第3話
バトルシーンが書きた過ぎて書くべき物を書けてなかったことに今になって気がついた。
どーしよー
ここは第一王都冒険者育成学校の受験受付である正門前広場である。そこは受験者で込み合っていた。ある所では受験者の受付で長蛇の列が出来ていた。そこを見れる校舎の二階で監査員の二人組が会話している。
「いやー、今年は豊作っすね」
「おう。何せ王族様が受験するらしいからな。そこに取り入ろうと受験しに来たんだろうよ」
「うわー。なんか社会の闇を見た気がしたっす」
そんな他愛もない話をしていると受験者がざわめいた。
その方向を見ると金髪で白い制服に身を包み赤いマントを羽織った青年が多くの従者を従えて歩いてくるところだった。
「おっ。噂をすればってやつですね」
「ああ。あれがミッドガルド王国第三王子、サイラス・フォン・ミッドガル様だ。」
その様子をしばらく見ていると自ら受験生の列に並ぶところだった。ただし、受験者達を押し退けながらだが。もっと正格に言うならサイラスを見て自ら退く者、従者に押し退けられる者、そうして出来た道を我が物顔で歩いているだけである。この事から分かる通りにサイラス様は多少横暴だ。
監査員の一人が自分で並ぶだけ偉いと思っていると一人だけ従者を押し返してでも列に並び続ける奴がいた。ここら辺ではあまり見ない漆黒の髪の奴だった。そいつの後ろに王子様が並ぶ。
…はずもなかった。そいつの前にいる奴を退けてまた前にいる受験者を押し退けながら進んだ。そこまでならよかったが何を思ったのかそいつは王子様を呼び止めた。
(あ~あ。こいつ落ちるな)
そう思いながら試験会場へ歩き出した。
*
サイラスにとって周りの奴らのお世辞や喧騒は自分に注目が集まっている証拠だった。それに自分がする事なす事誰も反対しなかったので自分だけが正しいという人格が形成されるのは当然だろう。だから
「ちゃんと並んで」
そう注意されるのは初めてだった。初めて自分の行動を否定された。沸々と怒りが沸いてきた。その声の方を見れば黒髪が私を見ていた。さっきから列を譲らなかった奴だ。
「…お前、この俺に指図するのか?」
怒りのままに問う。その気配を感じて取り巻きや従者達がサイラスとそいつを取り囲むように離れていく。それでもそいつは動じずにこちらを見ている。見透かされている気分だった。その態度が気に食わない。自然に声が荒れる。
「お前、この俺が誰だか分かっているのか!?俺はミッドガルド王国第三…」
「聞いてない」
ああ。何てむかつく奴だろう。私の言葉を遮るとは。ここが王宮だったら始末できるのに…
…ん?ここは冒険者学校だ。だったら決闘で直々に手を下す事が出きるのではないだろうか。我ながら名案だ。
「おいクソ女、」
「男だよ」
「んなことどうでもいいんだよ!お前、俺と決闘しろよ!」
「断る」
「この俺が直々に手を下してやるんだ。感謝して…」
…ん?今何て言った?
「お、おい。おま、お、お前!」
あまりにも早く返されたので対応が追い付かなかった。
そもそも決闘とは神に誓って執り行う模擬戦で爵位がなければ決闘を申し込むことすら出来ない神聖なものだ。それを断るということは相手を虚仮にすると共に神に誓いを立てない卑怯者になる。だからまず断られることはない。それを速攻で断ったのだ。
「お前!この俺との決闘を断るのか!?」
信じられずに振り返り周りの奴らに同意を求める。
「ありえねぇよなぁ?」
周りの奴らが口々に答える。
「え、あいつ馬鹿なの?」
「てかあいつ誰?」
「王族様との決闘断るとは命知らずだな」
やはり私の方が正しいのだと分かる言葉達だった。だからあいつの方に向き直りもう一度決闘を申し込む。
「おいお前、もう一度言う。俺と決闘…」
だがあいつはもうその場にいなかった。
「…あの糞野郎、覚えてろよ!!」
その怒声は空に虚しく消えた。
*
何か受付広場で王族関係の騒ぎがあったらしいが他に問題らしき問題も起きずに無事試験が始まった。科目は筆記と実技。まずは筆記にてその人の人間性を測るらしいが、だったら数学や魔法学ではなく人間性テストをすればいいと監査員は思う。
そもそも人間性を測る理由は冒険者になって武器を所持した際に犯罪を犯さないか確認するためであり、そのため冒険者になるためには冒険者学校を出ないとならない。
第一王都冒険者育成学校はそれこそトップクラスの冒険者を育てるために創られたが、もはや御貴族様が自分の学力を証明するために入学するようなところに成り下がった。
正直もう冒険者という看板も外してしまった方がいいと思う。
ところでテストだがこれがとても難しくいかに貴族でも簡単には解けないようになっている。
…まあ、ほとんどの貴族は裏口入学だが。つまりは金である。
そのテストを漆黒の髪の少年はすらすら解いているようだった。名前はカナタというらしい。
名簿で男であることは確認したが女と言われれば信じそうだ。が、よく見れば、やはり男である。
だが謎はある。カナタは平民の出だが家計を支えたり出身の村を守るとかの理由で本気で冒険者に成るのなら第二王都冒険者育成学校に行くべきである。なぜなら前記の通りに第一王都冒険者育成学校はもはや貴族の名声のための学校となってしまった。冒険者に必要な知識や魔法の扱い方、各魔物への対処方法はこちらでは学べない。むしろこちらは数学の難題を解く方法や魔力とは何かを研究することに向いている。
…本当に冒険者という看板を外した方がいいと思う。
だからこそ平民のカナタが第一に来ることはおかしいのである。だが、監査員には関係の無い話。
筆記試験の終わりを告げる鐘がなった。次は実技の会場まで案内する。
実技会場に着くとそこには王族様がいた。
…まあ間違いなくサイラス様だろう。
受験者達を並ばせているとサイラス様がこちらを見た。少し驚いた素振りを見せてからこちらに近寄ってきた。
私に用があるのかと身を硬くしていると私を通り過ぎてあのカナタの前に立って
「また会ったな糞野郎」
と言った。
…これは修羅場になるな。
そう確信して巻き込まれない内にひとまずその場を離れた。