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いずれ英雄になる君へ  作者: 入井 橙治
王都襲撃事件編
8/13

第8話

 ミッドガル王国

  ミッドガルドを第一都市とする王国であり古来から存在していたとされる。そこはいつだって平和であり、このミッドガルの歴史では反乱の数は驚く程少ない。なぜ少ないのかはこの国の数少ない秘匿の一つであろう。


 以下は初代ミッドガル王、アルサケス・フォン・ミッドガルの手記である。


 『災厄の光だ。皆、影になってしまった。悲しい事だ。ならばこそ、ここに安息を創ろう。いつか、我等が失った世界を取り戻す為に。』




 そこは王都、その地下、その薄暗い部屋で、幾人かが、互いの顔を睨み合うように座り込んでいる。


「本当にやるのか…?」


「ああ、勿論。逆に聞くが、テメェはやられたままでいいのか?」


「嫌だよ。嫌だけど…俺らが今からやることは国潰しだ。今までやってきたように片田舎を潰すのとは規模が違ぇよ」


「…お前、ひよってんの?」


「誰が!?」


「とりあえずぅ~テメェら落ち着け~。ここまで準備してきたんだ。組長もそれが望みだぁ~。それにぃ~、組長曰く、肩を持つやつがいるんだとよぉ~」


「それに元からこの組に手は無い。綺麗事は神にでも唱えるんだな。ま、祈る神がいればの話だけどな」





 ここは王都冒険者育成学校。その中でも特に人数が少ない廊下である。理由は簡単。この廊下が図書館にしか繋がってないからだ。さらに図書館が遠いのなんの。

 それが故、特別な事が無い限りこの廊下は静かだ。だからなのだろう。図書館から声が聞こえた。普段なら気にも留めないが、なぜかその日は気になった。だから聞く事にした。盗み聞きのように本棚の裏に隠れながら。


「………ですからこれ以上サイラス様に近づかないでほしいのです」


 あ?どういう事だ?俺に近づくな?誰が誰に言ってる?


「王命ですか」


 カナタの声だ。


「考えてみてください。高貴なる王族が庶民なんかと馴れ合うなどあってはなりません。本来であればサイラス様にはここにて派閥を形成していただく予定だったのにあなたのせいで派閥も形成せずにいるのです。幸い、まだ国王様のお耳には入っておりません。これ以上サイラス様の噂を広めないでください。」


「私が広めている訳では無いんですが」


「ではあなたの存在自体が邪魔ということで。もし、我々に従わないのであればこちらも"しかるべき手段を取る"ということになりますが」


「命ですか」


「これから1日、考える時間を与えます。これでも温情ある措置だと思うのですけどね。選ばなかった場合は、分かりますね?」


 なんて…なんてひどい話だ…


 図書館の静寂が身に刺さる。足下が歪む。聞こえる事見えるもの全てに霧がかかる。まるで、階段の一段を踏み損ねたような浮遊感と喪失感。それは届かないあと一歩。

 相手は図書館を出ていった。隠れていたが故に相手には見つからなかったようだ。

 気が付けば、一歩を踏み出しカナタの前へ。まだ気付かれてない。


「カナタ…」


 カナタはようやく気付くと静かに手を振った。いつもと変わらすに。


「カナタ」


 何か言おうと思うが、詰まってしまったように言葉がでない。しかし、カナタは違うようだった。


「聞いていたんだね」


 頷くことしかできなかった。


「ごめんね。僕には目的があるんだ。だから生きていたい。あなたの友であれて光栄でした。じゃあね」


 とても簡素で味気ない別れの挨拶だった。入口で呆然としている自分の横を何の感動も無く通り過ぎる。それが、悲しかったのか、悔しかったのか、分からないが声を荒らして呼び止める。


「そんな別れの挨拶があってたまるか!」


 振り返った時にはもうすでにカナタはいなかった。今でも鮮明に覚えている出会った時のようにふっと居なくなってしまった。入学からたった数ヶ月であったが、確かに友であったのだ。こんな簡単に居なくならないで欲しかった。その訳も分からない激情のままに叫んだ。


「あの、クソ野郎がァ!!!」


 その叫び声は残酷にも届いてしまったのだが、それをサイラスが知るよしもない。





 いつもと同じように図書館へ向かっていると、カナタが走ってきて、そのまま通り過ぎた。そのカナタの目から涙が零れていたのは気のせいだろうか。だが、気になってしまった事には首を突っ込まないと気が済まない性分のカリアはカナタを追う事にした。


 が、全く見つけられない。どこを探してもいない。


「どこいったのよ…カナタ…」


「ごめんね」


 ここまで見つからないと学校の外に出た可能性もある。それか、立ち入り禁止部屋に入ったとか他にも………


 ん?


