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32-幕間4 博麗隊、その後 ※ステータスあり


「で? 結局ケーさんは何をしたんだい?

 まさか嫌われたショックでケーさんを侮辱したんじゃないだろうね?」


「ケーちゃんはね。日本の構造をぶっ壊したのよ。

 国民投票で憲法がガラッと変わったこと。あなたたちの年齢なら、選挙権は無くてもニュースは見てるはずよね。

 舞台裏ではケーちゃんが官僚を引き連れて国政政党の本部に乗り込んだり、日本中の報道局に挨拶回りして憲法改正は素晴らしいとアピールする広告を打たせたりしてたの。邪魔されないようにわざわざ海外に渡って超有名企業へ釘を刺したりと、まあケーちゃんはそこまで考えられないから参謀に依存してたんだろうけど。

 その結果、反対少数で天皇が国民から主権を取り戻したわけ。混乱を避けるために省庁の役割はこれまで通りだけど内情は別物よ。今や宮内庁長官が内閣の任免権を握っているわ」


 それの何が大変なことなのか、博麗隊にはさっぱりわからなかった。

 明治維新後のように内紛や内乱もなく殺伐としていない。自殺数や犯罪件数は年々減少傾向。貧困問題に関心が高い健全な経済状態だ。

 議員はこれまで通り選挙で選ぶし、国民審査は相変わらず形骸化している。反政権があり、集団示威運動や抗議活動にも寛容な社会だ。それなりに自由を享受している。

 しかも最終的に国民投票で決まったことだ。不正が見つかったなら文句の言いようはあるが、周りの大人は結果に納得しているらしい。


 どう考えても、やはりヤヨイが何を恐れているのか博麗隊の三人にはわからなかった。


「何をきょとんとしているのー。まあいいわ。どうせこの先アンタたちはその身を持って知ることになる。善良な人間に近づくほど破滅するってね。

 言っとくけどもう抜け出せないわよ。でも、ついて行く人を選ぶことはできる。じゃあ行きましょうか。ついてくるならさっさと一人選んでちょうだいねー」


「おい! 勝手にハナシ終わらせようとしてんじゃないよオバサン!」


「……あ゛?」


 やらなくてもいい忠告を懇切丁寧に教えてやって、そのお礼がオバサン呼ばわり。これにはヤヨイも流石にキレた。


「誰がオバサンだコラぁ!」


 次の瞬間、サキの身体が上空へぶっ飛んだ。



 サキのターン。いつでも殴られる準備はしていたため、ガードは間に合った。

 だが重い。ガードの上から身体の芯を貫くような重い衝撃が叩き込まれた。地面に踏ん張ることもできずに宙を舞った。


 はじめてのスカイダイビング。命綱なし。サキは落下しながらケーの言葉を思い出していた。


『本当にようやった。こんだけ強くなりゃあ、簡単には殺されねえ。

 でも油断すんなよ。世の中にはおめぇら三人を同時に相手にできるほど強え人間が何人もおる。ロミ少佐もその一人。ただ基礎ステータスで言えばおめぇらは非公式ワールドランキングトップ5入りや。人間にはステータスに限界があるからな』


(人間にはステータスに限界があるだって? この威力で!?)


 そんなことを考えながら、一点に集中させた火炎のオーラを真下へ噴射。炎魔法を感覚で使って推力の方向を補助する。


「親切に忠告してやったってのに何その態度。おしおきしてあげる」

「もう殴ったのに!? まだやるんですか!」


「アンタもおしおきされたいの?」


 二人の喧嘩をハナマルが仲裁しようと一歩踏み出したが、おしおきと聞いて二歩さがる。


 今の一発では気が済まないらしい。ヤヨイはクリーンヒットをお望みだ。おしおきと称するストレス発散が始まる。


「先に殴ったのはそっちだ! ボコられても文句言うなよ!」


 サキは炎を噴射して空中で方向を変えた。高い位置からヤヨイ目掛けて突っ込んでいく。

 あえて抜刀はしない。相手が素手なら素手で応じる。それが喧嘩の流儀というものだ。



 ヤヨイからしてみればサキの特攻は自滅行為にみえた。加速しながらほぼ垂直に落下してくるわけだから、その特攻を躱されたら地面に衝突して重傷を負うだろうと若干心配した。


 ヤヨイの実力ならばサキの特攻を避けずに待ち、衝突の瞬間を狙って柔術で威力を殺しつつ横に投げることができる。そうすればサキを特攻による自滅から救えるだろう。


 だがヤヨイはスパルタ教育でいく。


 ヤヨイは大きく飛び退き、サキを自滅へ誘導した。


 ドォーーン!!!

 

 爆撃のような地響きが鳴った。


 爆心地に砂埃が立ち、サキの姿が見失われたと同時にヤヨイが身構える。


 ドオン!


