12 朝起きたら・・・
カーテンからこぼれる朝日で、
小鳥の鳴き声で
妹の部活に遅れまいとする駆け足で・・・早く目が覚めた。
時間は7:00。
「・・・まったく祈里め・・・。」
男はこんな風に迷惑がった口調だが、
口元には小さな笑みが浮かんでいた。
「・・・待ち合わせは10時だっていうのに早すぎるだろう・・・。」
・・・いや、正直に言おう。
楽しみだったせいか、
早く目が覚めてしまった。
そう、今日は・・「おはよう。清隆。」
「っ!?」
俺は恐る恐る声のした方向を向く。
するといたのは・・・
「・・・おはよう咲夜?」
・・・鳥海咲夜だった。
「うん。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
見つめ合うことしばし、
俺は口を開く。
「・・・なんでいるの?」
「ふふふ。」
なにその口だけの笑み・・・怖いんだけど・・・。
「・・・何かしたの?」
「ううん、なんとなくやってみただけ。」
・・・なんとなくって・・・。
折角の最高の目覚めだったのに、
けちがついたような気分だ。
「・・・何の用?
今日は忙しいんだけど・・・。」
「わかってる。だから今日は釘を刺しに来た。」
「釘?」
釘・・・金属製の・・・。
朝の寝ぼけた頭でそんな思考を始めたときのことだった。
「由佳里のこと好きになったら怒る。」
「・・・。」
・・・ああ・・・そういうこと・・・。
「ぶつかも。」
・・・ふむふむ・・・なるほどなるほど・・・。
「・・・・・・。」
「・・・東京湾に・・「っ!?わかった、わかったからっ!」」
危ない、危ない。
幼馴染の口からとんでもない発言が飛び出すところだった。
こっちはまだ朝起きたばかりなんだから、
少しはその気分屋も手加減してほしい。
それに・・・東京湾・・・東京湾って・・・咲夜さん、あなた何者ですか・・・。
なんて考えているのもお構いなし。
これが咲夜流。
「本当?」
「・・・うん、わかった。
絶対に好きになんてならないよ。
相手は雲の上の存在だから、どこまで行っても憧れまでだよ。」
言っていて悲しくなってくるな。
絶対に脈なんてないって知っていたけど、
この前の時点でわかっていたことだけど。
俺が誘導された自らの発言に打ちひしがれていると、
彼女は興味を失ったようにこう言う。
「・・・そう、ならいい。」
彼女は立ち上がり、
出口に向かって歩き出す。
そして、扉に手を掛けたところでお腹の音が鳴る。
く~っ。
「・・・・・・。」
振り返って、こっちを見る。
「・・・ご飯食べたら帰る。」
その様子に俺の表情が一転したのは言うまでもない。
「はいはい。目玉焼きでいい?」
こくん。
頷いた彼女の頬が少しばかり赤くなっているような気がした。
恐らくこれは気のせいだろう。
俺と彼女の仲だ。
これくらいで恥ずかしがるような関係じゃない。
昔なんて一緒にお風呂に入っていたような仲なのだから。
でもこれは気のせいじゃない。
どうやら咲夜は花咲由佳里を相当に気に入っているようだ。
わざわざ念を押しにくるなんてよっぽどのことだと長い付き合いの俺は考える。
こんな風にわざわざ来そうな相手は他には奈緒美くらいだ。
・・・まあ、奈緒美とそういうことになりそうだったら、
歩いていたら、いつの間にか横に・・・なんてことになりそうだが・・・。
「・・・・・・。」
まあ、それはともかく、
うん・・・憧れで終わるように本気にならなようにしないと・・・。
・・・今の時期の東京湾はまだ寒いだろうから。