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93 ホテルグランド淡路

 淡路島研究所の村長室。その椅子に座っているのは高橋メグミ副村長。俺の代わりにKS村を仕切ってくれる優しいご婦人だ。


「こんばんは。夫人、今日の監視カメラのデータが欲しい」


「こんばんは。どのデータをご所望かしら」


「白田ヤヨイの追跡映像を頼む」


「持ち出しは厳禁ですわ。こちらでご覧くださいませ」


 椅子の背もたれに肘をつき、少し屈んで夫人のパソコンを覗き込んだ。


 フゥーー…… スゥーー……

フゥーー…… スゥーー……


 何かうるさいと思ったら、顔を熱らせた夫人が呼吸を荒げている。


「熱出てるけど風邪引いてない? 大丈夫?」


「大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」


「ほんじゃあ操作頼む。検問のところに来たら止めてくれ」


「かしこまりました」


 映し出されたのはヤヨイさんの部屋。深夜、ベッドを揺らすところから始まり、モザイク加工された格好で朝を迎える。早送りによる高速移動で裸の女二人が部屋を走り回り、モザイク加工されたまま朝食を摂っていた。裸のまま食卓につくなんて不潔な。


「ちょっと止めてくれ」


「はい」


 若干引いているような視線を感じるが、それに構わず画面を指差す。


「ここを拡大してくれるか?」


 指差したところに焦点を合わせて画像が拡大される。よし、という俺の合図と共に操作が止まり、ボヤけた画像のノイズが除去された。綺麗になった画像には、スマホを握る手がある。俺はそれを見て確信した。これは証拠になる。


「この画像を切り取ってくれ。それと、この前後の動画も」


「奥様には内緒にしますわ」


「……そうしてくれたら助かるけど。変な目的では使わんからな。勘違いしちゃダメだぜ」


 俺のスマホは盗聴されている可能性が高いので、KS村で開発中のデバイスに保存してもらう。どうも盗聴アプリに強いデバイスらしい。

 ゆくゆくは製品化したいが、普及したところでネット通信は盗聴されるだろう。スマホの動作が重くなる度にここで解析してもらっているが、その度に入れた覚えのない隠しアプリが山ほど出てくる。重くなるまで全く気づかないんだから怖いもんだ。せめて画面にアイコンが表示されてくれりゃあ発見しやすいのに。


「続きを頼む」


 持ち物検査した時の録画データを貰い、ムツキの監視室へと移動する。廊下を歩くと、今日も今日とて村人たちから崇められたが、時間が惜しいので無視して通り抜けた。

 派遣監視員たちの仕事場の前に立つと、自動でドアが開いた。


「ヤヨイさんはおるか?」


 部屋を見回してみるが、怯えたパジャマっ娘たちがいるだけでヤヨイさんの姿はない。勤怠表を見てみると休みを取っていた。


「どこに行ったか知ってる奴はおるか? 教えてくれたらご褒美に待遇を良くしてやるぞ」


 淡路島研究所のマーク入りゴールドバッジをちらつかせる。これは村内の出入りできる区間が増えるバッジだ。村内は格差を認めた構造であり、階級により待遇が違う。最も下層にあるのが新人職員と職員の被扶養者、それから例外的に入村が認められている村外の人間であり、下層の人間が施設外を出歩く際はホワイトバッジの着用を義務付けられる。当然ながら、ホワイトバッジでは行けない場所が多い。

 次にブルーバッジ、ゴールドバッジと続く。ブルーバッジは選ばれた職員に与えられ、仕事場の施設と一部の高級商業施設を自由に行き来できる。そして、ゴールドバッジの所有者は全ての施設に入れる。ちなみにヤヨイさんはゴールドバッジだ。


「どうだ。欲しくないかゴールドバッジ」


 質問を繰り返しても、パジャマっ娘たちは首を横に振るばかり。目に涙を溜めて無言を貫いている。まあ、よほど探る気がないかぎり、ヤヨイさんの動向を知ってるわけがないか。そもそも警戒心の強いヤヨイさんが行き先を伝えるとも思えんし。


