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79 ポコ珍鳥 ※ステータスあり

 分厚い雲がやってきた。降りしきる雨粒が体積を増す。水たまりの嵩が増して、泥を踏みつける感触が気持ちよくなってきた。いつまでもこうして泥踏みを楽しんでいたい。しかし、このあとはウヅキさんを見にいかなければならんのだ。

 現在、彼女は無防備だ。荒廃した四国の中でもダメージの少ない大毛島だが、元気な悪人はみんなここへ集まって来ていて、他の地域以上に治安が悪い。豊かな無法地帯はさぞ居心地が良いのだろう。そんな大毛島で、武器を持たずに出歩くのは裸同然。

 裸体主義の俺にとっちゃあ、衣服の有り無しに大した違いなどないが、性欲の虜にとっては良い獲物だろう。そりゃ心配にもなる。


 防護柵は設置したし、そろそろ出ようとした時だった。


 ガシャンッ……! ガシャンッ……!


 遠くの方で大きな音が繰り返し聞こえた。防護柵が少し揺れている。何者かが、それもかなりの強者が防護柵を攻撃しているようだ。


 ガシャンッ……! ガシャンッ……!


 金網は揺れているものの、ドーム全体の位置は変わっていない。支柱がズレていない証拠だ。耐久性は申し分ない。

 防護柵の材料には、耐食性の高い超硬合金に〖強い糸〗を束ねて使っている。そう易々とは壊せない。

 しかし、この防護柵はモンスターが諦めるのを前提に作った物だ。悪意を持った者ならば壊せるし、同じ箇所に何度も強い衝撃を与えれば穴が広がってしまうかもしれない。


 超硬合金を壊せても、〖強い糸〗のネットは越えられない。ただ、そのネットは柔らかい。隙間が広がれば大きなモンスターの牙や爪が届くようになるし、小さめのモンスターなら穴を広げて入り込める。

 早めに原因を調べたほうがよさそうだ。再発の可能性があるならば、防護柵のあり方を一から考え直す必要が出てくる。



 ガシャンッ! ガシャンッ!



「おうおう元気な奴がおりますわ」


 さっきいた所からそう遠くない場所で見つけたのは、防護柵に体当たりする大型モンスターだった。

 滑らかな表皮を持つ四つ目のオオトカゲだ。人を丸呑みできる顎。前足は短く、後ろ足がインドゾウの2倍ほど大きい。その巨体のバランスを取るように太くて長い尻尾がある。


 こいつは『土佐ザウルス』。超危険なユニークモンスターだ。シルエットがティラノサウルスに似ていることから、そう名付けられた。


 土佐ダンジョンが出来る前からここに住んでいたマナガス由来の在来生物である。ラストダンジョンを超え、さらに向こう側にあるもうひとつの湿地帯でも同じ種が見られる。ちなみに、そこでは『砕きし顎』という名で定着している。


 ガシャンッ! ガシャンッ!


 土佐ザウルスは血を流しながら、狂ったように頭突きを繰り返していた。

 ミステリーだ。こいつらの主な生息地はラストダンジョンの手前にあり、そこには天敵もいないので離れる意味がない。

 彼らは主食に大型草食モンスター『土佐ステゴ』を食べる。その土佐ステゴは第二・第三エリアにも縄張りがあるため、そこで狩りを行えば飢えを凌げる。第一エリアまで来なくても生きていける。

 ここで餌になるような土佐ガエルと土佐グモは、一匹食べたところで大した栄養にならない。大人の土佐ザウルスが一日分の摂取カロリーを満たすには、数多くの狩りを行わなければならないはずだ。

