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2 悪夢から覚めて

男は()()()()()()()()、息苦しさから目を覚ます。


「っ!?はっ、はあはあはあ・・・。」


男は体中を触りまわる。


自分が生きていることを確信するためだったのか、


それが終わると安心したように息を吐く。


「はあ・・・。」


残ったのは倦怠感。


ひどく荒れた呼吸。


額ににじむような汗。


男の口から不意に言葉が零れる。


「・・・あれは・・・一体・・・。」


彼が見たのは夢。


所謂、悪夢という奴だろう。


普通の場合、悪夢であっても夢は夢。


精神的な倦怠感は案外夢から覚めれば消えてしまう。


けれどもそれが消えることはなかった。



妙にリアルな夢だったせいだろうか、


幸せからのどん底、


追い詰められた心までもそこにはあった。



そしてなにより・・・


最後の空を舞っている感覚、


その時の後悔、


・・・そして死への恐怖すら、残っている。


今なお、そのすべてがついさっきまで目の前にあったかのように感じる。


ブルッ!


清隆は軽く身を震わせる。


おそらくひどく汗を掻いたせいだろう。


「仕方がない・・・シャワーでも浴びるか・・・。」



キュッキュ・・ジャアァァァァ~~~ッ!!


口をひねると、シャワーヘッドから水が流れ始める。


すると程なくして、口から言葉が漏れる。


「・・・気持ちいい・・・。」


今の時期にこんな冷たい水は体に悪いだろうが、今は火照った体に心地よい。。


まるで汗が流れていくのとともに、


先ほどのどうしようもない感情も流れていくかのようだ・・・。


「・・・・・・。」


・・・いや・・・けれどもやはりそれはない。


体は綺麗になっていくが、


記憶ではなく魂にこびりついてしまったとでも表現すればいいだろうか、


心の中はやはりそう簡単にはクリアにならない。


髪をかき上げ、顔に直接水を当てる。



清隆は火照りが冷め、クリアになった思考で考える。


「・・・なんだったんだ・・・あれは・・・。」


7,8時間という睡眠時間の割にはあまりにも・・・あまりにも密度の濃い夢。


過去の記録。


ある男の短い半生。


ざっと15年近くだろうか?


清隆はそのときに起きたことをほとんど覚えていた。


まあ、芸能人の誰が結婚した、離婚したなんていうありきたりのことは忘れてしまったようだが・・・。


それでもほとんどのことを覚えていた。


彼女の・・・彼女たちのことを・・・。



キュッ!キュッ!



・・・あまりにも鮮明に。


これをただの夢と・・・ただの悪夢と断じていいものか・・・。



それから数分考えに没頭するが、


情報があまりにもないので考えていても仕方がないと思考を中断して学校に向かうことにする。



気分が晴れない中、いつもの通学路を一人行く。


清隆の気分は依然悪いままだ。


このまま学校で聞きたくもない授業を永遠に近い時間聞き続ける?


この問いが浮かんだ瞬間に答えが出た。


「・・・こんな日はサボるに限る。」


そう口に出し、進行方向を変えようとするや否や


「おはよ。どこ行くの?」


「うわっ!?」


すっと横の曲がり角から咲夜が出てきた。


「ふふふ、今日は成功。


久々の白星。」


彼女は口元だけの軽い笑みを浮かべている。


そんな彼女の反応に呆れつつ、


「・・・咲夜・・・いい加減その登場の仕方やめてくれない?」


「うん、やめるつもりだった。」


正直急に出てこられたりすると、


心臓に悪い。


「そう、それはなによ・・・「でも久々に反応があって面白いからやめるのをやめることにする。」


彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「なっ!?」


唖然としている清隆をよそに、


咲夜はそれじゃあと言って、先に行ってしまう。


どうやら悪戯の成功に満足したのか、


清隆がどこに行くのかという疑問は彼女の頭からはじき出されてしまったようだ。


「・・・相変わらずの気分屋・・・。」


そう言えば、彼女の手には楽譜が入っているであろうファイルがあった。


どうやら朝練があって急いでいたのだろう。


ということは・・・?


「・・・それなのになんで俺のことを待ち伏せ・・・。」


おそらく彼女は自分の欲求を優先したのだろう。


「・・・まったく・・・。」


自然と苦笑が漏れる。


少し笑ったせいだろうか、


咲夜のいつもの能天気さに圧倒されたせいか、


少し気分が楽になったのだろう気のせいか清隆の足取りは先ほどより軽やかに見えた。



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