1話 出会い〜空腹を添えて〜
「えぇ…ナニコレ…」
つい先日、突如として街の郊外に現れた城。
それを調査する為、派遣された魔法使いマリンと戦士シノンは、見るからに禍々しい城へと足を踏み入れた。
ギルドは突如として現れたこの城を高位の魔族の仕業だと断定。
そこで、試し調査として二人は送られたのだ。
二人は注意を怠らずアイテム、装備、マッピング、罠調査の準備をこれでもかと念入りに用意して、城へと突入した。
しかし、そこで彼女達を待ち構えていたのは、
ヌルすぎる構造の城…いやもはや城とも言い難い程の間取り。そんじゃそこらの二階建てのちょっと広い民家のほうがまだ部屋数はあるのではないかと思うほどであった。
そして、ヌルすぎる罠とも呼べないようなトラップの数々、緩過ぎる草結びに、足つぼ用マットが雑に敷かれた廊下。そして普通のネズミ捕り。
なんだコレは、と二人は呆れ顔でブーツの上から難なく足つぼマットの廊下を渡り、草結びを踏み潰し、ネズミ捕りをそのままにして奥へと進んで行った。
「ねぇ、マリン。これ、本当に魔族の城なの? そこらへんの錬金術師が作る豆腐土砦のほうがまだダンジョンぽっいわよ」
「そうよね〜、なんていうかガワだけ立派にしただけの欠陥住宅みたいよね。床はギシギシだし、部屋も数ないし。あ!見てシノン! あれなんかボスの部屋ぽっくない?」
トイレと書かれた扉の曲がり角、その扉はあった。
この城の内装に似つかわしくない重厚感のある大扉だ。扉には魔族を象徴する山ヤギのレリーフが飾られている。
二人は緩んだ気持ちを締め直し、武器を構え扉を開いた。そこで目にしたものは…
「ぉ…お腹が空いたのだ…」
「まおうしゃま〜死んじゃ駄目ですぅ!! そうだ! セバスを食べてくだしゃいませ〜!!」
鍬を片手にタイルが剥がされむき出しとなった土の上で突っ伏すジャージ姿の男性。そして、
「キャー!! 見てシノン!! 見て見て♪ 猫ちゃんだ! 猫ちゃんが居るよ! ふわふわだし、二足で立ってるし、お洋服来てるし、喋ってるしかっっっわいい!!」
「おバカ! それより見ろ。男性が一人倒れてる。救出するぞ」
猫猫と連呼する相棒のマリンにゲンコツを叩き込むシノン。
「おい。大丈夫かアンタ。あーあ、こりゃ栄養失調か? 待ってろ今携帯食料食わせてやっから」
「か、かたじけない…のだ」
ジャージ姿の男性の顔は真っ青で危険な状態だと判断したシノンはポーチから、携帯食料にと持ってきた干し肉を取り出す。
少し血生臭いがそこが美味い、シノンお気に入りの一品だ。
「噛め!」
シノンは男性の口に干し肉を突っ込む。
男性はシノンの言葉に頷き、ゆっくりと干し肉を噛むそして…
「ま、ま、まっっずぅぅぅ!!! ペッペッ! 血生臭さッ! 不味い! 不味いのだ〜うぅ…セバスぅ〜セバスゥゥ!!!」
先程までの明らか瀕死だった男性は、毒物でも入れられたかのように飛び起き、口に突っ込まれた肉を吐き出し、男性とは思えないような情けない声で泣き始めた。
折角、肉を恵んでやったのにと一瞬キレかけたシノンだったが男性が元気そうに泣き出したのを見てホッと一息つく。
一方マリンは…
「デュフフフぅ、デュフデュフフフ〜♪ 猫ちゃんがわいいよぉ〜♪ 執事服キュートだねぇ〜」
ねっとり舐め回すように……というより実際舐め回しながら猫ーーーセバスを蹂躪していた。
「まおうしゃまぁ〜たしゅげでぇぇ! 妖怪に…妖怪にぐわれりゅぅぅ〜!!!」
「ゼバズゥぅぅ!!!」
「まおうじゃまぁ〜!!!」
一人と一匹の合唱はこの後2時間程続いた。
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「ふーん。そいで、アンタは魔王だってのか?」
「そうですぞ! まあ、魔王って言ってもその息子で、まだ正式にってことじゃないのだが…」
「魔王ねぇ。ここ百年は特別人間界に悪さして来ないから安心してたけど、まさかこんな弱っちいのが息子だなんて、そりゃ人間界に手出してこないわけだ」
「む! 失敬な! 父上はとてもお強いのだぞ。二百年前人間の勇者と戦って勝ったのだからな!」
「うん。それ知ってる。この教科書にのるほど有名な話だからね。でも、勇者は自身の命と引き換えに魔王に重症を与えて二度と悪さが出来ない身体にしたんでしょ? 魔物はそこらじゅうにいるからあんま信じられてないけど」
魔王それはかつて、人間界を手中に収めんと暴虐の限りを尽くした魔族の王。
彼が放った兵、魔物達は人間界に侵攻し人々を苦しめたという。
しかし、魔王に立ち向かわんと剣を振るった者たちが居たそれが勇者一行である。
勇者達は己の命と引き換えに圧倒的な力を誇る魔王に深手を与えたという。
「で、どうするよマリン。人類の為に魔族なら一匹でも殺しといたほうがいいんじゃない? それになんかこいつ弱そうだし、ポワポワしてるし私ら二人でも余裕だろ」
「うーん。でも、可哀想だよ。猫ちゃんも可愛いし」
「お前は猫が可愛いだけだろうが! それに見ろ、二足で歩いて言葉喋ってるて執事服着てる猫なんている筈ないだろ。魔物の類だって」
二人は魔王と名乗る青年に背を向けコソコソと、この青年と猫?をどうするか相談する。
一方、青年達は二人から貰った水筒の水をありがたそうにチビチビと飲んでいる。
「よし! 決めた。お前らとりま冒険者ギルドに付いて来い。ギルドマスターにでも処遇は決めてもらおう」
「さ、猫ちゃん一緒に行こうね〜。ギルドに着いたらご飯食べようね〜♪」
「「ご飯!?」」
ご飯という言葉に二人はコップに残ってた水を一気に飲み干し立ち上がる。
「お二人とも本当ありがとうですぞ! 空腹で倒れてたのを助けてくれた他に、ご飯までご馳走してくれるなんて! 命の恩人ですぞぉ〜!」
「うにゃ〜! まおうしゃま! ご飯なんて一週間ぶりでしゅね! 早く付いてくでしゅ!」
魔王と一匹は腹の音をぐうぐうと鳴らしながら、スキップを踏みながら付いていく。
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