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槍王奇譚 精霊戦争~悲しみの狂戦士   作者: 一 万丈、
冒険章1 探索者とは
3/3

君たち戦闘を始めよう

初めての戦闘回

 セイナイたち3人の頭上を3体の魔物が旋回する


 「ハーピーじゃない!奴等こっち来るわよ。ハルピュイアじゃなかったの」

 ニーナの叫びに獰猛な口を開けて威嚇してきた。もはや戦いは避けられないだろう


 人面妖鳥(ハーピー)

 人面に鳥の翼を持つ魔物である。ハルピュイアとの違いは腕が無くその場所から翼になっている

 顔は醜く性格は獰猛であり人肉も好むため討伐対象としてよく依頼がある

 ハルピュイア同様、雌個体がほとんどで他種族と交配するのだが、その対象は魔物にも及ぶため人種からは忌み嫌われている

 力無き雄は、そのまま食料となるため捕まれば命の保証はない

 


 「ちょっと、ハーピーと見間違えたの?」

 ニーナの質問に猟師は首をふる


 「俺は猟師だぞ、目は良いほうだ」

 

 ・・だとしたら


 「何かがあった。急いだほうが良さそうね」


 「飛んでると厄介!ニーナ挑発して!!」

 槍を構えたセイナイが吠える。普段の、ゆっくりとした口調ではなく鋭く力のこもった声だ

 そして何より目が精彩を放ちキツくつり上がっている。その様子を確認するとニーナが精霊に呼びかける


 『怒りの精霊、あいつらの心を掻き乱して』

 

 精神を司る精霊は普通より高位にあり使役が難しいとされている。これを容易く扱うニーナは精霊との親和性が高く実力を司祭級と認められているのだ


 魔法を向けられた魔物たちは怒りの形相を更に険しくして急降下してくる。挑発に成功したとみたセイナイは槍を目の前に掲げ走り出した。

 ハーピーたちがセイナイを獲物と定め鋭い鈎爪を勢いのまま繰り出す。1体目をクルリと体を回し攻撃を避けると、その回転のまま槍で背中を力任せに叩きつける

 続けざま2体目の攻撃に合わせ槍を突き出す。鈎爪の付いた足を傷付けられ怯んだ隙に、二連撃を喉と胸に

 素早く体を入れかえ3体目に備えるが、それが襲い来る事はなかった

 視線を向けるとハーピーの両目に矢が刺さっており3本目は何と口のなかに突き立っていた。猟師の男が弓を構えたまま、こちらに頷く

 さすがに驚きを隠せない


 「・・神業」

 守るべき一般人の猟師と思っていたが、これは頼もしい援軍だ


 そして


 「撲殺!」

 物騒な声と共にニーナが1体目の頭蓋をメイスで破砕していた。小柄な見た目に反して一撃で沈めて見せる力は少女のそれではない

 「・・相変わらず怪力」

 セイナイが小声で呟く。彼女に聞こえるように言えば、こちらに怒気が向く

 そういえば彼女の師匠も剛力だったなと思いだす。何か秘密があるのだろう

 ともあれ向かってきた敵は片付けた。事態を考えるに時間を掛けないほうがいいだろう

 

 「・・先行する、あとから付いてきて」

 身軽なセイナイは、それだけ言うと険しい岩場を素早く駆け飛んで行く

 猟師の男は一人で大丈夫かという顔をするがニーナは平気、平気と気軽に応じて後を追った 

 


 「どう?」

 岩の陰に潜んでいるセイナイを見つけたニーナは小声で問いかけ自身も身を隠す

 セイナイの目線を追うと

 

 「あちゃあ、ややこしい事になってるわ」


 簡素な建物が並ぶ向こうにハルピュイアが3人ほどおり、その向こうに人型の何かが2体、そしてハーピーが3体見える。お互いに睨み合い牽制しているようだ


 「ありゃあ、小妖魔(ゴブリン)だな」

 猟師の男が言うと、やっぱりという表情で二人が頷く

 

 小妖魔(ゴブリン)

 元々は妖精だと言われているが魔物と化し人種と敵対する存在。背は人間の子供くらいで顔は醜く手が長い

 集団で襲ったり簡素な武器を使う知恵もあり一般人には中々厄介である。よく討伐対象として依頼が出ており初心者の探索者が苦戦を強いられる事もあるが魔物としては弱い

 だが油断する事なかれ。なかには魔法を使ったり剛健な力をもった個体も確認されている




 「・・このまま仕掛ける、援護よろしく」


 「え!え、どっちに?」

 セイナイは答える代わりにゴブリンたちに向かって走りだした。まだ状況を把握してないのにとニーナは文句を言うが援護のため魔法の行使準備を始めた

 いきなりの乱入者に動けないでいるハルピュイアたちの横を駆け抜け槍を構えるセイナイ。ゴブリンたちは驚いて対応が出来ず、1体が貫かれた。それと同時にセイナイの周りに精霊の力が纏わりつく

