表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/243

43-2 アリルレ砦、第二都市グフロート

 森エリアでは火山エリアと同じような移動方法はできない。火山エリアよりもモンスターの密集率が高い森エリアでは、吹き飛ばされた木々による二次災害が甚大なものになるだろう。そのため、舗装された道に荷車を走らせるわけだが……

 亡者の群れが邪魔をした。ケーの〖墓守〗で蘇った亡者たちが数を増やして道を塞いでいた。


「忘れとったなこれ」


 ほとんどはダークエルフの兵士だが、中には難民と見られる亡者もいた。砦を頼ってきた難民たちを襲って勢力を拡大していたのだ。これが〖墓守〗のデメリットだ。


 釣り針状の触手を飛ばし、亡者の魂を次々と冥界へ送っていく。ただし、兵装した亡者のみを冥界へ送る。難民の亡者は捕まえて寄せ集めると、修復をかけて完全復活させた。


「復活おめでとう。すまんけど俺がしてやれるのはここまでや。生きたいならば砦を頼れ」


 無理矢理生き返らせられた者たちはお礼も言えずに悲鳴をあげて逃げていった。そんな慌てようでもケーの話はしっかりと耳に入っていたらしく、その足は砦へ向かっていた。


 その後も移動の途中で難民の亡者と出会うことがあった。砦を離れるにつれて数は少なくなるが、残していれば被害は増えるだろう。


「らちが明かない」


 移動は遅れるが、全身から糸状の触手を広範囲に伸ばして砦周辺を探知する。これならついでにムカエルも捜せる。だがあくまでついでだ。今は亡者の後片付けを優先した。


 周辺の亡者は全て片付けた。元難民と見られる亡者は全て捕らえ、復活させてから砦に放り込んだ。残念ながらムカエルは見つからなかった。


 もしかしたらムカエルは火山エリア方面に逃げたのかもしれない。そんな考えがよぎるも違う気がした。リスクを嫌うムカエルがケーのいる方向へ近づくだろうか。魂だけになって心変わりする者もいるにはいる。それでも新しい肉体を危険に晒すようなギャンブル中毒者に心変わりできるだろうか。


 もしも今のムカエルに海を越える力がなかった場合、昔のジュフタータ大陸は草原で行き止まりだ。だが今のジュフタータ大陸に行き止まりはない。なぜなら地球への道が切り開かれているからだ。少しでも可能性のある方へ進むのならば、行き先はダンジョンの最奥ではない。博多だ。


「ケーちゃん……ひとつ聞きたいんだけど」


 探知の終わりぎわに荷車からヤヨイが降りてきた。話があるらしく、ケーと二人きりになりたいそうだ。ケーは了承し、立ち上がって移動した。亡者がいない静かな場所であまり穏やかではない二人が座り込む。


「あの寄生虫。思索中って……なに?」

「気づくよなぁ。さすがヤヨイさんだ」

「やめて。絶対に」


「安心しろって。オリビアには成虫をやったけども。地球のみんなには卵の状態で届く」

「やめて!」


「ヤヨイさん。怖がらなくていい。痛くもないしX線にも写らない」

「どうなるのよ。あれに寄生されたら」

「それを思索中ってわけよ。色んな機能を付けられる。ヤヨイさんも一緒に考えてくれるなら頼もしいぜ」


「オリビアさんみたくアンタのアンテナにされるのはごめんよ。絶対にやめて」

「あれは特別性……と言っても無駄か。むしろ信用を落とすか。詳細に説明しよう。アンテナ機能を付ける相手は選ばなきゃならん。雑音は増やしたくないんよ。少なくともムカエルを排除するまではな。だからアンテナ機能は最小限にする。ヤヨイさんには付けてやってもよかけど。どげんする?」


「やーよ。プライバシーは守って。てゆーかマジでやめて。せめて選ぶ権利があるはずでしょ。ケーちゃんが守りたいのは弱者の権利だったはずでしょ。ウチらから選ぶ権利を奪わないでよ」


