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44-2 さあみんな、墓を掘り起こしてくれ ※ステータスあり

 墓穴から棺桶を掘り出した小人たちが続々とブート夫妻のところに集まった。お通夜のような空気を感じ取ってざわついている。

 さっきまで元気に母乳を飲んでいた赤ん坊がぐったりとしている。何かよからぬことが起きたはずだ。しかしブート夫妻にかける言葉が見つからない。返事が怖くてたずねられない。


 その頃、荷車ではディスカッションが始まっていた。議題は『天とクロッグの両方を救えるか』。

 議論をスムーズに進めるため、輪廻転生の仕組みと天とクロッグの関係について情報を共有する。女4人はそれを聞き、最初にヤヨイが見解を述べた。


「天ちゃんだけ生かせばよくなーい?

 ケーちゃんはそう思ってるんでしょ。公安から聞いてるわよ。小人の命なんてなんとも思ってないんだってね」


 ヤヨイはケーの【仕事モード】を知っている。任務のためなら感情を殺して、どんな命も犠牲にできるモード。その【仕事モード】を生み出した経緯も知っている。だがそれを言い訳にはさせない。感情を封印したのはケー自身であり、そうなったのも人に判断を委ね続けてきたからだ。今また、人に判断してもらおうと聞きにきたわけだ。そんな軟弱者のいいようにさせてたまるか。


「あんまり意地悪言わんでくれよヤヨイさん。これは天とクロッグだけで終わるような小さな問題じゃない。もっとマクロな問題よ。それなりに生きた人間は天国か地獄で100年過ごす。だから生き返らせるときに魂を呼び出しやすい。でも赤ちゃんは天とクロッグのようになるはず。地球で沢山死んだ赤ちゃんを蘇らせると他の場所で別の赤ちゃんの魂が抜けちまう」


「……チッ。だから、そういうのが余計だっての。気に入らない。その神様気取りをやめなさいよ。全部アンタを利用したウチらの責任なのよ。なんでアンタが勝手に罪を背負おうとしてんのよ。ウチらから償う機会を奪わないでよ」


「償えるのは俺だけやんけ。それとも俺に代わって人を生き返らせることができるんか。できんやろ。罪を償う気持ちがあるなら、俺を手伝うのが筋じゃないんか?」

「はあ?」


「ダメダメ! ディスカッションなんですから喧嘩はやめましょう! 時間がもったいない!

 まずは目の前の問題を片付けましょうよ。赤ちゃんが両方助かる道を探すのは悪いことじゃないでしょう」

「……ウヅキっちの言う通りね」


「はいはーい。次はムーの番でーす❤︎ あのねー。どっちかの赤ちゃんに違う魂入れてみるってのよくない?」

「良いアイデアやな。赤ちゃんの器に合う魂が見つかればそれで解決するかもしれんな」

「ほんと!? ムーちゃん天才ってカンジ❤︎」

「魂って簡単に見つかるもんなんだか?」


 無言になったムツキがのっぺりとした怖い顔でユーキを見た。褒めてもらうところを中断されて怒っている。


「この辺にはおらんな。しょっちゅう赤ちゃんが死んでるわけじゃないもんな」

「呼び出すとかはできないんですか?」

「【クレイジークレイジーグレイブヤード】を使えば呼び出せるんやが、解除すると同時に魂が抜けるやろうな」

「じゃあ、ムツキちゃんのようにはならないってことですか?」

「わからん。そもそもなんでムツキが生きとるのかもわからんもん」

「ムーもわかんない❤︎」


 急に案が尽きた。魂のことを急に説明されてもピンとこない。新しい案がすぐ出るわけもなく荷車の中を沈黙が支配する。窓を覗くと墓場でケーを待ち続ける小人たちがずっと荷車のほうを見ていた。