「そうか、残念だ。知ってたら探す手間が省けて助かったんやが。知らんならしょうがない。諦めよう。いつもムーたまのお世話してくれてありがとうな。これは感謝の気持ちや」


 トランプで埋もれたテーブルに名古屋名物のお菓子を置いて監視室を去る。ムツキには挨拶しない。天ちゃんと一緒だと機嫌が悪くなるからな。


 しかし、どうしたものか。ヤヨイさんの行方がわからない。明日も勤務予定のはず。今日は休んで明日もう一度ここに来るか。いや、たくさんの人が死んでるわけだし、もっと焦ったほうがいいよな。


 そういえば例の彼女も一緒に休んでたな。名前は確か、赤池アオイだっけか。陸上自衛隊から配属されたやつ。


「古巣に聞いてみるか」


 研究室の電話機から衣笠統合幕僚長の番号に電話をかける。顔馴染みの元・陸将だ。俺とロミさんをくっつけてくれた人で、トウゴウくんを紹介してくれた人でもある。自衛隊にいた頃は大変お世話になった。


 電話が繋がる。軽く挨拶してから本題に入った。


「そんでさキヌガッサン。赤池アオイって女が淡路島研究所に配属されてんだが、詳細なデータが黒塗りされてたから、ファックスで送ってくんねーかなーと思って。履歴書だけじゃなく、ステータスカードの内容も一緒に」


 キヌガッサンは二つ返事で了解してくれた。下に頼んでくれるらしい。ファックスの番号を伝えて待つ。電話機が何かを受信したのでスイッチを押すと、音を立ててコピー用紙を飲み込み始めた。印刷が終わり、出てきた書類を読む。


「赤池アオイ。18歳。レベルは30か。スペックなし。スキルもしょーもない。普通だな。ヤヨイさんが選ぶくらいだから何かあると思ったんだけど。特に目立った功績も無い。……ワニザメリュウ戦の生き残りか」


 気に入られたのは単に若くて可愛いからだな。パジャマっ娘たちも粒揃いだが、ヤヨイさんの好みから程遠い。庇護欲を掻き立てられる赤池アオイのような幼なげな顔こそヤヨイさんの好みだ。ウヅキさんも頭の良さが顔に出てるだけで同系統の童顔だし。


 電話番号も入手したから電話してみるか。ヤヨイさんの居場所を教えてくれるかもしれんし。


 番号を押して待つ。待機音がワンループした頃、向こうから通話を切られた。知らない番号からは取らない性格か。だが、応答するまで同じことを繰り返してやる。勧誘でも間違いでもないと気付くまで。


『もしもし……』


「どうも、赤池アオイさんの番号で間違いありませんか?」


『そうですけど……』


 続けて『あんたは何者だ』と言わんばかりの声だった。


「わたくし赤池サトミさんの担当医をしている山本と申します。今、お時間大丈夫でしょうか?」


『担当医……母がどうかしたんですか!?』


「落ち着いて聞いてください。お母様は交通事故に遭われました」


『交通事故!?』


「落ち着いてください。お母様は無事です。一時間ほど前に意識不明の状態でうちに搬送されてきまして、つい先ほど緊急手術を終えました。命に別状はありませんが、安静にする必要がありますので入院の手続きを進めています。お父様にもご連絡させていただきましたが、今は広島から離れられないとの返事でして、アオイさんに荷物等を持ってきていただきたいのですが、今ご自宅ですか?」


『いえ、あの、今ちょっと外に出ていまして。遅くなるかもですけど、どちらの病院でありますか?』


「淡路大学病院です。アオイさんに会うためにお母様おひとりで淡路島に行ったとお父様から聞いています。荷物の回収と一緒にホテルのチェックアウトもお願いしたいとおっしゃっていました。宿泊されていたホテルはホテルグランド淡路です。そちらにも既に連絡しておりますので、ご身分が証明できる物を持ってお伺いください」


