7-2 ニート、VSラスボス戦
ニートのターン。周りをうろついてラスボスの状態を観察した。
ラスボスは肩で息をしている。ニートと違って呼吸が必要らしい。以前焼いた下半身の大穴はまだ完治していない。触手の切断面は焼け溶けて止血されている。
現状分析終了。ニートの判定が下された。
「なんかゲームっぽくないなあ」
ラスボスが想定未満の強さで失望したようだ。せっかく用意した網を使えなくて残念がっている。
するとひらめいたかのように持て余した網の封を解いた。
グルグル巻きに収納された網を解いて周囲を走り回り、ラスボスの下半身に網を引っ掛けていく。
ラスボスの下半身は豪華客船と見間違うほど長くて大きいが網はそれ以上に大きい。重しとなった昆虫たちの頭部が網を引っ掛ける作業を効率化させてくれる。
「みんなの力があったから完成した。これはみんなで掴んだ勝利だ…」
非正規ルートのボスカマキリの生首に話しかけて頭を撫でる。このカマキリはニートのスパーリングに付き合ってくれたパートナーだ。
制作期間にして2週間かけた網がラスボスの下半身をがんじがらめにした。
網の上から粘着液を被せることで更に獲物の動きを阻害できる。
事前に用意した道具がちゃんと機能したことが嬉しくて感動するニート。まだ勝負は終わってないというのに油断しまくりである。
ただ、そんな油断が許されるほどに網というのは強力な道具だ。網に捕獲されたら逃げられない。
ラスボスのターン。
全身が固められていく様子をなす術もなく眺めるしかない無力感。
垂れ下がった触手を持ち上げたくても微動だにしない。
唯一動く脳で打開策を思いつかなければ殺される。なぜかトドメを刺されないが至近距離で光線を撃たれるのも時間の問題だ。
いま動かせるのは脳神経だけ。視覚聴覚の代わりを務める発光器だけが信頼できる唯一の器官。
まるで自分が殺される瞬間を見届けるためだけに残されたようだ。じわじわと弱るのを待つ光る怪物の残虐性に心から怯える。
ねばねばした網で下半身は全て固められ、光る怪物は網を抱えて上半身に上がってきた。
鎌の触手の根元に何かを巻きつけるような仕草をすると、ストンと触手が切れて落下した。
8本あるうちの触手が残り6本になる。光る怪物はペースを落とさずに登って、触手をひとつひとつ切り落としていった。
ついに最後の触手が切り落とされ、首に手がかかる。
「さすがにミミズっぽいもんは食えんかなあ。イカと思えばいけるか?」
光センサーがそんな言葉を脳に伝えた。その言葉を聞いて安心した。
光る怪物は食べるために殺すのだ。
魔石の有害物質で構成された肉を食べれば一部例外のモンスターを除いて死ぬ。
(私の肉は猛毒だ)
この光る怪物は記憶にある例外モンスターの突然変異とは思えない。
つまり、私の肉を食えば先のエリアへは進めないということだ。
「キャハハハハハハハハハハハハ!!」
「うわ! こっわ! なんやねんこいつ」
笑うしかない。笑えたことを嬉しく思う。
笑って死ねて幸せだ。光る怪物も一緒に行こう。
「鎌みたいに美味いといいけどなあ。ちょっと怖くなってきたぜ」
「キャハハハハ……ハァ?」
え? なにこいつ、私の肉食べたの?
「じゃあな!」
ブチンと切れる音がして頭部が落下していく。
(こいつは、こいつは今殺さないとダメだ!)
チャンスは一度きり、光る怪物が頭部を拾いにきた瞬間しかない。
(できるかはわからないが、どこかこいつは私の体に似ている。ならば私にもあの光の熱を出せる可能性がある!)
唯一、動かせる発光器。この一点にだけ集中して最大出力で放出すれば願いが叶うかもしれない。
ニートのターン。落下するラスボスの頭を粘着糸でキャッチする。
「おっと、あっぶね。柔らかいなら落としちゃダメじゃん」
ラスボスの頭部はニートの身長の5倍ある。両手では抱えきれない。それを糸で繋げてラスボスの首に吊るした。
宙ぶらりんに揺れる頭部がまだ光を失っていない。
「もしかして、首落としてもまだ生きてんのか」
足場がなく腹部のトゲにぶら下がるニート。背中の大触手を伸ばし、ブラブラと揺れるラスボスの頭部を大触手で止めた。
「まあ、蜜団子を取れば死ぬか」
頭部の断面に大触手を潜り込ませた次の瞬間!
ミミズのような頭が強い光を放った。光が一つのミミズに集束していく。肉が焼ける音と共に照射された熱線がニートの胸に命中した。
「どの辺かなあ。あったあった。はい、これでスイッチオフ」
熱線が徐々に光を失っていく。光が消えたミミズ頭は隅から隅まで焼け焦げていた。
「あちゃー! 食えるかなこれは……」
【戦闘終了】
ダンジョンクリア!
おめでとうニート! 君が最初の踏破者だ!