4.初期設定にはタイムリミットがあるらしい
化学式や物質・器具の名称を消すと、柏木君はど真ん中に大きく『ダンジョン』『モンスター』の二文字を書いた。
そしてそれを囲んだ円から枝を生やしては丸の中に新たな言葉を書き込んでいく。
「まずこの『ダンジョン』だけど、少なくとも池袋駅構内は前と形に変わりなかった。その代わりにモンスターがそこかしこにウジャウジャいる。
後、宝箱もあるっぽい。
俺はあったとこ見てないけど、宝箱からゲットした剣を使ってるおっさんとは会った。あくまで宝箱からゲットしたっていうのは俺が見たんじゃなくておっさんから聞いただけだけど、武器登録とか初期設定の感じから、本当だとは思う。
さすがにサラリーマンのおっさんが日常的に西洋風の剣とよく似た何かを携帯しているとは考えづらいし。
全体的な印象としては形こそ違えど、ゲームとかウェブ小説、漫画にあるのとそこはあんまり変わんなかった」
彼が通学中の短時間で知ったのだろう情報をわかりやすく伝えていく。
ダンジョンにはモンスターがいて、宝箱まであるのか。
まんまゲームと一緒だな~、なんて浮かれる一方で、ゲームと現実が全く一緒な訳がないじゃないかと冷静な部分の僕が訴える。
そして柏木君は冷静な部分の僕が危惧していた内容を口にする。
「だけどあいつら、ゲームと違っていきなり襲いかかってくるし、殺しにかかってくるから気をつけろよ」
まっすぐとみんなを見つめるその瞳は真剣そのもの。
「これはゲームと似ていてもゲームじゃない」
気を抜けば死ぬ。
遊びと一緒にするな。
それこそがきっと彼が一番伝えたいことなのだろう。
ダンジョンができたことすら夢心地の生徒にとって、その言葉はひどく重くのしかかる。
「殺しにかかってくるって……」
「モンスターに襲われて傷ついたり、血が流れた人は身体が光の粒みたいになって消えていくことがあった。多分致死量を超えた量の血が出たか、致命傷を食らったか。知り合いじゃないからどうなったかは知らねぇけど、最悪……死んでる」
「そんな……」
「今んとこダンジョンの外にモンスターは出てきてないから、発生場所の中に入ってかなきゃ被害はないだろうとは思う。けどこれからダンジョンがいきなり発生するかもだから……さ」
改めて柏木君はそう前置きすると、覚悟を決めたように短く息を吸い込んだ。
「だから、覚悟はしておいてほしい」
その言葉に誰もが首を縦に振った。
柏木君はこの場において唯一の経験者なのだ。
「ダンジョンの中に入ると頭の中にアナウンスが流れてくる。そこで俺は『初期ステータス』を決め、『武器登録』をするように指示を受けた。その間に与えられる時間は3分だ」
彼が右手で作った『3』という数字は僕たちに衝撃を与えた。
ちらほらと「無理ゲーだろ」「カップ麺かよ」なんて声も聞こえてくる。
けれどそれこそがゲーム化した現実の初期設定なのだ。
「はっきり言っていきなりそんなこと言われた挙句に、3分って短すぎねぇかとも思った。ゲームやってたり、この手の小説とか漫画読んだことなら見たことや聞いたことあるかもしんねぇけどよく聞いておけ」
いかに初期設定が重要か。
ゲームを一度でもプレイしたことあるならわかってくれるだろう。
ゲームなら気に入らないことがあれば、設定を間違えたと思えばデータを消してやり直せばいい。
けれどそれが出来るとは限らない。
むしろスキルポイントの再分配システムがあるなんて期待して進めたら痛い目を見る。
最悪、死ぬ。
だからこそ柏木君の経験談ほどありがたいものはないのだ。
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