいける。この判定を下したのが一ヶ月前のことだった。判定を下してから一ヶ月も光を食い続けている。


 この勝利確定の延長戦はいつまで続くのだろうか。遅延に次ぐ遅延で本殿ホタルのスタミナ切れを狙っているのだろうか。


 もしもスタミナ切れを狙うつもりならそれは非現実的だ。いや、エネルギー保存の法則からしてみればそれもひとつの正解だが。


 ただし現在この世はファンタジー。神の手が加わった本殿ホタルはエネルギー切れを起こさない。本殿ホタルも魔力袋に似た魔力自動回復器官を持っている。その完成度は100点満点。とはいえ、この私の使者と考えることが同じとは呆れた新人だ。


 飽き性のニートがここまで続けてでも味わいたい多幸感とはどういうものなのか。


 それを端的に例えれば死の感覚だ。一生に一度、死にゆく最後の瞬間に与えられる快感がニートをここまで縛り付けていた。


 死の直前は恐怖に溢れているが、死の瞬間は快感なのだ。臨死体験では味わえない。本当の死にしかない刹那の快感。


 ニートはその快感に酔いしれていた。誰もが一生に一度で満足する快感を満足できずに味わい続けている。


 だが少し味わいすぎた。もうちょっと欲しい、もうちょっと欲しいと求めすぎたせいで本殿ホタルのエネルギーを全て吸い尽くしてしまった。本殿ホタルを完全無敵にしないあたり、新人は神として及第点というところだろう。


 天井で踏ん張っていた本殿ホタルが力を無くして落ちてくる。


「あへ? はえ? ほあ……ほおい」


 気持ち良くなりすぎて言葉を忘れたのかな。


「ほっしゃあああああああ!」


 落ちてきた本殿ホタルを尻尾で分断した。ガラスが割れる音と共に本殿ホタルは床に散らばり、魔石を残して灰となった。


「みちゅ〜……」


 黒紫色の火ダルマと化したニートが魔石に触れると一瞬にして魔石が消えた。


「みちゅ団子があ……美味しい」


 どうやらあの一瞬で魔石を吸収してしまったようだ。しっかり味わっている。

 この〖黒紫のオーラ〗はもはや神技だな。


「すぅ……すううううううう!」


 掃除機のように本殿に散らばった本殿ホタルの破片をぐんぐん吸い取る。


 その勢いで本殿を出て回廊をぐるりと一周歩き回り、ほかの超巨大ホタルの死骸も掃除して帰ってきた。


 真っ暗闇となった宮殿の中で黒紫の光がさらなる闇をもたらしている。これでは美しい黄金が台無しだ。


 ニートは〖黒紫のオーラ〗を解除して、元のオークル色の肌に戻った。そして全身を発光させて内観を照らす照明となる。


 結局、ニートは魔力を一切使わずに本殿ホタルを倒してしまった。

 エネルギーを吸収する技が魔力を使わないとは驚きだ。魔力を使って魔力を吸収する魔法はコチラの世界にもあるが、吸収した物質やエネルギーを魔力に変換して魔力の上限を強制的に引き上げる魔法は存在しない。

 これはもうレベルアップの特技だ。こんな特技は開発されてはいけない。やはりニートは特殊で面白い。


 まるでバグの塊だ。いや、デバッガーか。


【戦闘終了】


 光る彼は一直線に本殿の奥へ進む。来た時にはなかった神鏡が台座に置かれていた。


「なんだこりゃ。お宝かと思ったら。なんか書いてるな」


 書いてある言葉をニートは読み上げた。この私には見えないので助かる。



『親愛なる天道兄へ。


 あなたとふたりで初めて潜った思い出の迷宮をここに再現しました。


 あなたは虫嫌いのウチを先頭にして反応を楽しんでいましたね。あの時の気持ちは何兆年経っても忘れません。


 けれども迷宮の核を壊した喜びをあなたと分かち合ったとき、初めてあなたの優しさに気づきました。


 あの日からずっと色あせないあなたへの気持ちを感じてもらいたくて、思い出の迷宮に一途な愛と複雑な恋心を添えて贈ります。あなたが育つ予定のこの場所に。


 たとえあなたに届かなくても、吾が君のせいでずっと伝えられなかった本当の気持ちをあなたの故郷に置いておきます。





         あなたの園田蓮華より。

 最大の愛を込めて。


 追伸

 怪物たちの頭にウチ特製の魔石ができるようにしました。

 魔石はあなたをもっと美しくしてくれるでしょう。』



「ラブレターかい。なんかドキドキするわ。うわー、ごめんなあ。なんかみちゃって」


『いいよいいよ。そんなことより裏面攻略おめでとう! 助かったぞ! ケーちゃんがいてくれて本当に助かった!』


「誰だ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。