「うーーーん。その意見は一理ある。

 弱者に権利と強くなる機会を与えることが俺の宿願だったもんな。でも一つ心変わりがあったんよ。権利は与えられるもんじゃない。勝ち取るもんや。だから権利が欲しいなら俺に勝つ以外にないな」


「ちょっと考えさせて」

「ええよ。どっちが先に考え終わるか競争やな」


 ヤヨイは荷車に戻った。その後ろ姿を見て、ケーは思う。車内に自分の味方は何人残るだろうかと。


「いいさ味方がいなくても」


 ユサユサと金の揺かごが揺れた。


「そうだよな相棒。おまえらがいる」


 ケーも荷車のもとへ戻る。気持ちを切り替えて荷車のハンドルを握った。再出発だ。亡者は全て始末した。もう振り返らなくていい。


 邪魔な木々を黒紫食いで除去し、荷車が通れる最低限の幅を作って直進する。

 目指すは都市グフロートの西口。以前ケーが利用した南口には向かわない。荷車が通れないからだ。

 渓谷エリアにあった南口とは違い、グフロート西口は森エリアにある。

 深い森を進むと大きな川の本流が荷車の行く手を遮った。この川の向こう側にグフロートを隠す山がある。


「ちょっと揺れるぜ! 何かに掴まれ!」


 ケーは巨大化して荷車を持ち上げた。岸から岸へ、たったの一歩で渡ってしまう。

 荷車を置くとすぐに縮んだ。しかし、元の体格よりも大きい。高さは3メートル。横幅は荷車よりやや小さい程度。この大きさが運ぶ時のベストサイズだと気づいた。


 川を出るとまた深い森を進む。周囲からモンスターたちが威嚇する声も聞こえてきた。しかし襲いかかろうとする気配はない。彼我の実力差をわかっているらしい。早く出ていけと急かすように鳴いている。


「しゃーしぃなぁ。あんま鳴くなよなぁ。客乗せてんだからよぉ」


 愚痴をこぼしながらも追い払うことなく進んだ。進路上の障害物を黒紫食いしながらの移動は獣を脅かし森を騒がせる。


 当然、巡回中の小人衛兵が森の異変に気づかないわけもなく、騒ぎの中心へと近づいていた。

 小人衛兵は木の陰から覗く。そこには西口の方角へと荷車を運ぶ絶望の権化がいた。障害となる木々や岩を消滅させながら真っ直ぐと進んでいる。

 歯をガチガチ言わせる小人衛兵。このままだとグフロートが危ない。このことを知らせなければ準備もなくアレとぶつかってしまう。木靴を履き直し、武器を捨てて駆け出した。



 小人衛兵の視線に気づいていたケーはそれを捕まえることなく行かせた。一緒に行こうが行くまいが結果は同じだ。ケーはグフロートに入り、ブート家と会う。その過程で街の守りが固くなるか、歓迎ムードになるかの違いでしかない。


「巡回してたってことは近いな。そろそろ着くぜ!」


 その言葉通り、しばらく進むとトンネルが見えた。


 山に掘られたトンネルの先がグフロートの西口だ。もしもトンネルに何か仕掛けられていて、通過中に天井を崩されたら生き埋めにされる。ケーなら無事だが荷車には客がいる。

 トンネルの入り口に荷車を停め、車内の女たちに呼びかけた。


「おめぇらはここで待っとってくれ。トンネルを崩される可能性があるけんな。俺が先に行って話を付けてくる。モンスターが襲ってくるかもしれんけど戻るまで耐えてくれよな」

「いってらっしゃーい❤︎」


 返事をくれたのはムツキだ。車内では激しい論戦が起きていた。喧騒にかき消されず、ケーの声はちゃんと届いていたようだ。車内にいるのは猛者たちだから心配無いだろうとトンネルへ向かう。