 群れから追放されたとしても、ここまで離れる理由はなんだ。


 存在消失を解除して、防護柵の内側から声をかける。


「どぅしたのぉ? 頭から血ぃ出てるでー? ちょっと落ち着けぇ?」


 落ち着いてくれた。一歩下がってこっちを見ている。尻尾を真上に伸ばして姿勢を低く保ち、顔の横側についた目玉を近づけてきた。


「言葉がわかるのか?」


 返事なし。土佐ザウルスの脳を調べて記憶を探ってみる。するとおかしな点がみつかった。


「妙だな……。おめぇ、群れから追い出されたわけじゃないな」


 特に迫害されていたわけでもないのに自分から群れを外れて、真っ直ぐここに走ってきた。それがこいつの一番新しい記憶だ。

 いくらなんでもおかしい。唐突すぎる。誰かに操られでもしていないと、こんな不思議な行動をした説明がつかない。しかし、土佐ザウルスの記憶に術者の姿は残っていない。


「何か得体の知れない力を感じる。ひとまずやっとくか」


 俺自身に〖存在消失〗。そして防護柵越しの土佐ザウルスに向けて〖存在消失〗。


 ここまでする必要があるかわからない。しかし、土佐ザウルスの謎が解けない以上やっておいて損はない。周りに被害が及ばないよう最善を尽くしておく。


 防護柵の向こうで完全に停止した土佐ザウルスを観察する。


 この世界で自由に動けるのは『消失』のスペックを持つ者だけだ。すると、ここは一体どこなのか。そう考えた時、ひとつの仮説が浮かんだ。

 この世界は現実世界を表とした、裏側の世界なんじゃないか。ずっと昔から、それこそ宇宙が誕生したときから存在する裏世界なんじゃないかと。

 ただ、それだけじゃ納得できないこともある。最初に存在消失し、こちら側で暮らしていたウヅキさんを長い間表世界で見つけられなかった理由だ。

 裏世界では、表世界の出来事がリアルタイムで観測できる。しかし、逆はできない。二つの世界が表裏一体であれば、裏世界の出来事が表世界でも観測できていいはずだ。消えたウヅキさんの姿が表世界に投影されてもおかしくないのに、消えたことになっているのはどういうわけだ。


 おそらく、この裏世界は単なる情報の塊なのだと考える。裏世界の情報は、表世界にも存在するが観測できない。裏世界の情報を観測できるのは『消失』の持ち主だけって理由なら、ウヅキさんを見つけられなくて当然だ。

 観測するためのモニターと情報を動かすためのキーボードの役割をするのが『消失』というスペックであり、表世界と裏世界を繋ぐゲートの役割をするのが『存在消失』というスキルなんだろう。


 そして、表世界のあらゆる情報は保護されている。裏世界においては『消失』の持ち主であろうと表世界の情報を改ざんできない。表世界の物に対してできるのは情報の閲覧と招待のみ。


 そう考えるとしっくりくる言葉が浮かぶ。


 サイバースペース。


 ここは天然のサイバースペースなのではないか。


「試してみるか」


 スマホの電源を入れる。ここが情報の集合体だとするならば、表世界と情報交換できるかもしれない。


 画面はついた。しかし、ネットワークに接続できない。『明鏡止水』が適用されていてもダメみたいだ。

 今度はスマホを複製してみる。裏と表でチャンネルが違うのはわかった。ならば、次は裏と裏で繋がるか試す。両方をペアリング可能状態にしたら、データは交換できるのだろうか。

 しばらく待ってみると、ペアリング状態がキープされた。


「よし。スマホ同士はつながる。明鏡止水があれば遠距離通信可能なはずだ。ケアエナジーに細工すれば裏世界でもウヅキさんと連絡を取り合えるぞ」


 もっとも、大人のウヅキさんが帰ってくればだがな。


「おっと、いけない。悪い癖や。ミステリーを前にして考え込んじゃったぜ。さて、土佐ザウルスくん。君の情報を解析させてもらってもいいかな。いいよ? ありがとう」


 裏世界にのみ存在する物体は情報が保護されない。存在消失させた物を傷つけられるのが、情報を保護されていないという証明だ。


 情報が保護されていなければ、『消失』の所有者はその情報を好きに改ざんできる。

 俺の仮説が正しければ、この土佐ザウルスの持つ情報を全て閲覧・編集可能。脳や魂に記録されていない履歴だって覗けるはずだ。履歴を見れば、誰が土佐ザウルスを仕向けたのかわかる。


