表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザースカイ  作者: 徃馬翻次郎
4/4

第4話 見知らぬ空


 おかしい。横転した車両と尻もちをついたヘリに時限式の爆弾をしかけ、鹵獲品を探そうとした連中を吹っ飛ばしてやったのに。人体の一部がちぎれて飛ぶのを確かに見た。あれを間近で見て平静でいられる人間がどれだけいるってんだ。念入りに仕込んだ対人地雷は身体と同時に心もくじく。前に進もうとする気力を奪ったはずだ。足がちぎれた仲間を踏み越えて来たってのか。

 こっぴどく叩いて捜索を諦めさせるはずが、迫りくる武装集団の勢いが諦めない。奴等、応援を呼んで山狩りまで始めやがった。カーター大尉の指揮で足跡は慎重に消したと思うが、連中の追跡者が一枚上だったようだ。今、負傷者を抱えた輸送部隊キャメル60は包囲されている。空からの救援部隊は三十分とない位置にいるが、その半時間が問題だった。


「Bベース、キャメル60は緊急事態を宣言」


 助けに来るだけでなく投入可能な支援は全部寄こせ、というカーター大尉の要請は至極真っ当なものだ。まごまごしていると圧倒的な兵力差で押しつぶされて一巻の終わりだ。戦闘は防御側が有利だとしても限界がある。どこからか炭酸飲料の栓を抜いた時の音に似た響きが遠くから聞こえ……迫撃砲だ。


「伏せて!」


 大尉に言われるまでもない。我々が立て籠もる急造陣地よりはずいぶん手前に着弾した迫撃砲弾は大量の土砂を天高く噴き上げて終わった。だが、次がある。弾着を修正して陣地に寄せてくるはずだ。


「くっ、いったいどこから……」


 大尉が火点を確認しようと身を乗り上げた瞬間、飛来した一弾が彼女の首筋をえぐる。鮮血が散って大尉は仰向けに倒れ込んだ。


「大尉!」


 ひどい出血だ。流血にはなれているのに目まいがする。地鳴りのような響きがしたのは気のせいだろうか。


「「軍曹!」」


 ジョーダン伍長とマット特技兵が一時に叫んだ意味は明白だ。とうとうキャメル60の暫定指揮官になっちまった。ジョーダン伍長に迫撃砲の位置を探すように命じ、マットに大尉の圧迫止血を命じる。そして、主なき無線機をひっつかむ。


「いいからとっとと騎兵隊を寄こせ!どこがグリーンゾーンだ!情報部の連中に化けて出てやると言っとけ!」


 力いっぱい怒鳴ると、ごそごそと雑音がして聞きなれた声が聞こえた。


「ダニエル!無事か!?」

「オニール、正直無事じゃない。生きているのが奇跡だ」

「落ち着け!ハモンド指令から許可を貰った援軍がもうすぐ着く」

「そんなのどこに……」

「オレの言う周波数に合わせろ。相手のコールサインはスカイロード2だ」


 捨てる神あれば拾う神ありとはこのことだ。頭上には非武装だが通信や部隊完成に特化した航空機がとんでいて、そいつは魔法のランプのように味方を呼んでくれるはずだ。


「こちらスカイロード2。戦術航空管制を行なう。貴隊の位置をスモークでマークせよ」


 人間味を感じさせない偉そうな声だが、そんなのは気にもならない。この急場では神か守護天使の登場に等しい。


「ジョーダン、スモーク!」

「了解。スモークは黄色!」

「キャメル60からスカイロード2へ、黄色発煙を確認したか?」

「あー、画像は確認したが敵味方の区別が……」

「いいから早くやれ!」

「了解。キャメル60、頭を下げてろ」


 この時、皆と一緒に遮蔽物の陰に隠れるべきだったんだが、しつこく砲弾を浴びせてくる迫撃砲が気になった。


「ジョーダン、銃を貸せ!」


 遺跡の中に唯一残っていた高所は半分くずれかかっている尖塔だけだったが、この際、贅沢は言っていられない。螺旋階段を駆けあがって屋上に出ると腹ばいの狙撃態勢をとる。

迫撃砲陣地はジョーダン伍長の報告とほとんど同じだ。


「横着しやがって、これでも食らえ」


 続けざまに迫撃砲手を三人仕留めたところで交替がいなくなった。スコープ付きの銃なら外れない距離であっても仲間の命が掛かっている。流石に手が震えた。相手も必死で反撃してくる。雨あられと銃弾が飛来して砂煙を上げた。首を引っ込めて狙撃位置から後ずさるのと同時に援護の航空機が低空で侵入する。