 トンネルの入り口には門番も立てておらず、中は静かなものだった。明かりとなるものは光るコケのみ。うっすらとしか照らされておらず、足元は見えない。実家のダンジョンを思い出させるような薄暗さだ。


「あー! やっほー!」

『あ゛ぁあ……やあ゛っぼぉおお……』


「あははははっ!」

『ドァグァグァラッラッラッ……』


 少年のようにトンネルの反響音を楽しむケー。


 その声はトンネルの向こう側にも届いていた。


「あっあっ……あぅ。あくまが来るって。本当だったんだ……」

「なぜ……なぜ我々なのだっ。外の任務は我々の仕事じゃないだろうがっ。外回り担当の第一部隊が引っ込みやがてちくしょう!」


 巡回から帰ってきた第一部隊の衛兵による緊急事態の報告を受け、西口には衛兵隊第二部隊が配備された。第一部隊は領主とその夫人の警護を担当し、現在グフロートの南口へ輸送中である。


「兵長、どうするんですか。まさか戦うなんて言い出しませんよね」

「報告通りの怪物なら、我々の抵抗は無意味だっ。人を乗せる荷車を引いていたということは、荷車にその主人が乗っているはずだ。怪物の主人に知性があることを信じて、話し合いに持ち込む以外に時間を稼ぐ方法がない。とにかく歓迎の姿勢で挑むぞっ」

「でも領主が……」

「その通りだっ。話し合おうにも領主がいない。相手が気分を害される可能性は大いにある!

 真っ先に逃げやがってちくしょう! それでもやるしかないんだちくしょう!」

「お供します」


 ゲタ兵長の髪の毛がまた抜け落ちた。もう地肌が見えている。

 ゲタ兵長の髪の毛はストレスで減り続けていた。帰ってきた英雄たちの所属が再編成され、第二部隊の人員は増えた。しかしゲタ兵長の負担はそれほど減らなかった。勤怠管理、給与計算など通常業務に加えて、増えた人員の育成と重大犯罪の捜査もある。新しく第二部隊に配属された者のほとんどは志願兵として戦場へ赴いた世間知らずの若者ばかり。一から教えなければ棒立ちの状態だった。

 あまりにも仕事が多すぎる。そこでゲタ兵長はサボに役職を与えて分担するようになった。今までもそうしたかったが、夫人が相手ではどうにも昇格審査を進められず引き伸ばしになっていた。領主が戻るとすぐにサボは昇格させられた。


 ゲタ兵長はサボをすぐ側に置いている。仕事を覚えるまでは一緒に行動させる。この緊急事態を二人だけで乗り切れるとは思えず、第二部隊の連中も全員集めた。二人を除いた全ての隊員にクレイン国旗を持たせて並ばせている。


『ドァッグァグァグァ! ドァッグァグァグァ!』


 暗闇の向こうから聞こえる終末の音。それが段々近づいてくる。終末の音はトンネルを揺らし、天井のホコリを落とした。トンネルの崩落を想像してしまうほど、心が圧し潰される音だった。


 終末の音は近づいてくるが足音は聞こえない。サボは「まだ遠い」とみんなに声をかけ、自身の心も落ち着かせる。


 だがすぐ来た。足音を鳴らさずに来た。うっすらと光渦巻く混沌の怪物。怪しく光る六角形の目。はっきりとは見えないが確実に存在している。


 横一列に息を呑む音がした。何かのきっかけがあれば逃げ出しそうな空気だ。


「兵長……後ろ……」

「ああ。荷車がない。どういうことかわかるか?」

「あの怪物の主人は我々と話し合う気がない。そう考えられるかと」

「じゃあ、あの怪物は何しにきた?」


 交渉の余地を与えず、武力だけを送り込んだということは戦う意志しか感じられない。だが戦っても小人に勝ち目は無いだろう。怪物が攻撃を開始すれば一方的な虐殺になる。鍛えた者であればあるほど感じられる。小人と怪物の間にある絶望的な戦力差を。


