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いずれ英雄になる君へ  作者: 入井 橙治
王都襲撃事件編
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第4話

 サイラスは裏口入学をしなかった。なんか卑怯な気がしたし、それに…


 そんなこと今は考えるな。今はこの試験に集中しろ。だが、この筆記試験は難しいが解けないことはない。きっと今までの勉強が生きたからだろう。


 試験終了の鐘がなった。これから実技だ。実技科目は基礎体力測定と技能測定にの二つだ。


 基礎体力測定は純粋に走るのが速いとかそんなのでいい。


 技能測定は物理近距離、物理遠距離、総合魔法、の三つに分かれていてこの中から二つ以上選択する形となっている。


 魔法、及び遺物が使えるのはほんの一握りなのでほとんどの受験者は魔法は選ばない。だからこそ魔法の配点が高めに設定されている。


 サイラスは全ての科目を受けることになっている。サイラスは多少遺物を使えるので魔法も受けるのだ。


 だがまずは物理近距離から。科目の内容は事前に開示されていないのでその場で出される無理難題をクリアしないといけないのだ。もっとも、裏口入学すれば別だが。つまりは金である。

 ちなみに余談だが、総合魔法は毎年遺物を作動させよという課題なのだが、これでも妥当なので毎年変更は無いのである。


 と、この話は置いといて問題は試験内容である。どうしたものかと思案しているとあの憎々しい黒髪が目に入った。まずは散々嫌みを言ってやろう。そう思って声をかける。


「また会ったな糞野郎」


 先程と同じようにあいつは見透かしたような目でこちらを見ている。やはりこいつは気に食わない。


「おい糞やr」


「あー生徒諸君。まずは筆記試験ご苦労様。私は実技試験担当、レイリーン・アスタレアである。まずは列を整えろ!」


 ハリのある若い女性の声が響く。いいタイミングで邪魔が入った。


「…命拾いしたな」


 そう言い捨てて自分の列に戻る。


「…よし。並んだようだな。これから試験内容を発表する。近距離試験は対人戦闘試験だ。教員が相手になるから遠慮せずに己の実力を見せてくれ。注意点は受験番号ごと一人ずつ指定された会場に向かう事だ。他に何か質問は?」



「…ないようだな。では、これより実技試験を開始する」


 そうして実技試験が始まった。




 時は戻ること、数分前。筆記試験と実技試験の間の時間…


 ある暗い部屋の中で約5人が話していた。そこは、外の喧騒も光さえも届かない場所だった。

 そこで何かをこそこそと話し合っているようだった。


「今年の受験者は皆個性があるな」


「ああ。それにあのサイラス様も受験しているのだ」


「いやぁ、我等もやりましたなぁ」


「皆、落ち着け。今話すべきことは筆記についてだろう?」


「おお、そうだったな。しかし、成績優秀者と呼べる者は今年はあまり多くないぞ?」


「ああ。だが、サイラス様が成績優秀者になっていることが大切なのだ」


「よく金を積まずにここまでこれたものだ」


「だが、このカナタという奴は開校以来の天才かも知れんぞ?()()()()()()()()満点だ」


「だが平民の出だ。どこの馬の骨とも知れない奴に我等の校舎を踏まれるのは癪だな」


「そこは実技試験次第だな。まあ、あんなものは飾りに過ぎないがな」


「それよりもこのカリア・グロウバーデン。確かグロウバーデン領当主のご令嬢だったな」


「さらに成績優秀者。裏口金は少なめだが問題ないだろう。」


 と話していると誰か一人が立ち上がった。


「どこへ行くのかね?」


「…実技試験を見てくるだけだ」


「いやぁ、それはいいんですけどね、あまり生徒をいびらないで下さいね。()()()()



 足音は遠ざかっていく。





 カリヤ・グロウバーデンにとって王険校に入学するのは幼い頃からの夢だった。それこそ周りに言いふらせる位の夢だった。


 しかし、政治とは幼い子供にも容赦しない。


 グロウバーデン家の三女として生を享けたカリアは政略結婚のいい材料だった。


 そんな事など蚊帳の外だったカリアにとって政略結婚なんて寝耳に水だっただろう。この時齢15歳だった。


 15歳で結婚相手を決められるのは嫌で嫌で仕方なかった。


 政略結婚を回避したい一心で親に訴えると1年後、結婚が確定するからそれまでに王都冒険者育成学校に入学すれば取り消すと言われた。


 ここまで聞いて察せないほどカリアは馬鹿ではない。


 つまりは親は本来解消できるはずのない政略結婚から逃がす条件を夢である王険校入学としたのだ。


 これは普段無愛想な親なりのエールなんだと少し考えただけで答えは出た。


 今まで勉強してきたが毎年勇気が出ずに受験しなかった私をの背中をぐいっと押してくれた気がした。


 毎日、誰よりも勉強してきた。苦手だった剣術も習得した。誰にも負けないよう努力をしてきた。


 この一発勝負、負けるわけにはいかないのだ。


 ちなみに実技試験がお飾りに過ぎないことをカリアは知らない。


 意気込み十分、気合い十分。この時のための今までの努力を思い出せ。


 そう考えていざ試験に向かおうとしたその時、ふと目に入ったのは王族に絡まれていた人だった。


 大した意味なんかなかった。純粋に話しかけてみたかった。王族に絡まれる人がどんな人か気になった。


「ねえ。あんた、さっき王族に絡まれてたわよね?」


「そうだよ」


 少し驚いた。王族に絡まれていたのに全く萎縮していなかった。


 この子とは仲良くなれるかな。


 そう思った。


「お互い頑張ろうね」


 そう話しかけて試験会場に向かって歩き出した。




 試験会場に足を踏み入れた時、絶句した。


「嘘……試験管って()()()()もいるの……」



 ここで校長の話をしなくてはならない。


 第一王都冒険者育成学校は冒険者というより研究者を育てる場。さらに言えば金や貴族が跋扈(ばっこ)する社交場のような所である。


 そこの生徒は政略の駒にしかならない。


 しかしいくら看板だけといえど第一王都冒険者育成学校には冒険者を謳っている。しかも王都の第一番だ。


 だから、せめて校長だけでも凄腕の冒険者が良いだろうということで、校長は冒険者協会会長が勤めている。


 冒険者協会とは王都の全ての冒険者ギルドの管理、運営を任されている、言わば管理組合の様なものであり、その会長ともなると全ての冒険者の上に立つ者という異名が当たり前にある程の存在となる。


 つまり冒険者協会会長とは戦闘技術、政治戦略、何をとっても完璧な者のことを指す。


 もう分かるだろう。試験管に校長がいることの異常さが。


 詰まる所カリアは絶望していた。


 絶対にこの試験は突破できないと。



 ちなみに実技試験がお飾りに過ぎないことをカリアはまだ知らない。




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