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4 マリアとの出会い

後悔やれ情けなさからの溜め息を一通り吐いた後、


教科書なんかを机にしまっていると、


手を滑らせて、ある一枚の紙を下に落としてしまう。


拾うために屈もうとすると、不意に声を掛けられた。


女の人の声だ。


「睦美くん、ほら。」


どうやら誰かが拾ってくれたらしい。


お礼を言おうと、顔をあげると、


そこにはメガネを掛け、髪を肩口辺りで切りそろえた女性がその紙に目を落としながら、


頷いていた。


「おはよう。


どうやら進路志望届はしっかり書いてきたようね。」


・・・げっ・・・委員長・・・。


思わず口からそんな言葉を漏らしそうになるが、咄嗟に口をつぐむ。


口は禍の元。


折角機嫌が良さそうなのに、怒りを買うのはあまりにも馬鹿馬鹿しい。


「ありがとう。」


清隆は素直にプリントを受け取り、興味がわいたのか彼女に理由を尋ねてみることにした。


「機嫌が良さそうに見えるけどなにかあったの?」


「ん?


ええ、誰かさんがちゃんと提出物を持ってきたからね。


安心したのよ。


朝から怒らなくていいものね。」


ひどい皮肉に苦笑いを浮かべつつ、


彼女にごめんと謝り、職員室に向かうことにする。



果たして委員長はなぜ目を丸くしていたのだろうか?



職員室に入るなり、怪訝な視線を送りつける取次ぎの教師。


そして来る担任の疑惑の視線からの驚愕。


極めつけには、ある体育会系中年教師の一言。


「あの睦美が・・・。」


因みにこれが一番オブラートなそれ。


これだけ聞けばわかるだろう?


温厚と名高い面倒くさがりのサボり魔は次に何をするか?



非常に不愉快だったサボり魔はすぐさま教室に帰ることを諦め、寄り道することにした。


『こんな気分で教室に戻って普段の学校生活を送る?


冗談じゃない。


誰もかれも今日は少しばかり大人しいからって過激に反応し過ぎなんだよ。


僕・・・俺だってそんな気分のときもあるっての。』


これが彼の弁である。



始業のチャイムが鳴った頃、


清隆は自販機で紅茶を買って、いつも通り屋上、または誰もいない教室へ向かわんとしていた。


問題はどちらにするか?


空を眺める。


雲一つない青空。


日差しも強くもなく、弱くもない。


「今日は屋上かな?」


行き先を決め、授業中の教室を避けつつ、


目的地を目指す。


当然ながら廊下に生徒は1人もいない。


閑散としている。


そのことに安心して清隆が階段に足を掛けた瞬間、


なにやら物音が聞こえた。


上からだ。


「えっ?」


上を見上げると、


窓が開いていたのか、


風と共に、散った桜の花びらが清隆に襲いかかる。


手で目の辺りを覆うとするが、


それをやめる。


なぜかわからないが、


目を凝らさなければならない気がした。



すると、


桜の花びらにまぎれて何かが視界に入る。


「・・・銀色・・・?


いや・・・あれは・・・。」



すべってバランスを崩したのか、


はたまた転んでしまったのかはわからないが、


女の子が落ちてきた。



銀色が花のように広がる。


それに一瞬見とれるが、


そんな場合ではないと考えなおす。



人が落ちてきている。


それもおそらくは頭が下を向いている。


場合によっては即死だ。



俺は足を一歩引き、彼女を抱えられるように膝を折り曲げる。



ふとしたとき、思わず疑問を抱く。


あれ?


俺ってこんなに動けたっけ?



そんな戸惑いを覚えていた俺をよそに、


すぐに重さはやってくる。



「くっ!」



膝を折り曲げるタイミングが良かったおかげか、一瞬すごい重さを感じたが彼女を落とさずに済んだ。


「・・・よかった・・・。」


安堵から一息吐いて、


女の子の表情を窺う。


すると、


「っ!?」


銀糸のような髪に青い瞳の女の子が優し気な笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。


清隆は驚愕に目を見開き、思わずあることを思う。


「まるで天使みたいだ・・・か?」


「っ!?


・・・口に出てたかな?」


すると、彼女の聖女のごとき笑みはどこか楽しそうなものに変わる。


「いや、別に?


ふふふ、まさか本当にそんなことを思っていたのかい?」


「・・・ははは・・・いや、その・・・。」


清隆はどうしようもなくしどろもどろな返答を返す。


「ふふふ、ありがとう。


褒められるのは悪い気はしない。


それがたとえどんなに陳腐であったとしてもね。」


「・・・・・・。」


「・・・でもね、そんな天使も体重のことを言われると気分が悪くなるものなのだよ。


こんなんでも私は女なんだ。


悪いがさっきの呻き声はかなり不快だったよ。」


彼女は口元をとがらせながらそんなことをのたまう。


「ご、ごめんっ。」


「な~に。


単なるジョークさ。


僕が軽いのはわかっているさ。


なにせ・・・ねえ?」


彼女は流すような視線を清隆の腕に送り、それを優しく撫でつける。


ビクッ!


「っと、危ないじゃないか。


優しく降ろしておくれ。」


「わ、わかりました。」


俺が彼女を下ろし、


呆けていると、


彼女がポケットの中から何やら名刺のようなものを取り出し、


丁寧に手に握らせてきた。


「ほら、よかったら、放課後にでも来ておくれ。


君は命の恩人だからね。


お礼でもしよう。」


そう言って彼女は階段を昇って行ってしまった。



名刺に視線を落とす。


「オカルト研究会・・・美鈴マリア・・・。」



3限目あたりに教室に帰ると、


三・・・二種類の視線が送られてきた。


奈緒美の心配そうな視線と、委員長のまたかといった呆れの視線。


前者に軽く手を振って答えると、奈緒美は安心するように息を吐く。



イケメンの俺も誘ってほしかったという視線は気のせいに違いない。


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