「言葉にしたくもありません」


 ついにトンネルを抜け、怪物が日光に照らされた。想像以上の出立ちだった。暗闇に居てくれた方がまだ安心できた。


 小刻みに揺れるクレイン国旗。逃げ出すかと思えばみんな笑顔だ。口角から白い泡を吐き出すほど緊張しているのに表情を笑顔で固めている。一目で理解したのだ。逃げられないと。顔に張り付けた作り笑顔が精一杯の生存戦略。


「サボ……」


 ケーがつぶやいた。だが誰もそのつぶやきを聞いていない。


「よ、ようこそおいでくださいました!」


 ゲタ兵長が恐怖を押し殺して怪物を歓迎する。感情の切り替えに要したストレスは頭皮に多大なダメージを与え、頭から髪の毛がバッサリと抜け落ちた。もう一本しか毛が残っていない。


 怪物は大きすぎる。ゲタ兵長の身長は怪物の腰あたりしかない。見上げる小人たち。下から見ると非常に怖い。怪物に見下されると更に怖い。


 怪物は何も応えずにゲタ兵長の頭を眺め続けた。友好的かどうかわからないが、少なくとも止まってくれている。

 衛兵たちは次の行動を待った。第二部隊の任務は住民を避難させるまでの時間稼ぎでもあるのだ。相手が止まってくれるのならば、自分たちから怪物を動かす理由もない。


 汗だくで笑顔を貼り付けたままのゲタ兵長。その頭から最後の一本が舞い落ちたとき、怪物がついに口を開いた。


「よお、久しぶり。ゲタ兵長。髪型変えた?」

「はえ?」


 ケーは両角を伸ばし、真下に向けて突き出した。ゲタ兵長の頭から血飛沫が舞う。


「ぎゃあああああ!」

「「キャーッ!」」


 女々しい悲鳴が広がった。任務を放棄して逃げ出す者まで出てきた。ゲタ兵長がケーを引きつけている間に自分だけ助かるつもりで逃げた。


「これでよし」


 ゲタ兵長の頭から角を引き抜かれた。角に付着した血を振り払うと角がもとのサイズに戻っていく。


「あっあっあっ……頭ぁ……」


 顔面を血で染めたゲタ兵長は震える両手で頭に触れた。痛くない。怪我もない。その代わり、指に絡みつくような抵抗がある。


「カミ?」


 パンパン、とケーが手を叩いた。すると血まみれだったゲタ兵長から血の汚れがすっかり無くなった。


「どんな髪型だったか忘れちまったから、あとは自分で調整してくれ。手で揉みながらイメージすると髪の長さを変えられるからよ」


「あ、あなた様はいったい……」


 ゲタ兵長は混乱した。予告もなくグフロートに攻めてきた怪物が喋り始め、自分の名前と共に「久しぶり」と言った。しかも髪を授けてくれるなんて全く想像していなかった展開だ。


「俺の名前はケー。またの名をレッド。数日ぶりやなサボ。クロンプは元気か?」


 サボは逃げなかった。恩人の危機を目の前にして背中は向けられず、しかし助けようと前に踏み出すこともできず、足が絡まって転倒した。それからはもう腰を抜かして起き上がれなかった。


「本当に……ケー? こんな……」


 次の言葉が出なかった。まさか半月近くもこんな怪物の面倒を見ていたなんて。そんなことは言えない。ケーの機嫌を損ねかねない言葉は口が裂けても言えなかった。


「さあ、立ってくれ。家に帰ろう。クロンプにも会いたい」


 大きな手のひらでゲタ兵長とサボを立たせる。二人の背中を押して歩行を補助した。


 ゲタ兵長とサボの表情は暗い。正体を明かされても安心できない。ケーに歩かされる二人の姿は死刑執行を告げられた受刑者のようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