 問題はどうやって履歴を覗くかだ。


「とりあえず細切れにしてみるか」


 ここには重力というものがない。あるのは重力という情報だ。


 だから、こうして、標本みたいに、輪切りに、切り刻んでも、ほらね。落ちない。


 ウヅキさんが見たら驚いて落としちゃうだろうな。これを落とせるのは『消失』所有者だけだ。所有者の想像力が重力を与える。


 座標が固定されているならばマナガスの自転公転に伴い、土佐ザウルスは俺から離れていくはずだ。しかし、そうなっていない。ちゃんと自転公転についてきている。重力の情報が土佐ザウルスに残っていて法則に囚われているからか、それとも属している星にピンを立てているからか、はっきりとした答えはわからないが便利だ。


「だんだんわかってきたぞ。やっぱり新しいことを学ぶなら、体験するのが一番やな」


 次の段階へ移るために近づく。土佐ザウルスが不可解な行動をした理由を知るために、土佐ザウルス本人さえも知らない情報を抜き取りたい。

 しかし、情報を抜こうとすると、どうしても記憶を読む技と混同してしまう。二つの技は似ているが違う技なので、イメージを区別しなければ上手くいかない。

 だから慣れるまでは動作を加えて区別する。本人さえ知らない情報を抜き取るイメージ。例えば、体毛を抜くイメージ。体毛のDNAに刻まれた遺伝子を抜くイメージ。遺伝子の保管庫から本を抜くイメージ。


 イメージを固めながら近づく。滑らかな表皮に触れる直前、全身が警報を発した。


 反射的に飛び退き、大量の光をぶつける。壊しはしない。ただ調べるためだけの光だ。

 直後、輪切りにした肉の一枚が飛び出し、空中で爆散した。

 やったのは俺じゃない。いったい何が起きたんだ。


 土佐ザウルスの不可思議な行動の理由がここにある気がして、万全の態勢を取る。キエフ公国戦で使用したスーツを着用。スパルナを分離して天と共に地球へ避難させた。


 打ち上げ花火が終わった後の静かな余韻が残る灰色の空。その空の下で、不気味に輝く銀の球体を見た。


 おかしなことに球体は回っている。俺はそんなイメージを球体に与えていない。

 もしも、あれが意識を持たない無機物だったなら。自動操縦型のロボットだったなら動くだろう。起爆直後の爆弾が爆風を広げるように。スマホアプリが使えるように。イメージを与えずとも動く場合はある。


 今一番の疑問は、その銀の球体がどうして土佐ザウルスの中から出てきたのかということだ。


 その正体を知りたいが、球の表面が光を反射して透過しない。これじゃ調べたくとも調べられない。ありえないレベルで情報が保護されている。

 研究所に持ち帰って詳しく調べたいところだが、地球への害を考えると安易に移動させられない。


 安全性を考えるならば、この場で解剖するのがいい。それに、ここまで高レベルな物体の正体には見当がついている。


 触手を使えボクちゃん。まずは触ってみよう。光を当てただけじゃ何も反応しなかった。ここはひとつ、一か八かで触れてみる。なにか反応があるかもしれない。


 触手を飛ばし、回り続ける銀の球体におそるおそる触れる。次の瞬間、包丁でりんごの皮を剥くみたいに頭の天辺から球体が開いた。皮は銀の刃となり、螺旋を描いて周囲を切り裂きながら伸びた。


 物を透き通っただけじゃない。切り裂いたのだ。情報が保護された裏世界の物質を切り裂いた。一見何の変化もないようだが、俺にはわかる。

 ほら、表世界の防護柵が崩れた。恐ろしい切れ味だ。ここまで見たらもう間違いないだろう。


 あの球体は魔法金属だ。そうとしか考えられない。銀の刃は伸びこそしているが、総量が増えたわけではない。刃の伸びが増えるごとに球体の体積が減っている。銀の皮が剥け、2周目に入った頃には球体の下側に空洞ができた。


