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行商エルフ(仮題)シリーズ

行商エルフ(仮題)2

作者: まい

一話完結方式です。


読んで楽しんで頂けるならば、嬉しいです。

「御用を伺いますよ『行商神』様」


「何を仰いますか。我ら商業ギルドの柱と言っても良い、貴女様自身がこの呼び名を幾ら断ろうとも、既に定着しております」


「それだけ大切な御方でございます。ヒトとして守るべきモノ・すべき行い、欲が過ぎた者の末路等……貴女様の歩かれた500年以上に及ぶ道々に、教訓として沢山のこっております」


「謙遜しないで下さい。このギルド全体で悪徳商人や汚職ギルド員が滅多に現れない、かなりクリーンな組織として成り立っているのも、全ては『行商神』様のお力です」


「いえいえ、口説いているのではありませんよ。貴女様を讃える文句として一般て……もう本題ですか?分かりました」


「この領都での活動申請を確認致します。まずは領主様からの依頼、それと市場調査や旅の物資補給。申請外の活動は、別途報告を頂ける……これで間違いは無いですか?」


「では、この地で良い御商売を。此方から伝えるべき物は有りませんが、細かい注意情報等につきましては掲示板でどうぞ」




 まったく……ヒトを宰相だの神だのと。

 私はただ知識を溜め込んでいたら、いつの間にか古代(エンシェント)エルフと言う超長命種族に進化してしまった、ただの転生者なお気楽行商エルフだってのに……。


 まあ、種族の存在進化で身体能力や保有魔力やプロポーション、不本意で容姿もガッツリ上方修正されましたけど。


 ギルドから出る前に、チラリと掲示板を流し目でチェック。


 私は転生特典でもらった【絶対記憶】持ちですからね。見るだけ見て、読むのは記憶から引っ張り出せば良いんです。



 という訳でして、現在はとある侯爵が領主として治めている、こちらに依頼としてお邪魔しています。


 称号【世界の語り部】で閲覧許可された世界の記録(アカシックレコード)で依頼内容の真贋は把握しておりまして、依頼主も義理を通す実直なお方なので、無体は起きないだろうと応じました。


 しかし約束の時間にはまだ早く、それでしたら……と、この領都の観光名所である工芸博物館へ、久し振りに行ってみようかと思い立ちました。【詳細解析】で色々見えて、面白いのですよ。


 ここは領主が武具を含めた工芸に力を入れていまして、国内で名工の名誉を欲しければここに来て修行をしろ。と言われる程です。


 博物館へ向かう途中。道行くヒト達を観察していますが、人通りは王都には一歩譲るものの、ヒトの多さも領都の自慢に十分なりえる数ですね。



「工芸博物館へようこそ!」


「……はい、入館料は頂きました。どうぞ楽しんでいって下さいね!」


「あ、お客様!!当博物館の注意点ですが、呪われた品も混ぜて展示しておりますので、展示物には絶対に触れないで下さいねっ!」



 ……フリにしか聞こえない、窓口の娘さんの忠告が酷いですね。

 でも、これは本当なんですよ。ここ(領都)の職人さんに度々(たびたび)用が有りまして、待ち時間とかができると展示物の変化に期待してたまに伺っていますので、嘘ではない事は知っています。



 展示物はジャンル別になっています。宝飾品が一番最初。入館者への衝撃狙いだそうです。

 入り口近くにそんな物を置いたら不味い?いえいえ、混ざっているのですよ、忠告にあった呪われた品が。

 盗人が月イチ位でそれ(呪い)にやられて、身動きがとれなくなって御用。という様子は見慣れた風景だそうで。


 呪いの宝飾品は毎回変化が有りますね。

 今回は対個人用のコンボ。2つを決まった手順で手に取らないと、片方が電気ショックで麻痺。もう片方がヘンな所に貼り付いて、怪音と共に強い振動。……おまけに顔横でダブルピースをし続ける。

 …………何がしたいのかは明白ですね。感想はノーコメント一択で。


 次に日用品や運搬で使う樽・木箱等。この辺は領都の自慢ですね。国内シェア1位を20年間維持とか、場に合うか判断に困る横断幕が掛かっていたりします。……目立った変化は、無し。


