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7 屋上から

うなされるようにして、清隆は朝目を覚ます。


上半身をおこし、軽く頭を掻く。


「・・・またか・・・はあ・・・。」



また例の如く汗がびっしょりだったので、さっとシャワーを浴び、


早く洗面所を空けんとすると、髪を乾かしているところで、


どこかハイテンションの妹の祈里が鼻歌を歌いながら、入ってきた。


「ふ~ん、ふふふ~ん♪


あれ?お兄ちゃん?」


「ああ、ごめん。


すぐに空けるから。」


「珍しいね。


走って来たりでもしたの?」


「いや、ちょっと夢見がね・・・。」


「悪かったの?」


「・・・まあ。


そっちは機嫌が良さそうだね。


なにかいいことでもあったの?」


「えへへ、うんっ!


内容は秘密だけどね~♪」


「それはそれは。


ははは。」




清隆は学校に着くなり、そのまま屋上へと向かった。


マリアの話によると、この夢もまた虫の知らせの可能性がある。


するとこの場所には何か今後の指針になるようなヒントがあるかもしれない、


こう考えた清隆は恐る恐る、やたらと年季の入った重たい扉に手を掛ける。


すると案外あっさり、鈍い音を放ちながらも、それは開いた。


開けた先にあったもの。



・・・そこにあったのは静寂だった。


清隆以外に誰もいない。


後ろを振り返るも、清隆を追う相手がいない。


空を見上げるも、雨が降っていない・・・あったのは晴天。


あの夢と重なる要素は清隆が屋上にいること・・・ただそれだけ。


・・・当然のごとく彼女の姿はなかった・・・。



そして、生まれたのは彼女が一体誰なのかという奇妙な感情のみだった。



「・・・無駄足だったかな・・・。」



屋上の重たい扉をゆっくり閉めると、不意に声を掛けられた。


「どうかしたのかい?」


その掛けられた声に思わず、件の彼女が話しかけてきたのだと思い、振り向くと、


「っ!?・・・・・・はあ・・・。」


・・・そこには不敵な笑みを浮かべたマリア先輩がいた。


「まったく・・・振り向きざまに溜め息とはなんて失礼な後輩だね。


朝から私に声を掛けられるのはそんなに不快かい?」


「い、いや・・・そ、そんなことは・・・。」


すると、マリアは清隆の煮え切らない返事にどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「そうか、そんなことはない・・・か・・・。


まったくそれはそれで困ったものだね。


つまりは何かな?君にはこの私がため息が出るほど美しく見えるそういうことかね?」


彼女はこう揶揄うように返答し、楽しそうにこちらの反応を待っている。


しかし、今の清隆はひどい肩透かしを食らったせいか、


とてもそれに乗るような気分じゃなかった。


「・・・はあ・・・まあ・・・。」


「・・・なんだい?その反応は?


先日までの初心な君はどこに行ったんだい?


まあそれはそれとして、君とこんな人がそうそう来ないところで会うなんてなにかあったのかい?」


なにかあったのかい?


こんな風に聞かれるほど珍しいことだろうか?


それにここに来ると、たいていの場合人に会うんじゃないだろうか?


なにせここは屋上だ。


「そうそう来ない?」


清隆はこのフレーズに引っ掛かりを覚え、思わず聞き返す。


するとマリアの答えは思いのほか早く帰ってきた。


それもまるで清隆の考えていることなんかわかっているといった風にほぼ同時に。


実際そうなのだろう、マリアの様子は事もないといった様子だ。


彼女は嘲るように言う。


「もちろん、知っているさ。


ここは昼時にはカップルという名の男と女であふれる。


お弁当の食べさせあいっこなんかをしたり、


膝枕をしてもらったりと、


陳腐で滑稽なありふれた幸福劇が上映されている映画館さ。」


・・・そこまで言わなくても・・・清隆はこう思うが、口には出さない。


すると彼女は清隆がそれに同意したのだと思い、気をよくしたのか、


早速本題に入った。


「・・・でもこの時間帯に君にここ屋上で会うというのはね・・・少しばかり特殊じゃないかな?」


「・・・特殊?」


「見たところ特に何か用があった様子もない。


ここに入って出てくるまでわずか数分だったことから考えてもそれは正しいだろう。」


「・・・見ていたんですか・・・なら声を掛けれてくれれば・・・。」


すると、やけにしおらしく答える。


「そんなはしたないことができるはずがないだろう・・・男の人に声を掛けるなんて・・・。


私は清い乙女。大和なでしこなんだから。」


『いやいや、あなた、どう見ても見かけでは日本人じゃないでしょうが。


そもそも・・・清いってどういう・・・。


・・・それに大和なでしこはのぞき見なんてはしたない真似はしないと思う。』


清隆のそんな言葉が発せられるより早く、さえぎるように口を開く。


「まあそれは冗談さ。


こんな・・・この時間帯に人が滅多に来ないであろうこの場所に君が来るのが見えた。


だからこっそりのぞくことにした。


そうしないとなぜ来たのか理由がわからないだろう?」


「・・・まあそれは・・・。」


「だろう?


そして私が隠れて覗いていると、君は何もせずにここから出てきた。


一体何をしていたんだい?」





虫の知らせとやらが見せたのが今日のことではなかったと思ったのか、


はたまた誰かにこの夢のことを聞いてほしかったからか、


俺は相談相手たる彼女に今日見た夢のことを話し始めた。


嘘偽りなく。


包み隠さず・・・すると、不運にもすぐさまチャイムが鳴り響く。



マリアは残念だねと会話を中断し、


清隆は放課後に部室に来るように言った。



もし何か予定が入ったらいいとは言われたが、行くつもりだ。



・・・もし何か予定が入ったら?





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