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10 妹の黒い笑み

清隆が苦労して演奏の約束を取り付けた後は案外スムーズに進んだ。


まさか入学したころから、


咲夜にこの話をしていたとは由佳里の執念には正直頭が下がる。



彼女の曲、歌詞を確認し、


レコードィングの場所、日程の確認、


その他詳細なんかを確認し合い、


当然の如く素人の清隆そっちのけで話は進んで行った。



「・・・これで終わりです。」


「・・・ふう・・・じゃあ、帰る。」


そう言って咲夜は立ち上がる。


「あれ?


夕飯は?」


「・・・今日はそんな気分じゃない。


・・・帰って寝る。」


咲夜は先の提案に断りを入れると、


帰らんと立ち上がる。


『・・・悪いことをしちゃったかな


咲夜は本当に乗り気ではなかったようだし・・・。』


引き留めようか少し迷ったが、咲夜の意思を尊重し、その言葉は引っ込めることにする。


「・・・そう気を付けてね。」


「うん、


明日までにしてもらうことは決めておくから。」


「なっ!?」


清隆が驚きの表情を浮かべると、


そんな反応に気をよくしたのか、


咲夜は少し口元が緩ませる。


「・・・咲夜・・・。」


清隆が呆れを口にするもどこ吹く風。


「帰る、由佳里?」


「・・・。」


「由佳里?」


「は、はひっ?」


「帰るけど?」


「あ・・・はい、それでは私も・・・。」


そう言って、


咲夜は花咲由佳里を伴って家を出る。



由佳里がどこか上の空だったのは気になったが、


未だ距離を感じる清隆は声を掛けるようなことはしなかった。


視線が由佳里に固定されていたことからも、おそらく咲夜も気が付いているだろう。



2人を玄関まで見送り、


部屋の片づけをしていると、


玄関の方から声が聞こえてきた。


「ただいま~。」


機嫌のよさそうな声だ。


ひどく疲れたこちらと違って、おそらく何かいいことでもあったのだろう。


「そういえば、今朝もこんな感じだった。」


あはは、と小さく口元に笑みを作る。


「あれ?


誰か来てたの?」


「ああ、咲夜とその友達が。」


「へ~、咲夜さんに友達?奈緒美さん?」


「違うけど。」


「えっ!?


他に誰かいるのっ!?」


「・・・うん、まあね。」


思わず苦笑が漏れる。


なんて言いぐさだろうか?


咲夜だって奈緒美以外に友人の一人や二人・・・あれ?


・・・清隆、由佳里・・・以外に2人・・・。


清隆は実際に思い出し、そして数を数えて納得する。


これはこんな風に言われても仕方あるまいと。


「・・・それはともかく・・「あっ、誤魔化した。もしかして彼女?」・・それもないけど。」


「へ~・・・ほ~・・・。」


祈里の口調、視線ともに好奇に染まっている。


明らかに疑われている。


清隆はそんな様子に再び苦笑を貼り付け、話題反らしに疑問を口にする。


「まあ、その、なんだ・・・機嫌がいいなって・・・。


何かあったの?」


普通だったら、話を逸らすななんてお約束な展開があるところだが、


そういったものはなかった。


帰ってくるなり、わざわざ声を掛けに来るってことは話を聞いてほしいのだろう。


所謂あれ・・・子供が親に今日あったことを話すみたいなかまってちゃん。


「ママ、今日ね・・・。」みたいなそれ。


・・・まったく中学生にもなって・・・。


若干の呆れを覚えるが、なんだか今はとても微笑ましい。


「お兄ちゃん?」


などと、祈里が不思議そうな顔をしていたが、


まあいいかと思ったのだろう、彼女はこちらに胸を張る。


よくぞ聞いてくれましたといったところだろうか。


「ふふ~ん。


私にももうすぐ彼氏ができるかもってこと。」


彼女は自信満々にそう言い放った。


『・・・うん、この前もそれ聞いた。


確か安田くんだったっけ、同じ部活の。』


となれば返答はこうなることだろう。


「ふ~ん、よかったね。」


「くっ!


持つべきものの余裕ってやつか・・・。」


「いや、『くっ』って・・・違うけど。」


清隆自身、余裕なんてものない。


清隆自身、生まれてからこの方彼女なんていない。


仲がいい女子といえば、ほんの数人、それもおそらくは清隆を男としてみていないだろう。


1人は兄。


1人は小間使い。


もう1人は友人。。


それになにより・・・清隆自身はそのうちの1人との結婚を夢にまで見るほどなのだ。


明らかに清隆の方が重症だ。


清隆自身それを考えひどくへこむ。


「でもいいも~ん!


こっちだって、もうすぐ・・・ふふふ。」


・・・また妄想してる。


「ははは・・・まったく・・・。」


でも・・・なんでそこで浮かべるのが黒い笑みなんだ妹。


・・・どうやら睦美兄妹の春はまだまだ先のようだ。


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