『わかりました。すぐに準備します』


「よろしくお願い致します」


 全て嘘だが、信じてくれただろうか。母親に連絡を取るような真似はしないと思うが、父親に電話されたら一発でバレる。穴の多い作戦だけど、他に誘い込む手段を思いつかなかった。


 2時間ほどホテルグランド淡路で待った。研究室に折り返し電話がきた時は俺に繋いでもらうようにしてもらったのだが、今のところ通知は無い。

 当然、姿は幻覚魔法で隠している。防犯カメラは欺けないが、人の目は誤魔化せる。周囲の人間には俺の姿がウヅキさんに見えているはずだ。だから悲鳴も上がらないし、写真を撮られたりもしない。ただ、被術者に夢と現実の区別が曖昧になる後遺症を与えるので、使いすぎるとたくさんの廃人を作り出してしまう。あんまり多用できないのが辛いところだ。


 座って待つだけだと退屈なので、コーヒーを嗜みつつ、ゲームアプリの起動した。対人カードゲームだ。最近、同じ人と当たるのもザラにあって落ち目のカードゲームだが、対戦相手は残っている。環境上位デッキで高速周回してデイリーボーナスのチャレンジを埋めていく。


 そんな暇つぶしに夢中になっていると、受付の方で声がした。


「こちらに赤池の名前で宿泊してる人がいると思うんですけど。荷物を受け取りに来ました」


「あ、はい。赤池サトミさんのご家族様ですね。少々お待ちくださいませ」


 受付スタッフは笑顔で俺のところに来た。


「いらっしゃいました。どうしましょう」


「ありがとうございます。ここからは引き継ぎますので、通常の業務に戻ってください。こちらが報酬です」


 100万円入りの封筒を受付スタッフのポケットに突っ込む。


「これには口止め料も含まれています。あまり汚い仕事を増やしたくありませんので、他言しないようお願いしますね」


「は、はいぃ……」


 受付スタッフの後ろについて行く。今はウヅキさんの姿をしているので流石に気づかれた。


「あなたは元カノさんじゃないですか……どうしてここにいるんですかぁ?」


 幻覚魔法を解く。その瞬間、空気が一気に張り詰めるのを感じた。


「じゃじゃ〜〜ん。俺でーす。しぶとく待ってましたー」


 逃げようとしたので触手で捕縛する。スマホも使わせない。


「良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」


 助けを求めて周りを見る赤池だが、誰も助けようとしない。スタッフは急いで人払いを始めた。


「良いニュースから……」


「ほんじゃあ良いニュースからにしよう。君のお母様は事故に遭ってない。あれは嘘や」


 一瞬だけ安堵の表情になる赤池。だけどすぐに表情を引き締める。


「悪いニュースは?」


「悪いニュースはー……えーっと……」


 くそっ。カッコいい言い回しがしたかっただけで何も考えてない。


「うっかりしとった。よく考えたら良いニュースしか無いわ。ひとまず赤池アオイ。これからおめぇを尋問する」


 せっかくだからホテルの一室を貸してもらい、化粧台の椅子に縛り付ける。顔を青くした赤池は歯をガチガチと鳴らし、椅子の足が上がるほど震えていた。


「風邪引いてる? 体調悪いんか?」


 赤池はうんうん、と頷く。


「よかった。体調が悪いだけか。ほら、抗生物質。胃薬もあるぜ。漢方薬も。それと、のどの薬と下痢止めの薬。整腸剤も飲んだほうがいい。あと、解熱剤と痛み止め。鼻水も出てるね。鼻炎の薬も足しておこう」