 ニーナからの援護魔法だろう、それは防御力を上げるものだ

 この事態に、いち早く対応したのはハーピーたちである。自分たちの領域である空へと飛び立とうとした・・のだが

 

 「ガッ!グギャ」


 3本の矢により失敗に終わる。なんと今回は3体の翼の付け根に1本づつ突き立っていた。確信はあったが、あの猟師やはり只者ではない

 急所を狙わなかったのは1体に1本だと仕留め切れないからだろう。それよりは機動力を奪う判断力が凄まじい

 だが仕留めた訳ではない。セイナイは油断なく残りのゴブリンに槍を向ける

 払うように切りつけた一撃であったが何とゴブリンは腕力だけで受け止めて見せた。お返しとばかりに錆び付いた小剣が懐に侵入してくる


 (こいつ!)


 力の無いゴブリンと思えぬ反撃に革鎧の硬い部分で受けようと厚くしてある右胸へと誘う


 刹那


 シュルルルルと音を立て錆びた小剣が風に巻き上げられる。胸甲部分に当たる寸前、ニーナの施した防御魔法が発動したのだ。腕ごと巻き上げられ隙をさらすゴブリンに全体重を乗せた体当たりをぶつける

 セイナイの軽い体重では大したダメージは無いが槍の間合いを取るために相手を退がらせたのだ


 (少し面倒ね)


 こう乱戦になっては弓矢の支援は期待出来ない。ニーナも攻撃魔法に有効なものは持ってない。しかも目の前のゴブリンは何やら強者の気配がしており、後ろには3体のハーピーたちがいる

 ふっ。と息を吐き槍を構え直したセイナイの耳に左右にある近くの建物の扉が乱暴に蹴破られた音が聞こえた


 「そうりゃ!」

 「せい!」


 扉を蹴破ったのは人間の男ふたりで持っていた投網を魔物たちに投げつけた。それは綺麗に拡がりハーピーたちを絡め取ってしまった

 

 「やったわ!」

 そう叫ぶ、ハルピュイアの声を聞きながらセイナイはゴブリンを見定めていた。この不利な状況のなか不敵に笑みを浮かべて此方をうかがっている

 すると急に声を上げて醜く笑いだしたかと思えば首から下げていた黒い勾玉らしきものを何とバリバリと喰いだしたのだ


 「気をつけて!何かマズイ精霊の気配がする」

 

 こちらに走ってくるニーナが警戒の言葉を発した、その時


 「グ・・グゴアラァ!!」


 苦しみと狂気が合わさった雄叫びを上げ体が倍ほど膨れたゴブリンが此方を睨み付けた。ニーナには身体から立ち上がる黒い(オーラ)のような物がハッキリと見える 

 

 「狂える精霊?でも何か違う・・」

 知識にはないが精霊由来の物であることは感覚が教えてくれる。精霊が力を行使すれば何かしら、その気配が残るのだ

 

 「ウゴギャアラアアァァー!!」


 咆哮を上げるゴブリン。その狂気を孕んだ声に皆が顔をしかめて動けなくなる

 その隙に近くにある死んだゴブリンを片手で持ち上げると、何とその身をガツガツと喰らいだした


 「うっわ、ひょっとして取り込んでる?」

 黒い(オーラ)が見えるニーナには、それが増幅されているように思えた

 (これが師匠から聞いた狂化ってやつかしら、でもやっぱり違和感あるのよね。まあでも今はセイナイ!)


 『生命の精霊、あなたの限りを力に』


 全身体強化(フルポテンシャル)

 生命を司る精霊の力を借り、筋力 持久力 動体視力そして集中力を上げる高位強化魔法。ただし術をかけられた者は跳ね上がった身体能力により普段と動きが変わり上手く動けなくなる

 慣れてなければ使いこなせない魔法である 



 だがセイナイは何度も受けた魔法である。もはや使いこなすに問題は無い

 

 「さあ、【槍王】の全てを受けてもらう、覚悟を決めよ!」


 宣言と共に、つり上がった目を向けるセイナイ


 膨れ上がった狂気と洗練された暴力のぶつかり合いが始まる

  

 

 

 

 

 


 

 





 


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