「なんかひらめいたら降りてきてくれや。あっちで待っとるから」

「ムーも行く❤︎」


 ケーは荷車を降り、ムツキを連れて小人たちのもとへ向かった。墓場では息を呑む音が聞こえる。荷車の中から新しい怪物が現れて動揺していた。


「ケ、ケー。そちらは……?」

「この子はムツキ。俺の、せい、およめ……かみさん……」

「夫がお世話になってますー❤︎」

「ぱ、パートナーまでいたのか」

「まぁ……ね」


 そのときムツキは思い出した。サボとクロンプの左手薬指を見て、忘れていたことを思い出す。


「あー! 指輪!」

「ギクッ」


 小人に結婚指輪を嵌める文化はない。ケーに貰った指輪を偶然ブート夫妻が同じ指に嵌めていた。それを見てムツキの薬指が寂しくなったわけだ。


「ケーちん。結婚指輪が欲しくなっちゃうね❤︎」


 結婚指輪。プロポーズも婚約もすっ飛ばしたため、ケーの頭から抜けていた。


「せ、せやな」


 ケーは七本指を見る。アクセサリーなんてつける趣味は無いが結婚指輪は別扱いだ。結婚したら指輪を嵌めたいとは思っていた。


「あれ。そういえばロミさんと指輪交換してねーわ」

「じゃあムーが初婚だ!」

「難しい言葉知っとるんやな」


 ムツキは髪の毛をちぎり、粘土のようにコネると輪っかの塊を作った。


「手、出して❤︎」

「いいけど。俺って巨大化するから指輪が邪魔になるな」

「ケーちんなら模様にできるよね。ね?」


 ムツキは赤い肋骨を指で触った。出っぱっているがこれは模様だ。実際の骨ではない。


 押しに弱いケーは七本指を開いた。どれが薬指なのかわかったもんじゃないが、指輪はムツキが選んだ指に嵌められる。ズブズブと沈んで指輪と同じ模様が浮かび上がった。

 それを見てムツキはうんうんと頷く。そして次は自分の番と言わんばかりに指を開いた。


「お、おう。そうよな。交換やもんな」


 ブート夫妻と小人たちの前で何をやらされているのか。ケーは照れながらも〖結婚指輪(呪い)〗を作った。

 ムツキの髪製指輪とは違い、ケーの魔法金属製の指輪はサイズを自動調整する優れもの。その指輪は〖魔法の指輪〗と〖呪いの指輪〗の組み合わせだ。〖魔力の指輪〗を組み合わせないことでスキルを多めに付与している。


──────────────────>

【LV.44230】 ムツキ・スマイル・ダーク

【種族】 魔法金属生命体

【重さ】     44

【戦闘力】MAX:5×10^50

【タフネス】   不滅

【魔力】『極複製神の魔法金属』により無限


【スペック】

『極複製神の魔法金属』『ケーの魔石』

『輪廻者』『結婚指輪(呪い)』

〈スキル〉

〖拳王〗〖疫病〗

〖恐慌無効〗

〖猫の爪〗〖電撃〗

〖スーパー黄色人〗

〖硬質化〗〖念力〗

──────────────────>


「指輪に魔力を込めながらイメージするとスキルを使える。後で教えちゃるけんな」

「もーそんな照れなくてもいいのに❤︎ スキルとか誤魔化さないで、指輪交換の後はなーんだ」

「な、なんだっけなー」


 ケーは兄弟の結婚式に出たことがある。当然、式の流れは記憶している。


「もー、誓いのキスでしょ❤︎」

「大人になったらな……」


 ムツキは享年14歳。死んでから時が経っているため、生年月日だけみれば結婚可能な年齢だが未成年。『未成年』。その3文字にこだわるケーは躊躇した。ムツキを嫌っているわけじゃない。むしろ好きだ。自分を好きになってくれる人はみんな好きだ。好きだからこうして恋愛ごっこにも付き合っている。

 だが誓いのキスはおままごとじゃない。ただの好意ではなく、本気で愛する気持ちで挑まなければ失礼にあたる。口移しでもなく、ビジネスでもない。そういう意味では初めてのキスだ。


「怖がらないで。ムーを信じて」

「ケー。ケー。やっちまえよっ」

「覚悟決めなさいっ」


 ブート夫妻が小声で茶化してくる。周りの小人も棺桶のことなんか忘れて目をキラキラさせていた。どうやら寿命が短いせいか、小人という種族は恋愛脳が多いらしい。愛し愛される関係ならば年齢問わず婚姻が許される小人の価値観だからこそ、はっきりしないケーに対してイラついていた。


「墓場やぞ……」

「小さいことにこだわるなっ」

「私たちなんか他所の家の便所だったわよっ」


 ムツキは目を薄らと開けて待っている。黒い目の赤い眼光がしっかりとケーを捉えていた。


 こんな幼い少女が勇気を出しているというのに、なんとケーは臆病なのか。小人たちは呆れてため息を吐く。意気地なしとわかるや否やケーを恐れる者は誰一人としていなくなっていた。