 全部で20錠。小分けにしてテーブルに置く。


「それと淹れたばかりの紅茶。こいつが一番効くんだな。昔はこいつを飲んで体操で汗を流してた。一発で治るから」


 錠剤と紅茶を飲ませようとするが、赤池は口を噤んだ。俺の親切を素直に受け取ってくれない。仕方ないから口に漏斗を差し込んで、錠剤ごと紅茶を流し込んでやった。


「ん゛っーーッッ! んん゛ぅ゛ーーーーッ!」


「熱いね。熱いね。汗が出るね。効いてる証拠だよ」


 涙を流す赤池の口から漏斗を取り外し、いよいよ尋問に入る。


「ここにはどうやって来た? 歩き? それとも車?」


「ハァハァ……ハァハァ……」


 赤池は肩で息をするだけで答えない。


「脳みそを見れば一発なんやけどな。やりたくないんだよね。人生を一から覗くことになっちゃっうから。許可は出てるけどさ。プライバシーは守りたいじゃん?」


 赤池は泣きながら答えた。


「ハァハァ……車で……来ました……」


「運転手は?」


「タクシーで……」


 今日初めて目が合った。歩み寄りを感じる。だけど……


「あのー、嘘つくのやめてもらえる? そういうのわかっちゃうからさ」


「ご、ごめんなさい。ちゃんと話します。だから、み、水をください……喉が痛くて……」


 本当のことを言っている。仕方ない。水をあげるか。

 ホテルの水道水って飲めるんだっけ? 備え付けの歯ブラシとコップがあるから、歯磨きはできるんだろうけど。

 飲料水かわからんけど、コップに水を入れて持っていく。


「あの……ミネラルウォーターを所望します……」


「贅沢な娘やね全く」


 ミネラルウォーターなら、ホテルの自販機にあるはずだ。買ってくるか。

 縄の締め付けをしっかりチェックして買いに出る。自販機は階段付近で見かけた。部屋からそんなに離れてない。

 あった。硬水と軟水がある。どっちがいいかわからなかったから、どっちも買って部屋に戻った。


「おらんやん……」


 部屋に残されたのは倒れた椅子と弛んだ縄だけ。縄を見てみる。結び目は解けていない。ナイフで切られたわけでもない。しっかりチェックしたはずなのに縄を抜けられたみたいだ。忍者か?


 ベランダの窓が開いている。ここから出て行ったのか。外を見てみるが、赤池の姿はない。勢いで外には出ず、部屋に隠れた可能性を考えて中を調べる。光センサーの感度を上げてニオイを追跡した。

 すると、逃走経路が見えた。やはり窓から逃げたらしい。ベランダの塀でニオイが消えている。飛び降りたのか。ここは4階なのに。


 同じようにベランダから飛び降りる。着地地点にニオイが強く残っていた。一緒に汗も飛び散っている。だが血痕は見えない。怪我なく着地に成功した証拠だ。これがレベル30の耐久力なのか。

 ステータスカードを初めて生成できるレベルが30なのだが、これほどタフな肉体だとは知らなかった。汗とニオイに集中し、逃走経路を追っていく。すると駐車場に入った。


 駐車場か。まずいな。車で逃げられる。追跡のペースを上げよう。



◆▼▲▼◆▼▲▼◆▼▲▼◆▼▲▼◆



「開けんしゃい! 早く!」


 車の窓を叩く音。鍵が開くと、アオイは普段のキャラを忘れたかのような必死の形相でドアを開けた。


「早く出さんね!」


 座るやいなや、シートベルトもせずに指示を出す。その鬼気迫る声に押されて車が走り出した。


「お母さんの身に何かあったの?」


「アイツじゃ! ケーじゃ! 嵌められたんじゃ!」


「まずいわね」


 そう言いながらも、手は止めない。ヤヨイはグローブボックスから消臭スプレーを出すと、助手席に向けてノールックで吹きかけた。



◆▼▲▼◆▼▲▼◆▼▲▼◆▼▲▼◆



 ニオイの元はあの車か。やはりタクシーじゃない。二人乗りの車。超小型車ってやつか?


