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アナザースカイ  作者: 徃馬翻次郎
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第2話 回る空

※作者の軍事知識は非常に狭小かつ正確ではありません。異世界ファンタジーの導入部分として御寛恕いただければ幸甚に存じます。


 オニール曹長がくれたプレゼントは投入予定地点までの空輸だった。普段なら申し訳程度の装甲がついた高機動車に商売道具を載せてどこまでも陸路を行くんだが、今回は輸送ヘリに便乗させてもらうことができた。この機体の前後に発動機が付いている大型の回転翼機は重武装の河川舟艇を乗組員ごと懸垂吊架して飛ぶこともできるとんでもない力持ちだ。現に、爆発物処理班所属の高機動車はヘリの床下で宙づりになっている。その他にも、予備の弾薬や無線機材にくわえて携帯食料まで所狭しと積み込んでいるのだから、けっこうな速度で飛んでいるのが不思議な気分だ。


「キャメル60からBコントロールへ。まもなく変針点。スケージュールに遅延無し」


 インカムから機長のご丁寧なアナウンスが響く。空飛ぶキャラバンてわけかい。確か、機長はカーター大尉と言ったか、同じ年くらいの女性パイロットだ。同じ陸軍でも空を飛んでる者は出世の基準が違うのか、と言いたくなるけれども、機上整備員が言うには、強行着陸からの負傷者搬送や機体横のドアガンで近接航空支援をしたこともある男顔負けの女丈夫らしい。操縦席に貼ってある赤ん坊の写真が子供さんのものなら、相当手荒い肝っ玉母ちゃんてことだ。さっきの旋回する予告や飛行スケジュールにしても、民間機のようにいちいち機内放送で報せる義務はないから、男女は別にして細かな心配りのできる士官とも言えるな。


「いいひとみたいですね!」


 爆発物処理班の仲間で運転手と護衛を兼ねているジョーダン伍長が耳打ちする姿勢で叫んできた。インカムを介しない場合、こうでもしなければ爆音の機内では何も聞こえない。


「ああ?ああ」

「つれないなあ。軍曹とお似合いじゃないですか」


 この野郎、言うに事欠いて士官にちょっかいをかけさせようってのか。その度胸は立派だが、もう少し後先を考えた方が良い。


「お前さんは黙っておくことを覚えればもっと出世できるのにな」

「え!?なんです!?」


 爆発物処理班は三人一組だ。処理担当者に近い位置で支援する役目のマット特技兵はと見ると、青白い顔で小刻みに震えていた。


「お、おい、乗り物酔いか?」

「あー、はい。いえ、何でもありません」

「酔い止めを飲んでこなかったのか。清涼剤ならあるぞ」


 胸ポケットから白い錠剤のケースを取り出し、振って見せる。厳密に言えば乗り物酔いには効果がないだろうが、少しは気分がよくなるだろう。


「結構です……あー、やっぱり頂きます。ありがとうございます、軍曹」


 毎度のことで慣れてはいるが、お前は朝飯食って来たのか、と聞きたくなる。騒音でかき消されそうな声だ。こんな生白い細身の男がマッチョな陸軍で三年以上耐え抜き、しかも爆発物処理班に配属されて落伍していないというのはちょっとした奇跡ではないのか。大人しいだけで芯は強いのだとは思うが、ジョーダンの図太いところを見習ってもいいくらいだ。

 他に便乗者は通訳として現地雇用した軍属が一人、一番偉そうにしているのは極東の同盟国で製造された偵察二輪車だな。貨物スペースの真ん中にどっしりかまえてシートベルトの数は人間より多い。まあ、あの国で造られる車両は本当によくできていて、国内に砂漠はないくせに防塵オプションの能力が桁違いだからな。一時、某国の反政府ゲリラが車列を連ねているところが報道されて、その写真にはでかでかと世界的シェアを誇る同盟国車両メーカーのロゴが映りこんでいた。一台や二台じゃない。ほとんど全部の車両だ。その同盟国としては誇らしいやらばつが悪いやら、とにかく、ダートバイクが兵隊より大事にされているのにはそれなりの理由がある。


