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6 (鬼ごっこ1)

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・。」


昼休み時、男は全力で駆け抜けていた。


なぜかって・・・そりゃあ・・・。


どこからともなく聞こえてくる怒声。


「睦美ぃぃぃ~~っ!!まてやこらぁぁぁ~~っ!!」


「っ!?」


やばい、来たっ!!



・・・猛獣に追いかけられていたから。



激しく床を叩く音が聞こえる。


明らかな全力疾走だ。



「い、委員長が廊下は走っちゃダメだろっ!!」


「そんなことはわかってるっ!


でもあんたが逃げるんだから仕方ないっ!仕方ないのっ!!」



・・・どういう原理だそりゃあ。



呆れつつも走るのはやめない。


今の話からしてきっとなにか俺にとって都合が悪いことがあるから。



俺は水道の蛇口をひねる。


そして粉せっけんをばらまいた。



委員長は思わずブレーキを掛けるが、


加速のし過ぎだったのだろう。


そのゾーンに入ってしまった。


「うわっ!」


ステーンっ!


俺は結果も確認せずに逃げ出したが、


どうやら成功したようだ。


「逃げるな~~~っ!!」


俺が去っていく後ろからは、激しい怒声が聞こえるのだった。




はてさて、


なぜだったか?


ああ、そうだ。


昼になったので弁当を食べようと思い、手を掛けた時だった。


「睦美く~ん?」


この声を聴こえたんだ。


声は優しいそれ、


おそらく笑顔も張り付けていたことだろう。


なぜおそらくかって?


そんなの怖かったから振り向くことすらできなかったからだ。



何回も叱られていると怒っていることがわかることがある。


たとえば、家族が笑顔で優しい口調なのに怒っていることがわかるときがあるだろう?


要するにそれだ。


俺はそれを彼女から感じ取った。



まったく・・・短い付き合いなはずなのにな・・・。



それだけ何回も怒られていることが少しばかり情けないが、


今はそんなことは関係ない。



すると、俺はいつの間にか駆け出していた。


脱兎のごとく。


そうして鬼ごっこと言う名のデスゲームは始まった。



こんな顛末だっただろうか?



俺はある扉に手を掛ける。


古いせいで立て付けが悪くなっているのだろう。


軋むような音を立てながら、


扉は開く。




灰色の空。


シンシンと降る雨。


そして俺。


そこにあったのは静寂だった。


先ほどまでの呆れるような騒がしさから解放されたからか、


ふとため息が漏れる。


「・・・ふう・・・。」



そこは屋上。



普段ならば、


多くの人でにぎわっているであろうそこには、


雨だったせいだろうか、


誰もおらず、俺が一息吐くにはちょうどよかった。



すると一度目のチャイムが鳴る。


「ふむ・・・あと5分か・・・。」


この時間を乗り切れば・・・。



「・・・3、2,1・・・ふう・・・。」


キーンコーンカーンコーン!


そして2度目のチャイムが鳴った。


「・・・何とか逃げ切ったか。」


・・・予想より呆気なかったな。


もっと精魂尽き果てて逃げ切ると思っていた。


というか、いつもはそうなる。


まあ、もっとも捕まったことは一度たりともないが。




「案外さっきのアレが効いているのか?」


思い付きでやった悪戯が。


ほどほどに子供らしく、あくどいそれが。



あれは転ばせることだけが目的ではない。


その程度では大した時間稼ぎにはならない。



・・・犠牲はいくつかの掃除道具か。


必要な犠牲だった。


いずれ修理してやるからなっ!!



少ない犠牲によって十分な時間稼ぎがなされた。


よって俺は自由の身となった。




ぐう・・・。


すると安心したのか、


腹が減っていたことを思い出す。


あいにくの雨も上がったようだし丁度いい。


まあ、暗澹たる空が広がっているのは変わらないが・・・。


明らかに俺の未来を示しているそれは・・・それは視界に入れないようにする。


弁当箱を広げる。


「・・・さて・・・飯でも食べるかな・・・。」


さっき全力疾走したからな・・・


・・・たぶん中はぐちゃぐちゃだろうけど・・・。



・・・というか俺ずっと弁当持ったまま走っていたのか・・・。



どうやら自らの危機に食への執着が生まれたようだ。


「・・・まったく・・・。」


自分のそんな食い意地?に呆れる。



・・・なにはともあれ少し遅めの昼食を・・・。


そうして弁当を広げようとした時だった。



後ろから鈍い重たそうな音が聞こえる。




俺はまさかと思い、


後ろを振り向く・・・



・・・が、


どうやらそれは杞憂だったようだ。


噂なんてものをしなかったのがよかったのだろうか、


出てきた相手は似ても似つかないタイプだった。



相手は髪はぼさぼさ、目はうつろで、その下に大きな隈を作った女の子だった。



「・・・にたい・・・り・・・。」


俺はうわ言のように不吉な言葉を呟く彼女に声を掛ける。


「なあ、あんたもサボりか?」


ビクッ!


彼女は俺を見るなり、


ひどく驚いた顔をした。


そして、何かを呟いたと思ったら、


怯えるように去って行ってしまった。



「・・・睦美さん・・・か・・・。」


どうやら俺は彼女とどこかで会ったことがあるようだ。


俺としてはまったく身に覚えがないが・・・いや・・・


・・・どこか引っ掛かりが・・・



・・・あの顔はどこかで・・・。



一瞬でも彼女のことを考えたのがマズかったんだろうか?


「ねえ、睦美く~ん?」


ビクッ!


後ろを振り向かなくてもわかる。


きっと彼女は満面の笑みだろう。



・・・そして内心は・・・。



・・・どうやら今日は居残りのようだ。



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