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いずれ英雄になる君へ  作者: 入井 橙治
王都襲撃事件編
11/13

第11話~会議~

道具

 煙弾

  貴族たちの遊戯の為の物。


 正確には、近年見つかった爆発する粉塵を活用し、遠距離を攻撃する手段として作られた銃。

 それは有用な兵器となるはずだったのだが、使い物にならなかった。だが、以前から存在する色を出す煙と組み合わせ、貴族たちの狩り等の合図として使われている。なお、爆発する粉塵は高価であり辺境の貴族では手も出ないほどである。


 なお、銃からの派生として大砲が存在する。




 その日、王城は災禍の喧騒の中心にあった。が、その全てを書き記すのは、あまりに骨が折れる。よって一部を抜粋して書き上げる。



 そこはいつもなら、大事が無い限り、誰一人入らない玉座の間――現時点では玉座は空だが――。だが今は大事だ。教皇、国王などが集まり、玉座の前のテーブルを囲うように座り現状の把握に努めていた。


 おっと、これでは何の現状を把握しようとしているかが分からないな。


 彼らは、どちらの権力が上か、どちらがより上に立つ器かを把握しようとしている。


 一部の崇高なる(馬鹿馬鹿しい)会話を聞いてみれば、


「国王殿も御子息がおらっしゃいましたよね。御心配なさるのでしたら迎えに行ってもらっても差し支えありませんよ」


「なにをおっしゃいますか教皇殿。愚息には優秀な護衛を付けておりますが故。それよりも教皇殿の崇高なる御演説を皆が待ち望んでいる事かと。行ってこられた方が良いのでは?」


 である。それぞれの話を手軽に訳すと


「とっとと出てけ」


「テメェこそ出てけ」


 である。


 こんなものか。と王都冒険者育成学校校長兼冒険者協会会長は考える。


 そもそも冒険者協会は国と密接な関係にあり、国は冒険者に武器の所持を許し、冒険者はその武器で未開拓地区(ディストリア)への開拓をし、さらには国の戦力としてその力を使うということになっている。が、独立した戦力を一人歩きさせるわけにはいかないから国直属の兵士団がある。この二つの戦力の関係はというと、

 兵士団は、冒険者協会の監視と兵士零れを冒険者とする人員の譲渡。冒険者協会は、大事の際は冒険者部隊として兵士団に属する。

 力関係で言えば兵士団の方が上だ。


 つまり今は兵士団冒険者部隊隊長としてこの場にいるわけだが、分かりにくいため、ここでは校長と呼ぶことにする。


 ちなみにだが、ここに集められた人員は、それぞれの分野の責任者であり、当然兵士団団長もいる。


 それで、今そこで盛大にあくびをかましてるのが団長だ。


 団長、フルネームはオーデウス・オリノホルス。身長は150㌢以下。刺々しい銀髪とニカっとした笑顔が似合う童顔の少年。兵士団の制服の袖から手が出ておらず、それがより一層幼さに拍車をかけている。だが、一応22歳だし団長としての才能は十二分にある。しかし、言動が幼く、さらにその自由気ままな性格、纏う雰囲気などの全てがそれを微塵も感じさせない。

 本人は子供扱いされるのを嫌っているが、恐らくもっと老けない限りずっと子供扱いされるだろう。


 それで、先程あくびをかましていたが、それも仕方ない。三日前、襲撃予告が来ても集まって雑談に花を咲かせるしかしなかった。当日になってもまだ、同じような会話しかしていない。その雑談に付き合わされているんだ。あの団長なら眠くなっても仕方ない。


 さて、先程襲撃予告が来たと言ったが、『条件を飲めば襲撃しない。もし、飲まないのであれば、こちらも取るべき手段を取る』いう内容だが、まだ、誰も玉座の間に報告に来ない事から、まだ騒ぎは起きていないだろう。