 縄跳びの要領で刃を躱しながら近づく。球体の真下へスライディングして、下から空洞を覗いた。


 ち◯ぽが見えた。


 球体の中に人がいる。いや、こいつを人と言っていいのか。

 足が鳥みたいに角質の皮膚だ。太ももから灰色の羽毛が生えている。股間のまわりだけ羽毛が抜かれていて、見せつけるようにいちもつを晒していた。


「マナガス人? いや、違う。知っているぞ。こいつ『始善神トナカテムナー』だ。なんで土佐ザウルスの中にこいつが?」


 始善神トナカテムナー。またの名を『ポコ珍鳥』。俺が今名付けた。本名は言いにくくていけねー。


 ポコ珍鳥は鳥とヘビの複合体みたいな見た目だ。言ってみれば、恐竜人間みたいな感じ。ここへ来る前に獲物を丸呑みしてきたみたいで、ぽっこりとお腹が出ている。


 輪切り肉の中から出てきたってことは、土佐ザウルスと一緒にうっかり存在消失されたらしい。だが、存在消失には制限がある。俺の戦闘力を下回る物体しか消せないって制限だ。


「ちゅーことは、ポコ珍鳥が俺より弱いことは確定ってわけね」


 気になるのはポコ珍鳥がどんな特殊能力を持っているかどうか。『消失』持ちかどうかだ。

 今のところわかっているのは、銀の球体が裏世界で通用する武器だということ。こいつがその所有者かどうかまでは確定していないが、それもすぐにわかる。


 やったれボクちゃん。そいつを実験台にするんだ。


「よし。おめぇの魂いただくぜ」



 ビュンっ!


 ボクちゃんの声に反応して銀の刃が加速した。

 間違いない。明確な意思を持って反撃している。だが、ポコ珍鳥は空中で固まったままだ。『消失』持ちじゃない。

 果たして、この状態でものを考えられるのだろうか。武器そのものに意志があるのかもしれない。あるいは、武器に意識を移せるのか。


 試しに武器の性能を見破ってみるか。



──────────────>

【LV.MAX】

【種族】始善神

【重さ】     120

【戦闘力】MAX:10^24

【タフネス】   10^24

【魔力】     10^24

【スペック】

『太陽神』『嵐の神』

『雨の神』『豊穣神』

『竜王』『蛇神』

『実を平らげし者』『悪食』

……………

………

『針の世界の支配者(禁)』『明けの明星』

〈スキル〉

〖大魔王〗〖武芸百般〗

〖時計職人〗〖地図士〗

〖料理王〗〖薬師〗

〖光学迷彩〗〖念力〗

〖見切り〗〖看破〗

……………

………

〖生命礼賛〗〖硬質化〗


──────────────>



 なんか、別のが見えた。長すぎて読み飛ばしちまったけど。これ、ポコ珍鳥のステータスか。


 出会ってきたマナガス神はみんなステータスを隠していたのに、なんでこいつだけさらけ出してんだ?

 こいつは特殊性癖なのだろうか。その可能性は十分にある。なにせ露出狂だしな。


 ステータスだけ見ればドラゴンより弱いな。確か、ポコ珍鳥は南半球の大陸で伝わっているヤマスカ神話に登場する神で、信者の間では万物の主として扱われていたはず。しかも、ヤマスカ神話に出てくる最高神の親だ。それがこんなに弱いなんて、本来なら隠したい情報だろうに。


「こいつのステータスなんて見ても意味がねぇ」


 本当に見たかったのは武器の性能だ。しかし、見えない。『冥府送り』の性能は見れたのにこれはダメみたいだ。武器の性能がわからないなら、身をもって調べるしかない。


「試しに触手を切らせてみるか」


 ジャキンっ!


 かなりの抵抗はあったけど、触手を切らせることができた。こっちからも力を加える必要はあったが、不滅の体を切っちまうなんてすごい武器だ。

 おそらく『冥府送り』と同じように、能力付きで貰った武器なのだろう。能力付きの魔法金属武器というのは、極娯楽神が天使神カブジールを通して与えたものだ。だから強い武器はトコトン強い。

 そういった武器は、強い能力が付加される代わりに形状変化へ条件が付く。『冥府送り』が音声認識機能だったように、銀の球体にも形状変化の条件があるはず。


 その条件については大かた予想がつく。


 というか、選択肢が少ない。追尾機能か、自動防御機能か、この状況を説明できるのはどっちかだろう。

 まぁ、どっちでもいいか。とにかく今一番大事な情報は、銀の球体が俺を切れる武器だってことだ。正しくは、『なんでも切れる』武器ってところだろうか。性能が見れないのも、ステータス看破のスキルそのものを断ち切っているからだろう。