 再び爆発音が鳴る。サキが砂埃から飛び出してきた。指先からロケットエンジンのように魔力を燃焼させて加速している。


 ヤヨイは猫足立ちの構えで迎え撃つ。


 サキの頭突きがヤヨイに届く直前、完璧なタイミングで回し蹴りが飛んだ。


 サキは地面を転がる。またもや攻撃を外された。負傷した二の腕を庇いながらサキが起き上がった。


『ステータスは勝ってるよマム! いける!』


 ペットのケーゾウがサキを励ます。負傷した箇所をケーゾウが癒した。


「どのくらい差があるんだい?」


 無理をしすぎて魔力も気力も尽きかけてる。しかしこうなったら意地でも一発殴らないと引けなくなっていた。卑怯でもケーゾウの力を借りるつもりだ。


『視界共有するよ!』


 ケーゾウはサキの頭に『極娯楽神の植毛』を突き刺して、視界の映像を送りつけた。


 サキのステータスをおさらい。

【LV.300】

【戦闘力】MAX:21050



 そして、気になるヤヨイのステータスは……。


──────────────>

【LV.5603】

【種族】ヒト

【重さ】     60

【戦闘力】MAX:15060

【タフネス】   13560

【魔力】     5543

【スペック】

『限界到達者』『魔拳』

『竜殺し』『針の世界の入門者』

〈スキル〉

〖拳王〗

〖高速思考〗〖威風堂々〗

〖見切り〗〖不老〗

〖魔力変換〗〖高速移動〗


──────────────>


 ヤヨイの戦闘力は 15060。

 サキの戦闘力は  21050。


 戦闘力の差は子どもと大人どころか、赤ん坊と熊くらいの開きがある。

 だが一方的にやられているのはサキの方だ。


 ヤヨイのステータスに記載されたスキルはどれも強力だ。


 自らの努力によって獲得できる〖拳王〗〖高速思考〗〖威風堂々〗。それらは身体能力や技の威力の向上、脳機能の向上、精神攻撃への絶対耐性を与える。


 レベルアップと先天的な才能によって獲得した〖見切り〗。それは直感力の補助。気づきとひらめきの能力を倍増させる。


 戦闘力の限界に到達した称号『限界到達者』により獲得した〖不老〗。年月を経ても衰えない。

 同じく『限界到達者』により獲得したユニークスキル〖高速移動〗。法則を破り、イメージ通りの速度を出せる。ただし速度に耐えうるタフネスが必要。


 ドラゴンを殺した称号『竜殺し』で獲得した〖魔力変換〗。魔力を戦闘力とタフネスの底上げに使用できる。魔力による能力底上げは単純な足し算ではない。技術により発揮される力は何倍にもなる。


 『限界到達者』によるボーナスで獲得したユニークスペック『針の世界の入門者』。時が止まる。ただし、それなりの魔力を消費する上、タフネスの数値が制限時間。体重の数値が次に使用できるまでのクールタイムとなる。



 ケーゾウから送られてきたスキルの詳細を知って、ヤヨイの強さに納得した。

 この間、わずか0.1秒。

 サキの目の前には拳を振りかぶったヤヨイの姿があった。


 ガードどころか思考すら間に合わない。サキは腹に痛恨の一撃を受け、水平に飛ばされた。背後には樹木がある。ぶつかればまた負傷してしまう。しかしブレーキに使うための魔力が足りない。


 ドスン!


「ガハッ!」


 負傷した部分をケーゾウが即座に治療する。チートな自動回復能力を装備していても痛みが残っている。


 復活後まもなく笑顔のヤヨイが間合いを詰めてきた。丈夫なサンドバッグを見つけたとでも思っていそうな表情だった。


「一発喰らわ……セブホッ!」


 ジャブ


「おば……アン゛! オバッ! ババッ!」


 ジャブ ジャブ ジャブ


「一発ブフッ!」


 ジャブ ジャブ  ジャブ ジャブ  ジャブ ジャブ ジャブ  ジャブ ジャブ  ジャブ  ジャブ  ジャブ ジャブ  ジャブ

  ジャブ ジャブ  ジャブ  ジャブ  ジャブ  ジャブ  ジャブ  ジャブ ジャブ    ジャブ    ジャブ  ジャブ 


「ウチは弱者に優しくないからねー」

「ハァハァ……このっ」


 サキからパンチが飛ぶ。

 ヤヨイは体勢を横に傾けてスウェーで躱す。


 サキはニヤリと口もとを緩め、自らの拳を爆発させた。だが次の瞬間には、サキは歯茎を剥き出しにして(いか)る。


 爆発の寸前に拳が跳ね上げられていた。フェイントが読まれている。


 ジャブ ジャブ  ジャブ ジャブ ジャブ ジャブ  ジャブ ジャブ  ジャブ ジャブ ジャブ  ジャブ ジャブ  ジャブ  ジャブ  ジャブ ジャブ  ジャブ


 サキが気絶しない程度にジャブのパンチを繰り出し続ける。一度ジャブ攻撃が始まると反撃の隙どころか呼吸する隙も与えない。サキが窒息しそうになるとジャブを中断し、ひと呼吸置いてからジャブを再開する。



 これだけサンドバッグにされてもサキの心は折れない。怪物化以前のサキならギブアップしていただろう。

 サキの精神を支えるのは博麗隊での経験。ケーへの感謝。怒り。怒り。怒り。燃えるような怒り。侮辱への怒り。強者への怒り。白田ヤヨイへの怒り。自分自身への怒り。怒りへの怒り。


 とにかく一発食らわさないと気が済まない。本当は何発でも食らわせたいくらいの気持ちだが、魔力と実力が足りないことは身に染みてわかった。一発が限界だ。不意打ちでも構わない。どんな手を使っても一発殴りたい。


 怒りがサキを覚醒させた。熱いオーラが体内を駆け巡って血管が膨張する。内側から破裂しそうなほど筋肉が隆起し、ドクンドクンと脈を打つ。


 サキに呼吸をさせるため、ヤヨイがジャブを止めた瞬間。



 息を止め、音を置き去りにするパンチがサキから放たれた。


「ウグッ!」


 パァン!


 当たった。ヤヨイに命中した。パンチを放った右腕はボロボロになったが、満足した表情でサキは気を失った。

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