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 辺り一帯の視線を集める。そりゃそうだ。なんたってここは王都冒険者育成学校(社交場(媚を売る場))。もし、世間体を頼りに生きている(やから)がいるならば自害するレベルの醜態である。いや、別にこの時代、叫ぶ事が醜態ではないのだが少なくともこの箱庭(学校)では醜態であった。だが、この惨事を見た人はカナタが関わっていることを知ると、全員何も無かったかのように視線を逸らし、再び個々のしていた事に戻っていく。

 あまりに露骨すぎて逆に気にならない。が、そんなことは割とどうでも良い。今はカナタの事である。


「あんた!一体どこ行ってたのよ!」


「中庭の木の上」


「ええ……あんたは何を目指してるの…?」


 一発で勢いを削がれた。やはり不思議な子だと思う。が、とりあえず本題を出す。こういうのも待てない性分なのがカリアである。


「ねえ、あんた。図書館から出て来た時、泣いてなかった?」


「単刀直入だね」


「あ、嫌だった?」


「嫌じゃないよ」


 うん。この感じ。他の(貴族)と違う。安心する。


「うん。泣いてたよ」


「なんで?」


「えっと…」


 その時、学園の鐘が鳴る。授業が始まる合図だ。まだ、時間はあると思っていたのだが。


「また、後で話すよ」


「約束だからね?」


 そう言って別れようとするが、何かおかしい。その原因はすぐ分かった。鐘だ。普段なら、数回鳴って終わりだが、今は、とても長く鐘を鳴らし続けている。五月蝿い(うるさい)。違和感だ。と、その時だ。


「お前ら!逃げろ!敵だ!敵襲だ!」


 と、教師がけたたましく叫びながら走り回っている。


 なにを言っているのか分からなかった。だってここは王都冒険者育成学校である。中央区の東にある王城の次に警備が固い所であるはずだ。他の生徒達もポカンとしていて状況が理解できてない様子だった。その時、右手を強く引かれる。右手の先はカナタの左手だった。


「逃げるよ」


「え?なっ!え!ちょ、ちょっと!!!」


 カナタに連れられ訳も分からず走る。しかも走る先は正門と真逆だ。ちょうど図書館の方向にあたる。


「ちょっと!どこ行こうとしてるの!?」


「学校の裏口。そこを越えればこのミッドガルドを横断するスティクス川がある。そこを(わた)ろう」


 そう言いながら、だが走るのを止めなかった。走りながら途中、図書館に寄った。図書館を見回した後、カナタは少し残念そうにしながら、足早に裏口へ向かった。なぜ寄って、なぜ残念そうにしていたかはカリアには分からなかった。向かう最中、ようやく、本校舎から悲鳴が響く。


 ここまでは完璧だった。一つ、誤算があるとするなら、カナタも、カリアも、()()()()()()()()()()王都冒険者育成学校が()()()()()()()()の深刻さをよく理解していなかったことだ。

 つまりは裏口も敵に占領されていたのだ。見たところ、3、いや、4人だろうか。見張りがいた。要は完全警戒体制だ。こちらは適当な物陰に隠れて様子をうかがう事しか出来ない。カリアから聞いて全く有益な会話はしていなかった。


「裏口の警備って…なめんじゃねぇよ………ったくよぉ………」


「まあ、仕方ないさ。それに逆に考えれば、顔が割れない限り、いつでも裏切れるぜ?」


「おい!今ここでお前を切ってもいいんだぞ?頭と胴体を離婚させられたくないならその話題は二度とするな」


「へいへい。分かった分かった。”スキアー盗賊団は素晴らしく大儀ある盗賊団である”だろ?てか、自分らの事を盗賊団とかいう集団もそういないと思うけどな」


 と、全くもって無駄な会話をしている。普段のこの学校の会話に野蛮さをマシマシにした感じだ。何とも気味が悪い。が、とりあえずカナタに小声で確認をする。


「…カナタ、ここからどう………」


 言葉は最後まで続かなかった。何故なら、今、横で隠れているカナタの表情が、この世の物とは思えないほどに、例えるなら悪魔か憎悪の化身か、それほどの怨嗟(えんさ)が彼の内から溢れ出してしまったような表情をしていたからだ。


「…カナタ…?」


 私の声は届かない。


 この時、もっと必死になって止めておけば良かったと後悔するのは、まだ、先の未来。



 前書きになんか色々書くことにしてみました。まぁ、初作品なんで試しって事ですね。


 こんな感じのノリでこれからもやって参ります。

 今後ともよろしくお願いいたします。



【追記。2021/11/29】


 何かこの話読んでいて気持ち悪いっすね。後で直します。


【追記。2021/12/01】


 直しました。

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