 裏世界にありながら、表世界の物体を切ったのだからそうとしか考えられない。なんでも切れるなら〖存在消失〗の効果も受けないはずだが、裏世界への招待が断られていないのは爆散した土佐ザウルスの肉が証明している。つまり、〖存在消失〗を受けたから起動した。もしくは切る対象を選べるのかもしれない。


 いい獲物と出会ったな。このまま倒してもいいが、一旦、表世界に帰してやろう。



 音なき世界に雨音が戻る。重みで沈んだ土が足の側面を撫で、跳ねた泥水がふくらはぎを濡らした。


 銀の刃が足もとを通り抜ける。遅い遅い。この速さならハエでも避けられる。


 黒紫のオーラを身に纏った次の瞬間、数段と速度が上がった。ポコ珍鳥が俺の出現に気づいたらしい。刃の回転数が上がる代わりに形状変化が止まった。


 切り裂く速度が速すぎて、防護柵が甲高い悲鳴を上げている。流石にこの斬撃をハエが避けきるのは無理だ。

 壊れたドリルみたいにグニャグニャ曲がった歪な刃が、フードプロセッサーよりも速く回転するわけだ。中に囚われたら最後、ミートソースに早変わりしちまう。


 突然、銀の球体の天辺から激臭のする黄土色の液体が噴水のように噴き出した。防護柵の外にいたモンスター達が吸い込まれてミキサーされたみたいだ。


 掃除機と肉挽き機が合体した殺人マシーンか。一見、上の排出口から侵入すればポコ珍鳥に辿り着けそうだが、間違いなく罠だ。弱点をそのままにするわけがない。

 だから、あえて過酷な下を行く。ただ、このまま行くのは不安だ。行く前に安全性を確かめたい。試しに俺の切り札〖黒紫のオーラ〗が通用するかどうか調べよう。

 オーラで包んだ触手を伸ばして、銀の刃に突っ込ませてみる。


 ジャキンっ!


 うん。俺の切り札が切り刻まれた。こいつはやばい。どうしよう。下はやめて、上から行くか?

 いいや。この程度のことでへこたれたりしねぇ。頑張れボクちゃん。考えろ俺。


 よし、決めた。上から行こう。きっと罠だろうが、罠を躱すためにわざわざ過酷な道を選ぶ必要なんかない。罠を用意するなんて、ひょっとしたら俺の考えすぎかもしれないしな。


 頂点まで飛んで上から覗いてみよう。


 ビュン!


 移動中にやられるかと思ったけど、相変わらず回転しとるわ。もしかして俺の姿が見えないのか? 

 ……わかんねぇ。安易に決めつけないほうが良さそうだ。それにしても臭えな。下水道にいるみてぇだ。

 天辺の排出口からミートソースを吐き出したあと、地面に落ちたミートソースを再び吸い上げている。これじゃあ、無限に噴水が続くんじゃねぇか。

 しかも回転数は上がり続ける。吸引力も上がって、吸い込む範囲はダンジョンゲートにまで届き始めた。岩の下に隠れたモンスター達も岩ごとミートソースにされている。このまま回転を止められなかったら、地球の生き物までミキサーされちまうかもだ。


 一刻も早く止めなきゃなんねー。でも、噴水の勢いはいまやダムの排水だ。俺は全身が鼻みたいなもんだから、この中に入らなきゃなんないと思うと躊躇っちまう。味覚は良くても嗅覚まで切るのは危険だし。


 しっかりしろ。ダンジョンゲートのすぐ外で天とスパルナが待っているかもしれないんだ。ウジウジしてらんない。


 ただ、やっぱり直接行くのは不安だ。触手だけ突っ込んで、ポコ珍鳥を上から引っ張り出そう。


 触手の形を5本指にしてグッドポーズを作る。

 いけ、触手。ポコ珍鳥を連れてこい。


 ジャキンっ!


 手首から先が無くなった。手首があったところには、スパッと綺麗な断面ができている。これではっきりした。やっぱり上もダメみたいだ。どうしよう。

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