 すると、玉座の間に叫び声が響く。


「報告!スキアー盗賊団の一員と思しき人物が潜入!面会を求めているようです!」


「そゆこと~」


 その自然な発言を敵だと判別出来たのは団長と校長だけだった。


 一秒。

 それは、団長が状況を認識し現時点で出せる最高火力を異物に叩き込むまでの時間だ。

 詳しく説明するならば団長は報告に来た兵士の後ろにごく自然に居る一名を敵と認識し、彼の持つブーツのような遺物、《蹂躙(じゅうりん)せしむる爆脚(ばっきゃく)》を活性状態に。ブーツの靴底が変形し、さらにはブーツ全体が赤熱しだす。椅子を蹴飛ばしその場で体制を低く、具体的には両手を床につけ足をいつでも駈け出せるように右足を左足よりも一歩分前に。


 こちらの世界のクラウチングスタートのような構えだ。


 そのまま《蹂躙(じゅうりん)せしむる爆脚(ばっきゃく)》を起動。爆炎と共に音速にも迫る速さで何が起きているか認識すら出来てない兵士の後ろの敵の頭部めがけ、ありったけの遠心力で回し蹴りを叩き込む。これがその一秒の顛末(てんまつ)だ。


「まったく、危ないじゃないか。」


「チッ!」


 しかし、敵は反応できたようだ。彼の腕が蹴りを受け止めている。基本攻撃性遺物は人体で受け止めることなんか出来ない。そんなことしようものなら受け止めた部位から弾け飛ぶ。間違いなく何らかの遺物を使っただろう。そのまま団長を弾き飛ばす。数㍍は飛んだ。


「僕はただ話し合いに来ただけじゃないか。もしかしてこれが歓迎なのかな?ずいぶんと手荒だなぁ…」


 この時、初めて相手の姿を認識した。相手は黒を基調にした執事服のような華奢な服装で金髪。碧眼で整った顔立ちは噂に聞くスキアー盗賊団の野蛮さに似合わなかった。むしろ、ここにいる貴族よりも華麗だった。

 そんなことを頭の片隅にて考えていると今頃になって教皇殿や国王殿が慌てだす(喚きだす)


「ヒィィ!!何だ!?何が起きた!?」

「助けてくれ!助けてくれ!」


 そう言って我先にとこの場から去ろうとする。ドタバタと響く彼らの足音がうるさい。それは、相手方も同じだったようで、


「全く、五月蠅いなぁ。」


 そう穏やかに言い放った後、いや、その瞬間に目にも止まらぬスピードで懐から針のような細長い金属を取り出し投擲。それは真っ直ぐに飛来する。確認したところ飛んでいる針の数は4つ。そして対象は騒いだご老公二人の両足だろうか。が、残念ながらご老公二人の間は離れていて対処できたのは近くにいた国王だけだった。

 タイミングを合わせて、握る。

 私がしたのは飛んでくる針を掴んだだけだ。他には何もしていない。


「ああああああああああああああああああああああああ」


 すると、教皇から絶叫が響く。団長は守れなかったのか。そんな事を冷静になって考えているとこの場における異物が話し始める。


「まあ、うるさくても問題ないんだけどね。ここに来たのは確認のためだ。手紙に書いた通りで良いんだな?もう既にこちらの準備は終わっているが」


 この質問に答える者はいなかった。教皇は見るにまともな受け答えはできなさそうだし国王はいつの間にか居なくなってしまった。その他も同じように居なくなった。だからこの場でまともな受け答えができるのは私くらいだ。団長に任せたなら油を注ぐようなものだし、もとより他に誰かいるわけでもない。


「すまないが私くらいしか君と会話できそうにない。私でも構わないかね?」


「ああ。君は、校長先生かい?遺物を使わないって噂は本当だったんだね」


「よしてくれ。使えないだけだ」


「だとしたらもっとすごい。僕の遺物の力を素手で受け止めたことになるからね」


 そう。私は遺物は使えない。使える人間はごく少数だとよく言うが、私はその少数に入り損ねた多数だ。だから鍛えた。ただそれだけの多数だ。他と違いはない。


「で、本題に入ろう。手紙の通りでいいんだね?」


「決していい訳がない。そして、我々の(かしら)はあんな調子だ。よってここは我々、兵士団が阻止してみせる」


「ほう?君は冒険者協会の人間ではないのかな?」


「今は兵士団に属している」


「そっか。ならば僕と君は敵同士になるね」


 その時、彼は少し寂しそうに、未練ありそうに、諦めたように、まるで知りたくなかった結果を知ってしまったような、儚い笑みを浮かべていた。それが校長には噂に聞くスキアー盗賊団の姿と違い普通の人間に見えて、少しだけ感傷の情が湧いた。