「二人とも窓から見える範囲で監視を手伝え」


 こう命令しておけばジョーダン伍長は黙り、マット特技兵の気晴らしにもなろうってもんだ。現在飛行中の空域はグリーンゾーンだから攻撃を受ける心配はない。眼下に見える町や村も友好的集落として分類されている。きちんと対価を支払えば休養や補充をさせてもらえる。間違いが起きないように当地の言語習俗に詳しい通訳を雇うのはそのためだ。

 

「なんも見えませんけどねえ」

「自分としては真っすぐ飛んでもらえるとありがたいです」

「うるさい。集中しろ。報告はインカムで行なえ」


 やがて、機長の予告通りに機体が傾いて旋回していることがわかった。


「はい、ぐんそ……ん?」

「どうした?」

「今、銃弾がかすめたような」

「報告は正確に行え、伍長」


 インカムのヘッドセットを外し、窓にへばりつくようにして眼下の敵を探るが判然としない。集落の屋上を全て見渡すには視界不足だ。


「いやー、気のせいかもしんないっす」


 ジョーダンの言い草に怒ってはいけない。言葉遣いはともかく、誤報告を責めると委縮して状況報告が上がってこなくなるからな。ひと昔前の海軍さんが言うところの、潜望鏡発見、てやつだ。理屈は陸軍でも同じようなもので……ヘリの底部から熱々のフライパンに水を落としたような金属音。弾がハネた音だ。撃たれている。


「回避機動!つかまって!」


 被弾報告を上げるより先に機長からの命令が飛び込む。こうなったら便乗者は完全なお荷物だ。シートベルトを点検して邪魔にならないようにするしかない。半面、機長は大忙しだ。ヘリを飛ばしながらいくつも決断を迫られている。まず、このまま突っ切るのか、回れ右をして尻に帆をかけて逃げ出す決断をしなけりゃならんが、カーター機長は荷物をぶら下げたまま、かつ、放り出さずに回れ右をすることに決めたと見える。

 ようやく機体横の扉にある銃座にたどり着いた機上整備員が軽機関銃を操作し始めた。対地攻撃の場合は航空機関砲を改造した回転式多銃身砲を積むことさえあるのだが、こいつは重量制限のせいだな。


「ロケット弾!」


 臨時の射手に鞍替えした機上整備員の悲鳴だ。機長が素早く反応して揺り椅子のような機動でかわす。ロケット弾は空しく機体の鼻先をかすめた。副操縦士の口笛と便乗者の歓声が響く。


「お見事!」


 救世主の機長に対してちゃちな褒め言葉しか出てこない。しかし、無誘導の対戦車噴進弾にしては妙に狙いがいい。あてずっぽうのまぐれなのか。ホバリングしていたわけでもないのに。


「ミサイル接近!」  


 機上整備員の絶叫がお祝いムードを吹き飛ばした。なんて奴等だ。無誘導のロケットで牽制し、動きが鈍くなったところに地対空ミサイルで止めを刺す。嫌らしいまでに洗練された二段構えだ。


「対抗策!」


 ミサイルの赤外線誘導装置を騙すフレア射出を副操縦士に命じたのは操縦で手一杯になっていたからだろう。

 その直後、ものすごい衝撃が機体を揺らす。フレア射出がほんの少し遅れたのだ。


「メーデー!メーデー!」


 もう乗り物酔いどころの話じゃない。ヘリは排水溝に飲まれた木の葉の勢いでぐるぐる回りつつ高度を下げている。


「Bコントロール、キャメル60ダウン、キャメル60ダウン!」


 なんてこった。空飛ぶ荷運び駱駝はここまでだ。


いつもご愛読ありがとうございます。

この物語は四話構成を予定しております。あと、物語の設定は地球でありますがA国B基地はただの記号です。アメリカなりバグラムなりを想像されたり、兵器の名前をご自分で入れてみる読み方もアリだと思います。

徃馬翻次郎でした。


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