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11 呼び出された理由

そういえば、先日、珍しく咲夜からメールが来た。


そして、それにはこんなことが書かれていた。


「頼みごとの一つ目は明日、由佳里に聞いてほしい。」



夕暮れのオカルト研究会部室にて。


銀髪の少女こと、


御門マリアは優雅なひと時を過ごしていた。


苦過ぎない紅茶に舌つづみを打ち、


一冊の本に目を落とす。


それは場所が場所なら、


貴族の令嬢の如く映ることだろう。


・・・本が胡散臭くなければもうそれは完ぺきだ。


・・・いや、目の前に座る男もそれを台無しにしている一つか・・・。



その前に座り込んだ男は溜め息を吐く。


「・・・はあ・・・。」


「・・・。」


「・・・はあ・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・はあぁ・・・ちら。」


明らかに聞けといった様子を男は見せていた。


このまま無視してもいいという思いから、


恐らく彼女は無視を続けていたのだが、


流石に根気よく数十分もこのような態度をされていれば、


聞くというものだろう。


「・・・はあ・・・どうかしたのかね?」


「・・・実は・・・。」


男は意気揚々と語り出す・・・ようなことはなく、


ここに来る前にあった出来事を重いため息とともに語り始めた。


どうやら本当に気が重い話のようだ。



俺は放課後になるなり、


花咲さんに呼び出された場所、屋上に向かった。


嬉々として。


この表現が一番正しいと思う。


なぜかって?


朝、学校に行ってみたら、


下駄箱にある手紙が入っていた。


これだけ言えばわかるだろう。


そして、宛名には先日会った彼女の名。


もしかしたら優しくしてくれたから・・・なんて・・・。


そんな邪な思いから咲夜の説得を手伝ったわけではないが、


俺だって男だ、


期待というものはどうしてもしてしまう。


この先への期待か、


自然と口元に小さな笑みが浮かぶ。


「ふふふ。」


そんな俺の心情と正反対の軋むような音が響く。


「す、すいませんっ!


待ちましたか?」


「いや、待ってないよ。気にしないで。」


口元を引き締め、普段通り応える。


「そうですか・・・よかったです・・・。」


彼女はもじもじとこちらをチラチラ見つめる。


そんな様子は相変わらず小動物みたいで可愛らしい。


「・・・それで何の用なのかな?」


「えっ、いや・・・その・・・ご、ごめんなさい。」


そうだった・・・この子あんまり気が強くなかったんだ。


失敗したな。


「大丈夫、怒ってないから、


ゆっくりでいいから。」


「は、はい・・・それではお言葉に甘えて・・・。」


彼女は自らを落ち着けんと何度か、


深呼吸をする。


すると落ち着いたのか、


彼女から口を開く。


「そ、それでは単刀直入に・・・。」



彼女は一呼吸置き、


大きな瞳で俺の眼を見つめて言う。



「・・・私と付き合ってくださいっ!!」



「・・・・・・。」



・・・き、キターッ!!


普通だったら考えさせてくれ、


こう言うところだが、


彼女の人間性を気に入りつつあった俺は口ごもりつつもはっきりとこう答える。


「・・・わ、わかった。」


苦節16年と少し。


俺にもようやく春が来ました。


俺の返事にだろうか、


彼女の顔は先ほどまでのどこか不安な様子から一転、


花が咲くような笑みに変わる。


俺もそれにつられて・・・


「ありがとうございます。


咲夜さんの彼氏の睦美さんにしか頼めなかったんです。」


・・・笑顔には変わらず・・・表情は固まる。


「・・・は?


咲夜の彼氏?」


「はいっ!


昔から恋人だって聞いてます。


だから怖くないんです。」


ああ・・・そう言えば、男の人苦手だって・・・。


それに咲夜の恋人だから、手も出してくることはないだろうって・・・。


見事に安全マージンも確保されている。



・・・咲夜・・・。


・・・そう言えば・・・朝になにか言っていた気が・・・。



「・・・こういうことだったのか・・・。」


「あの~もしかして聞いてなかったり・・・。」


彼女は不安げにこちらに尋ねる。


どうやら彼女は知っていたようだ。


まあ、当然のことだが。


「あはは・・・まあ、聞いてはいたよ。


頑張ろうね。」


俺はなんとか動揺を隠し、そう答える。


咲夜に恨み言の一つでもそういう気持ちになるが、


これはこれでありかと思うことにする。


これで頼みごとの一つが消費されたことになる。


正直、後々の不安の種が減ったことは精神的に楽だ。


・・・こう思わないと・・・な・・・はあ・・・。


それに内心は納得していた。


落ちぶれつつあるとは言え、


アイドル。


そんな彼女が俺の彼氏になりたいだなんて思うのはおこがましい。


・・・まあ、そうだよな。


わかっていました。


わかってはいましたとも。


思わず口から苦笑が漏れる。


「あ、あの・・・ふ、不束者ですがよろしくお願いします。」


まあ、こっちもいい経験ができると思えばいいか・・・。



「ちょっと待ちたまえ、それのどこに落ち込む要素があるんだい?」


君にとってもいい条件じゃないか?



彼女の言い分はわかる。


もちろん、その通り。


その通りではある。


んだが、あくまでも仮のそれだ。


仮・・・ということは何か理由があることだろう。


それにもちろん期限も。


期限は1週間後まで。


この間に彼女にそれらしいことをしてあげる必要がある。


となれば・・・


「どうすれば、彼氏っぽいことができるのか一緒に考えてください。」


「は?」


先輩は呆気にとられたような表情をした後、


呆れた様子を見せる。


「君ね・・・はあ・・・あくまで君主体で決めるのだよ。」


明らかに何か言いたいことを飲み込んだ感があったが、


彼女はしぶしぶ了承する。


「はいっ!」


ダメもとで頼んだんだが、


よかった。


男を手玉に取りそうな・・・もとい、落ち着いた先輩が手伝ってくれるなんて心強い。


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