 が、それもこれも一瞬の出来事。いうなれば嵐の前の静けさ。すぐに私は仕事様式(戦闘モード)に切り替える。


「すまないが君の相手をするのは私ではない。そこにいる彼だ」


「そうか」


 彼はそれだけ言うと張り付けたような笑みを浮かべた。それを見て背筋が凍るかと思った。


 ここは危険だ。本能が察した。逃げろ。逃げろ、逃げろ。脊椎からの伝令はそう告げている。私はそれに抗うことなく、全身をばねのように使い持てる最高速度でその場を後にする。

 今は、扉を通る余裕すら無い。ここから最も早く外に出る方法は窓から飛び出ることだ。

 玉座の間の荘厳かつ壮麗なステンドグラスを蹴破って、そのまま外へ。城の二階から落ちていく浮遊感を感じる。


 最後にチラッと見た玉座の間には、取り残された教皇となにをするでもなく棒立ちの彼が残されていた。


 そして、玉座の間を飛び出した刹那、暴力的なまでの爆音と容易に生物を殺せる程度の破壊力を持った衝撃波、そして熱風。到底人間には耐えることの出来やしない殺戮の力が、辺りを覆った。


 自爆か……


 そう結論付けるには十分すぎた。


 ちなみにだが、今は裏庭の木の上に寝そべっている状態だ。助かった。直に地面に落ちたのならしばらくは動けなかっただろう。

 少し軋む体を動かし辺りを確認すると、私と同じように………いや、生垣に頭から突っ込んで下半身だけをバタバタさせて、なんとか脱出しようともがいている団長の姿があった。


 そして、その向こうには、教皇の体の破片が散らばっていた。


 少し吐き気を感じるが、今は構っている暇など無い。もし、手紙の内容が実現するなら、その第一段階として、この王都が地獄と化す。

 それは、阻止しなければ。


 植え込まれた木から飛び降り、まだ抜けてない団長を引っ張り出して、そのまま脇に抱えて走る。


「ちょっと!?何やってんの!?」


 脇の中で団長がギャァギャァ騒ぐ。ああ。やはり幼く感じてしまう。だからだろう。つい、頭を撫でそうになるが、硬く造り上げた理性で抑え込み、手紙なんか読んでないだろう団長に、


「すまない。が、今は黙って従ってくれ。でなければ、王都が魔生生物の餌食になる」


 と、状況を端的に伝えるのである。


 それだけで察せないほど団長は馬鹿じゃない。大人しくなり、神妙な顔つきで頷いた。


「分かった。けど…」


 すると、さらに深刻そうな表情で言った。


「とりあえずおろして?」





 そこは玉座の間。

 そこは今や様々な破片が飛び散り元のきらびやかな印象は駆逐された。が、割れたステンドグラスから日が射し込み、美しいというに足る空間であった。


 が、その空間は、全てが破片となった訳ではない。


 背もたれは吹き飛んだが、玉座はまだ座れるだけの部位は残っている。

 そして、一つの死体が、玉座の間の中心に横たわっていた。

 それは、全身が黒く焦げ、干からびた様に、圧迫された様に肌にシワを刻みながら横たわっていた。

 きっと多くの人間はこんな死にかたしないだろう。

 例えば爆発の中心にいるなんてことしなければ。


 そんな焼死体とも言い切れないモノを見ている人間がいる。

 まるで胸に深い憂悶でもあるような瞳で見続けていた。


 しばらくすると、見ていた人間はその場から去り、空が見える場所まで来ると、上空へ向けて、歪な形をした機械の引き金を引く。すると、ピーッ、とかん高い音が響き、赤い煙が、空へすっと伸び、だが、しばらくのうちに空気へ溶けゆく。


 それを見届けた人間は、首にナイフをあてがって、


「これで、良かったんだよな?団長……」


 そう言って、首から上を、赤い紅い彼岸花にした。



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