「おお、艦載機だ」


 爆撃任務途中で近接航空支援に借り出されたのか、空母艦載機は大型の爆弾をいくつか投下して去った。その次に登場した地上攻撃期は爆弾投下後も機首の機関砲で地上を縫うように掃射したので、武装勢力の抵抗はたちまち微弱になった。


「軍曹、仕上げに戦略爆撃機が待機しているそうです!」


 無線を引き継いだマット特技兵がとんでもないことを言い出す。


「そいつはキャンセルだ。みんな生き埋めになっちまう」


 冗談を言いながら起き上がった瞬間、例の対戦車ロケット弾が武装勢力側から発射された。実は、そのロケット砲には初期ロットに欠陥があった。照準よりかなり弾着が低くなる。そのため、地面を撃ってしまう事故が続出した。低価格によって欠陥を隠す形で世界中に輸出されたロケット弾のひとつに狙われたわけだ。

 尖塔の基部に命中したロケット砲弾は信管を作動させて炸裂、ド派手な崩落事故を発生させた。もちろん、屋上に上がっていた人間も無事ではすまない。


 ところが、いつまで経っても地面に落ちない。がれきに埋まりもしない。真っ暗な穴の中をどこまでも落ちていくだけだ。


「う、う、ああ、もう死んだってことか?」


 噂に聞く死亡直前のスローモーションもなければ、人生を振り返るダイジェストもない。国家を守る任務を忠実に果たした結果の扱いがこれでいいのか、とだんだん腹が立ってくる。人殺しの数で量刑を決めるのなら地獄行きは免れないところだ。今度こそ、神様に文句を言う時が来たな。


「天国でも地獄でも早く決めてくれ!」


 よかろう、という声を聴いた気もするが、次に目を覚ました時には寝床の上だった。


(な、なんだ、夢だったのか……)


 夢にしてはリアルだった。細部まで凝っていたというか、大小の破綻がない。火薬のにおいや触覚まで現実と何らかえわるところがなかった。

 

(それにしても、どこの寝床なんだ?兵舎の寝床はマットレスだし……)


 何となく周囲の景色が色あせて見える。セピア色とでも言うべきか、色彩が足りないのだ。人を呼ぼうとも思ったが声が出ない。ひどく喉を傷めているようでひりひりする。


「おや、お目覚めになられましたか」


 ノックのあとに、修道僧のような格好をした人物が部屋に入ってきた。今時珍しい木製の桶を抱えている。タオルらしいものも持っているが布地が荒そうだ。そう言えば、ベッドのシーツもおかしい。照明のかわりに蝋燭を使うのは新しい自然主義者だろうか。そう言えば、調度品のどれもが骨董品に見える。


「う、あ……」

「どうか無理をなさらず。ひどい脱水症状で行き倒れておられましたからね。海綿でいくらか水を飲ませてさしあげましたが、治癒師を呼ぼうにも修行派の私共では手元不如意でできることをして差し上げるほかなかったのですよ」


 黙礼しながら考える。治癒師とはなんだ。スピリチュアルなヒーラーか?ここが病院だとして、電子機器の一つも見当たらないのは部族の掟か?


「う、うぐ」

「辛そうですね。薬草に詳しい同志に薬を調合してもらいましょう。そうだ、お名前をうかがっておきたいのですが、小さい声で結構です。喋れますか?紙を持ってきましょうか?」


 こんな時はビッグ3を答えるだけでいい。所属、階級、姓名の三つだ。それは捕虜の尋問でも同じ。だが、喉が引きつって思うように舌が回らない。


「私……は、シ(ェ)フ(ィールド軍曹)……」

「ええ、ええ、シフさんですか?わかりました。シフさん。一応、役人に届を出さなければなりませんのでね。無理をさせて申し訳ありません。では、また、すぐにうかがいます」


 情けない。ビッグ3どころか名前も満足に言えなかった。それにしても、尋問官にしては底抜けに親切な男だったし、これなら裸にむかれて犬をけしかけられることもなさそうだ。まずは体力をつけて、情報収集から始めるとするか。ここが地球の何処かならどうにかなる。窓の外に見える空の色がいやに綺麗で澄み渡っているのが気になったが、祝日か何かで工場が休みなんだろう。そうに決まっている。


いつもご愛読ありがとうございます。

異世界転送魔法陣はカーター大尉の血液で発動し、受け取る側の設定が不調だったために荒野に放り出された感じです。『ドラゴン・アノマリー』のシフさんは空海和尚か役行者に寄せてそれ以上の説明をしなかったので、本編外で書いてみました。

徃馬翻次郎でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