13 待ち合わせ1
10時に駅前の時計に待ち合わせ、
先日そう約束をした俺はそれの30分前にはと思い、
早めに家を出た。
咲夜は・・・なんかやっぱり昼寝?(朝)してから帰るそう。
一応、戸締りをしてきたし、
家の鍵の隠し場所なんかは知っているから大丈夫だろう。
・・・たぶん・・・まあ・・・そのうち母さんも帰ってくるだろうし・・・。
・・・一応メールはしておこうかな・・・。
『咲夜、ちゃんと玄関の戸締りして帰ってね。』
まあ、見ないかもしれないけど気休めにはなるだろう。
いつの間にか約束の場所に着いてしまった。
歩きながら携帯をいじってしまった・・・反省。
まあそれはともかく、今度こそ気持ちを今日のデートに・・・。
「・・・・・・。」
・・・確かにそうしたと思ったんだが・・・。
どうやら彼女はいないようだ。
時間は30分前。
当然と言えば当然。
普通、こんな早く来ないだろう。
俺だって(楽しみ過ぎて)早起きしなければこんな時間に来たりはしない。
行くにしても普通は10分前くらいだ。
俺の場合、ギリギリのことだってないことはない。
まあ、彼女の印象からして遅れてくるようなことはそうそうないだろう。
あと30分ほどは先輩と立てた作戦の最終確認にでも使おう。
確か近くにベンチが・・・っ!?
先に言っておこう、俺が驚きを露わにしたのは花咲さんがいたからではない。
視線の先にいたのは、
明るい髪の女性ではなく、
綺麗な黒髪の女性。
メガネを掛け、片手には一冊の本を持っていた。
どこか浮世離れをした容姿、
どこか文学少女的な要素を持つ女性がそこにはいた。
彼女に注目していたのは俺だけではない。
女性にも嫌悪感を抱かせない容姿だからか、
男女問わずの視線を集めている。
・・・いや・・・うん・・・それが原因じゃないかな・・・?
・・・なんていうか・・・ひどく言い難いんだけど・・・。
彼女には致命的な欠点があった。
「す~・・・す~・・・。」
彼女は本を片手に爆睡していた。
本もよく見ると・・・
・・・初めての恋愛ハウツー~恋は戦争~・・・って一体・・・。
そして、口元には零れそうになった涎。
なんというか・・・うん・・・残念さが滲み出てる。
・・・すごく美人なのに。
「・・・これが噂に聞く残念美人か・・・。」
俺は暇つぶしの一環として、
まじまじととはいかないほどの好奇の視線を周りと同様に視線を送る。
そして何かに気が付く。
「・・・あれ?」
いくつかの特徴からどこか見覚えがあることに気が付く。
細く綺麗な指先、
メガネの下の優し気というよりは頼りなさげな垂れ目、
そして何より破壊力のあるメロン・・・。
「・・・・・・。」
・・・たぶんだけど・・・
花咲さん・・・だよね・・・あれ・・・。
なんでこんな格好を・・・って、ああ、変装・・・。
彼女はテレビに出ていたこともあったはずだ。
それも割と最近まで。
スキャンダル防止ってやつかな?
・・・花咲さんも大変だな・・・。
・・・ではなく・・・
いや、それも気になるけど・・・それはともかく、なんで寝ているんだ?
「ス~・・・ス~・・・。」
彼女はそんな俺の気持ちも知らずに、気持ちのよさそうな寝息を繰り返す。
悪戯でもしてみようか、
なんかも考えたがそれはやめる。
なんていうか・・・今までの感じを見ていると本気で泣かれそう。
今の格好でそんなことをされるのはなんか嫌だ。
できればこの姿のイメージは壊してほしくはない。
・・・これ以上は・・・。
これ以上されたら、
文学少女風の人に反射的に可哀想なものを見る視線を送ってしまいそうだから。
今後の人生になにかしら影響が出てしまう。
などと失礼なことを考えていたのだが、
彼女に声を掛けんとする男が視界に入ったので、
俺は彼女の隣に座る。
その瞬間、男の怨嗟を孕んだ視線が送られたが気にしない。
俺は彼女と約束していたわけだしね。
さっき失礼なことを思ったお詫びと言ってはなんだけど、
彼女が起きるまでくらいは、
眠りを妨げる不届きものから守るボデイーガードにでも徹しますか。
ははは、それは当分だった。