第5話
今さら考えたんですが筆記の結果がすぐに分かるっておかしいっすよね。
目玉の生徒だけ先に採点するってことでご容赦ください。
…やはり面白いものだ。
私がここに立っているだけで受験生達は萎縮する。
皆、別の先生のもとへ行きたがる。
…やはり校長というものは彼らには重いのだろうか?
だがどうでもいいのだ。
金にものを言わせブクブクと肉ついた貴族を恐怖に染めるのはやはり快感だ。
次の相手はカリアという少女だ。確か金をあまり積んでいなかったな。
まあどうでもいい。
すぐ終わらせる。
そうして素手を構えた校長の姿にカリアは絶望の表情を隠せなかったがそれでも諦めているようには見えなかった。
そのことに満足しながら校長は言い放つ。
「さあ、好きなとこからかかってきなさい」
*
レイリーンは試験には参加しない。あくまでも試験を見守り不正を正すくらいだ。
この場合の不正とは模造刀ではなく真剣を使ったり、賄賂を防いだりなどである。
…まあこの学校には賄賂や買収で満ち溢れているが。
しかし、校長の所を見に行く時は怪我人の確認という意味合いが強い。
ほら、今回もボロボロになった奴らが転がっている。
…この後にも試験は続くのに…
いや、毎年の事だ。もう考えない。
ちなみにこの試験のルールは3つ。
1,相手に必要最低限を超える怪我、及び致命傷を負わせないこと。
2,5分で決着を付けること。また、気絶などにより勝敗が決定的は場合はそれをもって決着とする。万一、試験が決着しなかった場合、引き分けとする。
3,ある一定の範囲を試験場とする。また、場外に出たらその者の敗北とすること。
である。
ちなみにこのルールも賄賂や買収であまり意味を成さない。対校長でなければ、の話だが。
今、校長と戦っているのはカリアという少女だな。
片手剣を構え校長との間合いを見ている。
…お世辞にも健闘しているとは言いにくい。
服は土で汚れ、全身に細かな傷がついている。
大方、弄ばれているのだろう。
…お飾りなのだからそうまでして何度も立ち上がらなくていいのに…
そう思っていると校長が目にも止まらない速さで彼女の裏に回り、手刀で首筋を打った。
そうして彼女は気絶した。
恐らく何が起きたのかも分かってなかっただろう。
よく頑張った。とそう思った。
…彼女の評価は少し上げておこう。
そして校長は気絶した彼女を他の倒れてる奴らの所に運び、次の受験生を呼んだ。
次の受験生はカナタだ。
今回のダークホース。この腐りきった学園に平民で入学しようとする者。
目玉らしき人物は良い意味で特別扱いされる。
今回のサイラス様のように。
そして地雷らしき人物は悪い意味で特別扱いされる。
今回のカナタのように。
だからカナタは本来、試験結果を見なくても落とす予定だった。
しかし、ある一人の教師が興味半分で彼の解答用紙をみてしまった。
そうしたら本来、平民ならば解けるはずのない数式、社交辞令、魔法摂理、全てにおいて文句なしの満点だった。
真面目に勉強していても満点は取れないくらい難しいのに…
ちなみにだがある教師とはレイリーンのことである。
だからレイリーンは興味が湧いた。こいつは何者なのだと。
だから無理して校長とあたるようにし、こうして見回りと言ってこいつの試験を見に来たのである。どうやら他にもこいつが気になる奴らがいるようで、皆遠くから見ている。
…やはり考えることは同じか…
カナタの武装は右手に鉤爪を、左手に試験用の青銅の直剣を逆手に持つというものだった。
…あまり、いや、かなり実用性の薄い装備だな…
だが、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに校長は言い放つ。
「さあ、好きなとこからかかってきなさい」
*
なんだこいつは。
ふざけているのか?
平民で入学するのだからもっと入念に鍛えられた奴と戦えると思ったのに。
それなのにこんな装備ではすぐに終わるだろう。
落胆を隠しながら言う。
「さあ、好きなとこからかかってきなさい」
しかし次のカナタの一撃でこの考えが慢心だったということを思い知らされる。
はっきりと言うなら見えなかった。
反応できたのは奇跡だといってもいい。
反射的に背中側に出した右手が痛みを訴えている。
だが今の一撃を受け止めるには右手だけでは足りず前へ体制を崩してしまった。
何が起きた?
体制を整えるために前転しながら距離を置く。
立ち上がって相手を見れば今の一瞬で私のうしろに回り込み、その鉤爪で私の死角を狙ったようだった。
…ふ、
「フハハハハハ!!!!!!」
こんな奴見どころなんか何もないと思っていたが。
一瞬で終わってしまう詰まらない奴だと思っていたが。
なぜ今まで気付かなかったのかと恥ずかしくなるくらいに。
今の一撃で理解した。
こいつは面白い。
こいつなら、少しくらい、全力でなくとも、その半分くらいなら。
力を出しても大丈夫だろう!
足を広げ、腰を沈め、腕を構え、相手を見やる。
カナタは特に驚きもせずただ、少し足を広げ、こちらの動きを観察しているようだった。
奴は動く気なし。ならばこちらが動くまで。
カナタ同様に私も一瞬で裏に回り込む。
そうして背中側から首筋に手刀を入れる。しかしカナタは降ろしている左手をクイっと傾けて剣を背骨に添わせるようにする。それに伴って刀身が手刀と首の間に割り込みその一撃を防いだ。
そうして生まれた隙にカナタは容赦なく肘打ちを入れるが、肘打ちは射程が短いのでうしろにステップして避ける。
そしてカナタの体がこちらを向く前に腰を深く降ろし正拳突きを撃つ。
だがカナタは既にこちらを向き正面から放たれる正拳突きを鉤爪でいなす。それと同時に左手の剣の柄頭を顔面に突き出す。
それを顔を少しずらして回避。
この時、カナタはいなしと同時に攻撃したことで重心がすこし不安定になる。その隙を見逃さず校長は足払いをかける。
ほんの僅かな隙だった。それでも隙であるからにはその間に攻撃されれば対応できない。
カナタの体は後ろに倒れこむ。
この時、カナタは鉤爪で地面を掴み反撃しようとしていた。
が、体制が崩れたカナタは次の校長の動作を見ていなかった。
校長はカナタの首筋を掴み、そして放り投げた。
山なりにカナタの体が宙を舞う。
そして、場外へ放り出された。
カナタは受け身をとって無事だが、試験はこれで終了した。
試験を開始して30秒以内の出来事だった。
そして多くの者を圧倒し魅力した試験が終わった。
皮肉にも校長が最初に予想した通りにすぐに終わったのだが校長はそんなこと気にならない位に満足げだった。