 この日用品のスペースですが、実は歴史資料にもなっています。


 日用品の変化と題して、進歩し変わってきている品々が展示されています。生活が良くなってきているのが一目瞭然。展示品ですが、古い物は400年位前の物からですよ。


 ……はい、私の寄贈です。私が時折技術の提供や新発想のヒント出しを行って、時代遅れで買い手の居なくなった品々を、こうやって在庫処分しています。


 何セットかは寄贈せずにとっておいて、レトロ品収集家や歴史研究者に相場の値で売り付ける商売もしますけどね。


 後は武具がズラリ。


 武器は質実剛健な物から、儀礼用の華美な物まで。

 地元の名工は見習い時代の酷い作品から、名作まで。習作まで晒されるのは恥ずかしいでしょうねぇ。

 普通に凄い武器もあれば、魔法を付与された剣もある。

 他にも槍、戦斧、弓、短剣、カタナ、手甲剣……これら以外に色物も多いですよ。ん~、変化無し。


 次は防具ですね。

 ちなみにここは防具の方が有名です。領都で有名になったのは防具職人さんが多いので。


 有名な職人さんの名前は特徴的です。

 例として挙げますと、タロウ、イチ○ー、カズオ、イチタ……はい。皆さん転生者でした。なぜか長男揃い。

 一応補足ですが、それぞれ職人としての偽名で、本名は別ですよ?前世の名前だったかも知れないですが。


 ……こちらも変化は無いですが、いくつか目立つ物をピックアップしてご紹介。


 この作品はカズオさん作の、細かい装飾が素晴らしいドレスアーマーですよ。実質呪いの鎧ですけどね。

 着用者の体力に連動して、壊れたり修復される迷作。……アレを意識したと分かる、どうしようもない魔法の鎧です。防御性能が無駄に高くて軽い、女性に嬉しい性能で着用を誘う悪魔の鎧。


 こちらも同じくカズオさん。こちらこそが正真正銘の名作。

 またもドレスアーマーですが、先程の作品よりも優美な外観で高い性能を持ちます。これを着て戦場を駆け回り、数多の戦功を積み上げた姫が居ました。

 添えられた紹介プレートには書かれていませんが銘は“姫騎士鎧(ひめきしよろい):クッコロ”で、伏せるのも当然ですよね。


 タロウさんで有名だったのが“淑女の矜持”シリーズ。

 夜会や茶会へ着ていくドレスのみならず、町人職人商人……様々な立場の女性に対応した、服そのものに防御能力を持たせた品。

 一部に薄い鉄板を仕込んだり、魔物の革を使ったり、服の装飾で魔法的防御効果を持たせたり。

 注意深く見ても、それを防具だと思わせない配慮が人気でした。


 どんな場面でもお洒落な衣服を着ていたい、淑女の矜持を体現したシリーズです。

 当時私が王族から相談されて、タロウさんに持ちかけたのが始まりですね。

 魔力を通すと自動修復される、特別な魔物の革で私も作ってもらいました。この着物テイストを取り入れた町娘風商人服は、今もお気に入りで着ていますよ。


 イチタさんのこれは、迷作中の迷作。

 ……なぜなのか?答えは簡単。“ネクタイ”なんです。

 本人は鎧だと言い張っていましたので防具扱いですが、実質アクセサリー。

【身体強化】と連動して、個人範囲で展開される結界陣の刺繍を施した布で作られたネクタイ。


 予想できますよね。「これぞ鎧!これぞ正装!」とばかりに、当時は半裸の紳士(変態)が続出したのです。

 影響はファッション業界に飛び火して、ネクタイが世界からしばらく消えました。



 他にもありますが、ひとまずはこれまで。


 今回名前をご紹介した職人さん方は、とても良い方々だったのです。でも時々情念が暴走して、封印せねばならない物を作ってしまうだけなんです。基本良い方ばかりなのです。そこを忘れないであげて下さいね?


 ……今回はハズレでしたかね?注目したくなる変化はありませんでした。

 さて気を取り直して本題です。頃良い時間となりましたので、黒髪黒目の美形夫婦な領主の館へ。




 お久し振りです侯爵閣下、婦人も。


 状況的に早速の本題へ入りますが、屋敷の階段で滑り頭を強く打って長期間目を覚まさない、5歳の幼女……その子の診察。出来るなら私が治療、それか治療出来そうな方を紹介。と言った依頼で良いですか?


 ええ、お抱えの魔法医ではお手上げで、ダメ元として私に頼った。


 早速診てみますよ。


【詳細解析】っと。……あ~、これ呪われてます。回復阻害と、不運。やったのは政敵でしょうかね?真っ当な貴族様は、真っ当でない貴族様に時々狙われますものね。


 こちらへ伺うまでに見た浅い情報ではなく、もう少し踏み込んだ情報を収集しましょうか。

 レコードで令嬢、呪われた経緯の追跡……了解了解。閣下の使用人が幾人か脅迫を受けて、実行犯に仕立て上げられて滑る階段の工作。

 魔法医は金で抱き込まれて、治療と言いながら呪いの魔道具を使っています。今ならまだ証言と証拠は握れ……ますね、はい。


 落ち着いて下さい、大丈夫ですから。解呪もできますから、すぐにでも回復魔法で治せますよ。


 ……すぐ治しますから大丈夫ですって。起きるまでしっかり看ていますから、仕事に戻るなり目覚めるまで別室で待機しているなりしていて下さい。

 控えている執事さん。私は関われませんので、下手人への対処等は任せますからね。




「…………『行商神』か、俺を助けてくれたのでしょう?有難うございます。その素晴らしく張ったソレ()に、特に深い感謝を」


「階段から滑り落ちて頭強打なんて、恥ずかしい事をしでかしたからでしょうか、前世の記憶が戻ったみたいです」


「死んでからどれだけ経ったのかは分からないけど、まだその服(淑女の矜持)を着てくれているんですね。嬉しいよ」


「ここは……ああ、俺のホームタウンですね。それに今世は侯爵令嬢で……しかもウサギの獣人。両親譲りの髪と目に抜群の可愛い顔、お母様の遺伝を考慮して、将来期待できるサイズは…………むふっ」