「とりあえず止めるか」


 ホテルを出る前に念力で後輪を浮かせる。前輪だけじゃ前には進まない。こっちに引っ張ってやったら、最後の抵抗をするかのように左右にブレた。


 俺の手前まで引っ張ったら、観念したみたいにエンジンが止まった。


「怒らないから出てこーい」


 ガタンとドアが開く。なんだ、結構素直じゃないの。もっと抵抗するかと思ったのに。


 夏の薄暗い闇の中、紛い物の金髪を揺らす女が出てきた。赤池じゃない。ヤヨイさんだ。こんなにも早くターゲットを釣り出せるなんてラッキーだ。恋人を餌に使って正解だったな。


「ずいぶん手荒な真似してくれるじゃない。いったいなんのつもりなの?」


 ヤヨイさんを無視して車内を見る。誰もいない。その代わり消臭剤のニオイがした。


「赤池アオイも一緒だったはずだよな。彼女には殺人の容疑がかかっとる。ヤヨイさんにもな」


「殺人? 全く身に覚えがないわ。適当こいてんじゃないわよ」


「アリバイあんのかアリバイ。口だけならなんとでも言えるんだぜ」


「そっちが根拠を出すのが筋でしょ。いつのアリバイを欲しがってるのかすら、こっちは知らないんだから」


「今朝から今にかけてのアリバイや。身の潔白が証明できなきゃ無理矢理にでも持ち物を調べさせてもらう」


「だから根拠を出せって言ってんの。まさか、勘を頼りに人のカバンを漁る気じゃないでしょうね。相手の同意も得ずにそんなことをするなんて人権侵害じゃないの。ウチらのどこが怪しいのか、それをまず先に言いなさいよ」


 尋問中に逃げたから赤池は怪しいって言えば納得してくれるだろうか。いや、ダメだ。そもそも、なぜ手順も踏まずに尋問したのか。その理由を問われるだけだ。

 ヤヨイさんと行動している以上、赤池も関係者なのは間違いない。だけどヤヨイさんはまだしも、赤池の関わりを完全には証明できない。

 まったく、相手が警察だとやりづらいな。こっちはズブの素人なのに。

 とにかく、こっちの情報はできるだけ隠しつつ事情を説明して、アリバイを引き出すのが定石か。


 デバイスを出して、録画を再生する。


「今朝、淡路島研究所の検査所で撮られた映像や。ここにはヤヨイさんや記憶喪失のウヅキさんが映っている」


「覚えているわ」


「ここを見てくれ。動きが速すぎてはっきりとは映っとらんが、ウヅキさんの財布からカードが抜き取られている。抜き取ったのはヤヨイさん。おめぇや」


 手の動きがマジシャンみたいに速く、一時停止しても残像しか映っていない。だが、ヤヨイさんの掴んだ物がセキュリティカードらしき物であるのはわかる。


「確かに、財布からカードを抜いたわ。でも、それはあんたが思ってるような物じゃない。同居してた頃に使ってた合鍵のカードよ。大家に返さなきゃいけないのに、ずっと返しそびれてたのよね」


「え? そうなの?」


 いや、騙されてはいけない。絶対に嘘だ。だけど読めない。思考が読めない。ロミさんと同じ技で読心術が阻害されてる。歴史も読めないし、俺対策はバッチリって感じか。さすがヤヨイさんだな。


「その合鍵を見せてくれ」


「もう送っちゃったから手元にないの。大家に確認を取ればいいわ。これが連絡先よ」


 もらった連絡先の番号を押して大家に確認する。女性の声だ。方言を話されたのでどこなのか聞いたら、久留米だと返された。確かに、二人が同居してた頃の家で間違いない。まだカードは届いていないそうだが、合鍵が返って来ない件を大家は覚えていた。普通、鍵ごと取り替えるもんじゃ無いのかとクレームを入れたが、ウザがられて通話を切られた。


「たしかにヤヨイさんの話と矛盾しない。だけど財布からカードを盗んだのはヤヨイさんも認める事実なはず。怪しさ満点やろ? つまり、犯人はヤヨイさんや」


「ガバガバ推理やめてもらえる?」


 やっぱりヤヨイさんは手強い。敵に回したくねーよ。ウヅキさんに気を遣って俺だけでやろうと思ったけど、一人で挑むべきじゃなかった。助けてウヅキさん。

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