 ムツキはたった数回の行動で周りの小人を味方に付けた。小人たちはケーにキスさせようとプレッシャーをかけている。


 周りから期待されるような空気にケーは弱い。だからこそ無理な要求をずっと断れずにいた。まだまだ自分の意志が弱い。状況に流されやすい。


 そんな昔の自分を乗り越えるチャンスが今だ。自分の意志を貫く姿勢を見せられるチャンスが今だ。


 そして、ケーは誓いのキスをした。周りのプレッシャーに押されて覚悟を決めた。気持ちは本物だが、まだまだ状況に流されやすい。裁判所の証言台に立つ自身の映像を思い浮かべながらキスをした。罪の意識がありすぎる。ムツキが警察に駆け込んだなら、逮捕されることもやぶさかではない。喜んで罰を受け入れる所存だ。


「ヒューッ!」


 パチパチパチパチ!


 墓場で盛り上がる小人たち。本来の目的を忘れて口笛を吹き、両手を叩いて祝っている。あまりに単純な思考回路。よく言えば陽気な連中だ。


「ケーちん。ムー幸せだよ」

「そうか。続けたいなずっと先まで。続くといいな本当に」

「ケーちん好き❤︎」

「……俺の気を引くために浮気するとかはやめてくれよ」

「ムーを信じて」

「信じてるから言ってんの。良く知ってるから言ってんの。寂しくなったらどうすんの。ずっと一人でいられんの?」

「ムーには友達ができたの。だから心配しなくて大丈夫❤︎」


「ほんじゃあ安心やな。よし! 帰るか!」

「ケー!」

「おっと忘れとった。そうやったそうやった。棺桶を並べろ。一気にいくぜ」


 ケーが帰ると言い出すまで小人たちも忘れていた。急いで棺桶を並べている。ケーも黙って見ているわけではない。並べられた先から棺桶の蓋を焼き切っていく。

 そして全ての蓋が開けられた。〖念力〗で浮かばせたミイラに触手が伸び、完全なる修復がかけられていく。そのなかには欠損したミイラもあったが、五体満足の状態まで戻してしまった。


「服を用意した方がいいかもしれん。死者蘇生」


 次々と息を吹き返す裸の小人たち。その親、子、伴侶、恋人、親友。それぞれ別々の関係性を持つ者たちが同じ感情で裸の小人を抱きしめた。

 小人たちに共通する感情は罪悪感。その場に居合わせただけで奇跡を受けるという恵まれた状況に罪の意識が芽生える。それでも笑顔は保っていた。この状況で一番混乱しているのは生き返った小人たち。彼らへ笑顔を向けて安心させる。

 なにせ、この世に再び生を与えた者は伝説上の天使でも神でもない。突如マナガスの歴史に現れた全く未知の怪物だ。その姿は絵本の悪魔や死神なんて相手にならない。最も恐ろしい神と教えられてきた魔海神エンカナロアをはるかに上回る異形だ。

 そんなケーを見たら誰だって……。


「キャー!」「うわー!」

「大丈夫」「落ち着いて」


 誰だってこうなる。側にいる小人がすぐ落ち着かせにかかった。もはやケーにとっては見慣れた光景だ。しかしムツキにとっては不愉快な光景らしく、暴れはしないもののジッと睨み続けていた。


