5.掲示とメール
みんながバラバラと職員室から去っていく中で、神田君は再びホワイトボードの写真を取っていた。
角度を変えたり、ズームしてみたりとそれはもう熱心に。
保存用にするには枚数を取りすぎではなかろうか。
「神田君、どうかしたの?」
声をかけてみると彼は僕の前にズイっと画面を突き出した。
「読める?」
「え?」
「文字、その位置から読める?」
一体どんな意図があるのだろう。
よくわからないが、とりあえず「文字が書いてあるのは見えるけど、細かいところとかは見えないかな」と感想を返す。
すると神田君は「うーん」と唸ってからポンと手を打った。
「スーさん、これと同じ内容で打って。俺は大きな紙に書くから」
「え?」
打つ? 書く?
ますます意味が分からない。
彼は一体なにをしようと言うのだろうか?
そもそもどこに打つというのか、と首を傾げていると神田君はさっさと作業に取りかかってしまった。
文化祭の発表用に、と化学部を含めたいくつかの部活が取り寄せていた大きな紙のマス目に沿って、神田君は綺麗な字で『現在確認できていること』と書いた。そして強調するように下に二重線を引いた。
あ、もしかして体育館に貼り付ける用か!
確かにこういうのがあれば気軽に見ることが出来るし、便利だろう。
神田君ってよく気が回るな~。
今まで彼の印象は真面目で字が上手い子、というイメージが強かった。
けれどあずさちゃんの面倒を率先して見てくれているのも、案内文を書いてくれているのも彼である。
意外、とは思わないが、生徒の新たな一面が見られて胸のあたりが暖かくなっていく。
他の子だって、いくらうちのクラスの子は行動派な子が多いとはいえ、こんな状況でも屈せずに前に進める子たちだとは思わなかった。
あまり元気すぎて少しビックリしているくらいだけど。でも、いい子たちばっかりだ。
助けられてばっかりだけど、この子たちといられて、この子たちの先生で良かったな~なんてこんな状況でしみじみと思ってしまう。
この感情は卒業式まで取っておくべきだと思うんだけど、式まではまだまだ時間があって、それまでにもっとたくさんの思い出が出来ることだろう。
だからその時はきっと今以上に、心に来るものがあるんだろうな。
出来ればそれはモンスターなんかいない、普通の高校生活であってほしい。
「ほら、スーさん。早くメール打って! 緊急メール回ってくるの、校長先生たちも待ってるんだから!」
「あ、うん。って、校長先生!?」
「うん。スーさんが起きる少し前にかかってきたから、分かってることはまとめてから連絡しますって言っといた。そしたらまとめたものをスーさんに渡して、緊急メールに添付して送ってもらって、って。写真の方がスーさんの負担少なくていいと思ったんだけど、見えなかったら意味ないし」
「なるほど。なら早く送らないと!」
急いでパソコンを立ち上げて、数日ぶりとなる緊急メールを作成・送信する。
残念ながら休校期間終了のお知らせではなかったが、これで少しでも安全を確保出来る生徒が増えることを願うばかりである。
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