伏線の話
伏線をはるのが苦手です。
伏線って難しいですよね。あからさまに書いたらすぐに、
「これって伏線?」
と気付かれてしまう。
かといって、扱いが小さいと、
「え? そんなくだりあった?」
と思われる。
伏線をはるのを諦めてしまえば、
「こんなの書いてなかった! フェアじゃない!」
と叱られるでしょうし。
なので、必死でばれないように伏線をはります。
例えば、「Aという人物が折りたたみ傘を持っている」ことが伏線になるとします。
こんな文章はいかがでしょう。
「開店祝いもかねて、今日は久々に、中学の頃の同級生と会う。店にはまず、Cが来た。こいつは中学の頃バスケ部で、つまり俺と同じ部に所属していた訳だ。といっても、俺は二軍、Cはレギュラーだったが。
続いてBがやってきた。こいつは面白いやつで、中学の時からクラスメイトと組んで漫才をやっていた。今は、一応芸人だと、スマホで所属事務所のホームページを検索し、自分の名前が載っているのを自慢げに見せてきた。でも、舞台に立つことはなかなかできず、今は実家の手伝いで食いつないでいるそうだ。
最後に来たのはAで、こいつは今も頻繁に連絡を取り合う仲の、いわゆる「親友」というやつ。向こうがそう思ってくれているかは不明だが、俺はAを親友だと思っている。職場が近かったので、昼飯を食いに行くとAが居て、そのまま一緒に飯、ということもよくあった。Aは折りたたみ傘を持っていた。」
最後の文、違和感ありますよね。唐突に持ちもの? これ伏線? となるのではないでしょうか。
例文その2を見てみましょう。
「開店祝いもかねて、今日は久々に、中学の頃の同級生と会う。店にはまず、Cが来た。こいつは中学の頃バスケ部で、つまり俺と同じ部に所属していた訳だ。といっても、俺は二軍、Cはレギュラーだった。Cは、みんなこれが好きだったろ、と、わざわざ駄菓子を買ってきてくれた。
続いてBがやってきた。こいつは面白いやつで、中学の時からクラスメイトと組んで漫才をやっていた。今は、一応芸人だと、スマホで所属事務所のホームページを検索し、自分の名前が載っているのを自慢げに見せてきた。でも、舞台に立つことはなかなかできず、今は実家の手伝いで食いつないでいるそうだ。その実家の和菓子を手土産に持ってきてくれたが、並べると駄菓子がしょぼく見えるとCがごきげんななめだ。
最後に来たのはAで、こいつは今も頻繁に連絡を取り合う仲の、いわゆる「親友」というやつ。向こうがそう思ってくれているかは不明だが、俺はAを親友だと思っている。職場が近かったので、昼飯を食いに行くとAが居て、そのまま一緒に飯、ということもよくあった。Aは慎重なやつで、予報で雨だったからと折りたたみ傘を持っていた。」
少しは違和感が軽減されたでしょうか。でも、Aだけ手土産のことじゃないの? とは思われそうです。
この後に、手土産を忘れたAをからかう・叱責するシーンがあれば、「手土産に気が回らない人物であることを示す描写」だと思ってもらえるかも。
例文その3です。
「開店祝いもかねて、今日は久々に、中学の頃の同級生と会う。店にはまず、Cが来た。
「よう、元気してたか?」
外は小雨が降っていて、Cは肩から雨の雫を払い落としつつ笑顔で云う。こいつは中学の頃バスケ部で、つまり俺と同じ部に所属していた訳だ。といっても、俺は二軍、Cはレギュラーだった。「これ、みんな好きだったろ。酒のあてにもできる」
「おお、懐かしいな」
Cは駄菓子を買ってきてくれた。後でみんなで食べよう。
続いてBがやってきた。
「一番乗りだと思ったのに! 途中で雨に降られてさ」
こいつは面白いやつで、中学の時からクラスメイトと組んで漫才をやっていた。今は、一応芸人だと、スマホで所属事務所のホームページを検索し、自分の名前が載っているのを自慢げに見せてきた。でも、舞台に立つことはなかなかできず、今は実家の手伝いで食いつないでいるそうだ。
俺が渡したタオルで雨に濡れた頭を拭い、Bは笑顔になった。
「まあいいや。これ、今うちで一番売れてる、キウイ大福。あんこは俺がつくったんだぜ」
「なんだよ、そういう本格的なの持ってくるなよな。俺の手土産がしょぼく見えるじゃんか」
Bが実家の和菓子の箱をとりだすと、Cは不機嫌そうにそうぼやいた。
最後に来たのはAで、こいつは今も頻繁に連絡を取り合う仲の、いわゆる「親友」というやつ。向こうがそう思ってくれているかは不明だが、俺はAを親友だと思っている。職場が近かったので、昼飯を食いに行くとAが居て、そのまま一緒に飯、ということもよくあった。
「俺が最後かあ。あ、これお土産。っても、駅で買ったやつ。ごめん」
「いいよ。この漬物この辺の名物でさ、お茶漬けにすると旨いんだ」
お土産の箱をうけとる時、Aが雨に濡れていないのに気付いた。「あれ、もう雨やんだのか?」
「雨? ああ、俺、折りたたみ傘持ってるんだ。母さんが煩くてさ」
Aは苦笑いで、肩にかけた鞄に折りたたみ傘がはいっているのを見せた。」
どうでしょうか。かなり自然な流れで、Aが折りたたみ傘を持っていることを示せたと思います。わたしはこんなふうに、色んなひとの説明に紛れ込ませる、という手段をよくつかいます。
ただ、問題点があります。ここまで読んでくれたかたなら解るでしょうが、文章がとにかく長くなるのです。
簡潔で、違和感なく伏線をはれて、冗長にならない。そんな文章の書きかたがあったら、誰か教えてください……。