「さあ、お礼はいいから帰って寝ろ。もし帰る途中で他の小人とすれ違っても、ここでの出来事を教えるんじゃないぜ」


 怯える裸の小人を連れて、感謝の言葉を述べながら小人たちが墓場から出ていった。残ったのはブート家とソフィアのみだ。


「クロッグはこのままにさせてくれ。ごめんなさい」

「そ、そんなっ。クロッグは生き返らないのっ?」

「解決策が見つかるまではそういうことになる。魂を付けたり剥がしたりするのは危険なんよ。わかってくれ」

「クロッグ……」


「しかし驚いたな。こんな偶然があるなんてな。何か運命的なものを感じるぜ」

「何が運命なものかっ。希望を持たせておいて、こんな結末があってたまるかっ。悪意しか感じない!」


「まぁ、なんか変な感じはするよな。できすぎっつーか。

 ……いや待てよ。そうか。できすぎか。覚えがあるぞ、この感じ」


 ケーには覚えがある。天が絡むと不思議な力が働くかのように偶然が重なる。そして、奇妙な偶然の裏にはいつも神の存在を感じた。


「ところでサボとクロンプはどんな神を信じてる?」

「急になんだ。神なんて」

「やっぱりジュフタータ四大神か。ムカエルとかも知っているのか」

「信仰する神は人それぞれだよ。確かに四大神と主神の信者は多い。この辺で一番信者が多いのは生命神アンカーネ様だな」

「ほんじゃあサボはアンカーネを信仰しているのか」

「いや違う。うちの家系は大陸の外から入ってきた。だから別の神を信仰してた。もう信仰は捨てたけどね」

「捨てる前はどんな神を信仰してたんや?」

「ずいぶんと深掘りしてくるな」

「大事やからよ」


「天使神だ。天使神カブジール」

「ああ。やっぱりそうか。なんかそんな感じがしてたわ……」


 これも天使神の呪いなのか。それとも極娯楽神がなんらかの試練を与えているのか。そう考えずにはいられなかった。


「しかしケーは一体何者なんだ。神について詳しいようだけど、伝説上の生き物なのか?」

「伝説って。そんなのあったらみんな俺のこと知ってるって。大昔に俺みたいなのがいたら大騒ぎだぜ。なんせマナガスで信仰されてる神を山ほど殺したんやしな」


「はははっ。ケーなら本当にやってそうだな」

「まぁ、そんなわけで伝説にはこれから書き加えといてくれや。最近地球で生まれた怪物って感じにな」

「暇になったらそのネタで作家になるよ」


 毎日欠かさず日誌を書くサボにはお似合いの職業かもしれない。不思議な体験を間近で感じた張本人であるし、遠くへの取材も〖スーパー黄色人〗があれば難しいことじゃない。


「作家かぁ。いいじゃんか。表紙は俺の絵で頼むぜ」

「あっ、それはちょっと……」


「あははははっ!」

「ぷっはははっ!」


 暗い空気を吹き飛ばすかのように二人で笑う。

 そんなとき、荷車からユーキが一人で降りてきた。青白く光る服を着た真っ白い髪の人間だ。反地球主義者には刺激が強い。


「地球人っ!」

「な、なんだっ?!」


 クロンプが怒りの形相でユーキを睨む。ユーキが子どもとわかると少し表情が和らいだが、それでも嫌悪感は隠しきれていない。


「その子は俺の仲間や。悪い子じゃないぜ。で、どうしたユーキちゃん」

「あ、うん。あの。ケージのことなんだけども

実はちょっと気になったことがあるだ」


「今はクロッグの話をしているの! 割り込んでこないで!」

「あぅ。あ、あの。関係ある話だ。あれ? アリルレさん?」

「ソフィア・カンモリと申します」

「そいつはアリルレに似てるだけの別人や。で、ケージがどうした」


「あの、ケージには誰の魂が入ってるだか?」

「そりゃあ……わからんな。なんなんやこの魂。気色悪いな。触手だらけだわ」

「それ、多分ケー先生と同じと思う」

「え、そう? もっと綺麗じゃなかったっけ」

「ううん。同じやと思う。もしも、先生が魂を増やせるなら解決するんじゃないかって、ヤヨイさんが」


 同じ魂であることを証明する方法。それはステータスを見ること。ステータスは物体だけでなく魂にも宿る。つまりケーと類似した能力を持つケージはケーと同じ魂というわけだ。ケーは既に魂の増やし方を知っている。


「なるほどな。でもそう考えると怖えな。俺は魂の状態でも生き物を殺したんよな。ケージも同じように魂の状態で有害になるかもしれん。ちょっと試すか」


 ケーはユーキの胸元に手を突っ込んでケージを掴む。胸元から引っ張り出すと〖黒紫のオーラ〗でケージを消滅させた。


「ケ、ケージィィ!」

「もうユーキちゃんにはいらんやろ」

「そんな……」

「さてと、ケージの魂はどこへ行くやろか」


 触手の生えた白い魂がふわふわと漂う。どこへも向かうことなく右に左に揺れている。


「ちょっとクロッグを貸してみ」

「な、何をするの?」


 膝をついたユーキを見て、何か良からぬ予感を感じたクロンプは強くクロッグを抱きしめる。


「大丈夫大丈夫。すぐ終わるけんな」

「クロンプ、渡すんだ」

「怖い、怖いわサボ」

「自分だって怖いよ。君と同じくらい。でもケーなら奇跡を起こす。信じよう」


 震える手でクロッグを差し出す。クロンプは最後まで別れ惜しむように指を伸ばしていた。


「今からクロッグにケージの魂を入れる。失敗したらクロッグは爆発するが安心しろ。散らばる前に修復するから」

「返して!」

「もう遅い。ケージの魂をクロッグに入れた」

「ああっ……」


 そして、クロッグの心音が鳴り始めた。

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