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17 気まずい

お化け屋敷から出た後、


そこにあったのは沈黙だった。


普通、


『次はどこに行く?』


だったり、


『ご飯はいつにしようか?』


だとか、


『さっきは怖かったね。』


だとか・・・は・・・まあ、ないか・・・俺はさっき怖くないって言っちゃったし。


まあ、その流れでとんでもないことを言っちゃったのが、


全ての始まりなわけだが、


『頼ってよ。』


はまあ、まだ問題ないとしても・・・。


『俺は由佳里さんの彼氏でしょ?』


これはまずい。


非常にまずい。


今、冷静になって思ってみてもまずい。


いや、だからこそまずい。


冷静に解釈すると俺はとんでもなく・・・いや、やめておこう。



彼女がこちらをチラチラと見つめている。


きっと次はどこに行こうか、


と尋ねたいに違いない。


うん、それに違いない。


決して調子に乗った俺に対して不快感を言葉にしようとしているのではない。


「ははは。」


「うふふ。」


2人して顔を見合わせ、


ぎこちない笑みを浮かべる。


「「・・・・・・。」」



・・・うん・・・限界だ。とにかく気まずい。


彼女には悪いけど、


彼女が何かを言う前にどうにかしなくては・・・。


周りを見渡すが、


視界に入るのは数々のアトラクション。


しかし、それには彼女を連れて行かないわけにはいかないだろう。


いや、敢えて彼女の苦手だと言っていたものを選べばいいだけの話だが・・・。


・・・そんなことをデート開始序盤にするのは流石にまずいだろう。


何かの拍子に咲夜に伝われば、それこそ冗談抜きで東京湾だろう。


信用を裏切ったわけだから。


・・・何か・・・何かないのか?


俺はさらに視線を彷徨わせる。


するとちょうどいいものを見つける。


「っ!?」


いいものを見つけた。


・・・並んでいるけど仕方がない。


いや、それがいい。


俺は理由を作って逃げることにした。


「ソフトクリーム買ってくるけど、なに味がいい?」


ソフトクリームの屋台。


・・・10人いないくらい並んでいるけど、それがむしろいい。


「あっ、はいっ、なんでも・・・や、やっぱり、さっぱりしたやつで。」


「うん、それじゃあ行ってくるから。」


・・・こんな感じで。


・・・・・・笑いたくば笑え。


俺だって奈緒美や咲夜くらいしか、女の子の知り合いはいないんだ。


仕方ないだろう。


俺は勢いのまま、そこに向かって駆け出した。


時間が解決してくれることを祈って。




「あっ・・・行っちゃった・・・。」


1人残された彼女の口から思わずそんな言葉が漏れる。


そんな彼女に気が付くまでもなく、


男は走って行ってしまう。


それを見送る私・・・。


「・・・って、なんで私ついて行ってないの?」


このままじゃあ、また奢ってもらうことに・・・。


・・・まあ、チケットは貰い物らしいから・・・奢ってもらうのとは少し違うけど・・・


・・・奢ってもらうことになっていないってことにしたけど。


・・・清隆さんがそういうから・・・。


・・・でも今回は・・・。


「お、追いかけなくっちゃっ!」



彼女も彼と同じように駆け出さんと一歩を踏み出す。


勢いよくその一歩を。


「っ!?」


すると、彼女は何かに気が付いたのか、


数歩進んだところで足が止まる。


視界の先には別段何かがあったわけではない。


今、追いかければすぐに追いつくことができるだろう。


けれども彼女はそれができない。



・・・うん・・・無理・・・またさっきみたいな空気になったらと思うと・・・。


厳しいものがある。


そして、それは間違いなく起こることだろう。


『睦美さんは・・・彼氏・・・なんですから・・・。』


爆弾発言も爆弾発言。


彼女がいる男を自分の彼氏呼ばわり。


それも今日はとかいった条件付けなし。


咲夜さんに聞かれたらと思うと申し訳ない。


もちろん彼自身にも。


お化け屋敷では清隆さんが気を遣ってくれたけど、


外に出てからは何にも話してくれなかったし・・・。


・・・もしかしたら本当は怒っていたりなんて・・・。


先ほどまでは暗がりだったせいもあり、表情まではよく見えなかった。


その事実を知るのが、少し怖い。


恐怖で錯乱していて言ったと言えば、


許してくれそうだけど・・・。


・・・流石に今は・・・。


思わず苦笑いが浮か・・・ばない。



彼女はもちろんそのことを考えていた。


けれどもそれと同時に別のことを考えていたから。


そして、どうやらそっちの方が彼女にとっては大きなことだったようだ。



『俺を頼ってよ。』


『由佳里さんの・・・。』


この言葉が先ほどから私の頭の中でループしているからです。


フォローの一環だとわかっていても、


どうしても頬に熱がこもったり、


口元が緩んだり、


はたまた彼のことが気になって目が行ってしまいます。


もちろんというかなんというか、


今も目が遠くにいる彼に行ってしまっています。


先ほどから彼が心なし3、4割増しでかっこよく見えるんです。



「・・・これは一体・・・。」



兎に角、いろいろ混乱していて、


できれば一呼吸置きたい。


丁度いいところにベンチがあるそこに座って考えよう。


この気持ちは一体何なのか?



そこには遊園地という楽園にはにつかわしくない二人の男が歩いていた。


いや、片方は似つかわしくないこともないことはない。


カットソーにジーンズ、


それに金髪と・・・場所と絡めるとナンパという言葉がどうしても浮かんでしまうような存在だ。


だが、サングラスをかけた黒髪の男は明らかに違った。


その空間にどこか裏の世界を感じさせるような雰囲気を纏っていた。


そんな人間がなぜ休日の遊園地にいるのか?


理由は単純明快。


仕事だ。



不良っぽい男こと、並木平は不機嫌だった。


「ちっ!」


先ほど駅で見た女が彼氏持ちだったのだ。


「つまんねぇ。」


「何か言ったか?」


「い、いえ、なんでもないっすっ!」


ま、まさか兄貴に聞かれるなんて・・・って、っ!?



「いい加減にしろ。


ここにいる堅気のやつらは休みだが、俺たちは今日は仕事だ。


時と場合をわきまえ・・・って、あの馬鹿どこいきやがった・・・。」


男は呆れた声を漏らす。


そして、顎に手を当て考える。


自分だけ先方のところに行くか、


はたまたあの馬鹿を探すべきか?


時間に余裕を持ってきたが、


あの馬鹿がどこに行ったのかわからん。


探すとなれば、遅刻する可能性がかなり高い。


園内放送でもすれば話は別なのだろうが、


あいつが案内所に来るとは思えん。


あの馬鹿の性格は・・・猪突猛進・・・女に向かって一直線。


一瞬理性が戻ったとしてもすぐに新しい女のところに行くことだろう。


それに今もおそらく誰かしらの迷惑をかけていることだろう。


いや、絶対に迷惑をかけていることだろう。


「・・・仕方ない。


先方にこれ以上迷惑をかけるわけにはいくまい。」


男は心底不本意そうに電話をとる。


「・・・あっ、獅子川ですが・・・。」



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