「今世は自給自足が出来て、依頼で渋々とか言い訳せずに堂々と女性向け装備を作れて、女性相手に直接採寸をしても不審がられない……最高じゃないですか!」




 はい、大体予想できましたね?私は【詳細解析】で分かりましたが、タロウさん(名工のひとり)が記憶を持ったまま転生したようです。口調は前世のままですね、半端な丁寧語とかそのまま。


 そして色々不穏(助平)なセリフが聞こえて来た気がしますが、この際です。無視しましょ、無視。

 前世で封印指定(助平装備)品を作るタイミングとかで本性には察しがついてたし。レコードにも載ってたから間違い無い。


 封印指定品を作る主な原因は私。工房へお邪魔した時盛大に揺れる胸を持つ絶世の美女的容姿の私とかを見て、いつか着てほしい装備~とか妄想して作ったって。

 そのエロ助根性が防具に宿って、呪いの防具化するそーです。…………はぁ(深いため息)やってらんね。



 それはさておき、まだもの作りへの情熱を失っていませんし、このヒトは前世と同じ道を進むでしょう。


 この家の令嬢としては、4女になります。最低限の淑女教育を済ませたら、あとは本人の意思に任せる流れですね。


 最後にもう一度【詳細解析】で身体に異常が残っていないかを確認して、報告がてら依頼主へ娘さんの前世と扱い方をリークして、ささっと館を出ましょうか。


 と、玄関に差し掛かった所で元タロウさんから呼び止められました。リハビリが必要だろうに、良くここまで歩いてこられましたね。




「俺の商売道具一式は『行商神』の手に渡っていませんか?有るなら買い戻したい」


「金はいいの?転生祝い?ありがとう!前世より道具は進歩しているだろうから、またこれを使う機会が無いかもしれないけど、それでも手元にあると安心します!」


「仕事が出来るまで腕を上げ直したら、また商談に来てほしいです!!」




 …………前世は男性でアレでしたが、今のウサギ獣人の姿で頬をほんのりピンク色にして、本当に嬉しそうに微笑む幼女。と言う情景の衝撃は凄まじい物がありますね。

 様々な物事を放り出して、抱き締めて、頭を撫で回したくなります。ウズウズウズウズ。






 はっ!?いやいやいや!!相手は元助平オヤジ!本性はアレ!騙されてはいけない!!


 どうにか私の中で荒れ狂う欲求を抑え込み、表情筋の活動を強引に止めて、元タロウさんへ手をフリフリしながら優雅に去ります。




 ……可愛かったなぁ。年単位で会いに行くのも良いなぁ。中身がアレだし【無限収納】に仕舞ってあるオモチャを持っていけば、飛び付いてきそう。

 それで一緒にオモチャで遊んで、髪を振り乱しながらもトロットロにとろけた愛らしい顔のウサミミ幼女を…………。




 っ!!?いやいやいや……イヤイヤイヤイヤ!!落ち着け、私!!!変な暴走はダメだぞ、私ぃ!!!

~とある領都の商業ギルド


「今そこで『行商神』様が顔を真っ赤にして、頭をブンブン振って錯乱しているお姿を見たんだが……」


ガタッ


ガタッ!


ガタタッ


ドンガラガッシャン!!


「焦って席を立ち損ねて、コケる奴なんて初めて見た」


「……ってて。いや、それどころじゃない。詳しく聴かせろ」


「いやな、そのままなんだよ。領主様の所から出てきた女神様がな、そんな感じで頬に手をあててイヤンイヤンってブンブン」


「「「「!!!?」」」」


「それはアレか!?もしかして領主様の所のご子息に嫁ぐって事か!?」


「特産品の都合上、他所の街より『行商神』様を見かける機会が多いこの場所なら、出会うチャンスが有るのは確かだが」


「あの方は恋愛する意味とか有るのか?500年以上を生きるバb…………」


「おっとソコまでだ。それ以上は言っちゃーならねぇ、あの方は素晴らしい。ソレだけで良い」


「ああ、エルフ女性の平均身長より高めで、平たい胸族とか言う風評など物ともしない抜群の体型」


「それに何より、女神様に相応しい美貌。それで良いじゃあないか」


「…………コイツらの瞳孔妙に開いている気がするのは、気のせいだろうか」


「それで、だ。女神様の事実を調べねばならん」


「あのお方は我ら商人の象徴であり目標!それが嫁入りなんて、そんなの絶対おかしいぞ!」


「似た事態が確認されたのは、ぬいぐるみ屋の店内で錯乱されて、手当たり次第抱き締めてまわった話位だからなぁ!!色事でそうなる訳がない!」


「よく知ってるな~、なんか怖いぞ?」


「そりゃあアレさ!その時にぬいぐるみになりたかった!なんて男なら誰でも思ったろうよ!!」


「……否定はしない」


「だろぉ!?」


「話しが脱線しすぎ。調査はどうするんだ?」


「「「「ギルマスに報告がてら相談!」」」」


「……それが一番かぁ」

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