3.まさかの成長
「これ」
机の上にドンと音を立てて置いたのは机からはみ出すほど大きなハサミだった。
大きさと、刃に様々な色が付いている以外は至ってシンプルなものである。
それこそ僕がいつも白衣のポケットに入れて歩いているのと同じ。持ち手が赤いところとかもそっくりだ。
自分のハサミと見比べようとポケットに手を突っ込んでみるものの、手になじんだ感覚が指先に触れることはない。
だからポケットを大きく開いて中身を覗いてみたのだが、いろいろと足りないような……?
どこかに置きっぱなしにしてしまったのだろうか。
最後に使ったのどこだっけ? と記憶を探ってもなかなか答えに行き着くことはない。
なくなっているのはハサミとノリだ。おそらくセットで使ったのだろうが、ここ最近ノリを活用したシーンなんてあっただろうか?
左右に首をひねっても思い当たる節がない。
すると僕が思い出すよりも先に柏木君がノリとハサミの居場所を教えてくれた。
「これスーさんから借りたまんまだったハサミなんだけど、俺さ、武器になりそうなものこれ以外なんも持ってなくて……。だからペンケースに入れっぱじゃなかったら死んでたわ」
「え? 僕の?」
「うん。この前提出ノートにプリント切って貼りたいからってスティクのりと一緒に借りたやつ。あの後スーさん部活行っちゃったから後で返そうと思って、すっかり忘れてた。それでこのハサミなんだけど、武器登録しちゃって、今はこうなっちゃってるからさ、今度別のハサミ買って返すのでいい?」
「ああ、うん。大丈夫大丈夫」
正直貸したことすら忘れていたのだ。
どおりでのりとセットで行方不明になっていた訳だ、と疑問が晴れてスッキリしたくらい。
だがハサミを貸した1週間ほど前の僕だって、まさか数日でこんなに大きくなっているとは思うまい。
それに彼はこれを『武器』として使ったのだ。刃先にしっかりとその証は残っている。
『武器登録』というのが何かは分からないが、さすがにモンスターの血が付いたハサミを使う勇気は僕にはない。
プリントを切る以外の、思わぬところで活躍してくれたハサミを柏木君に譲ることを心に決めた。
「後さ、悪いついでに黒板借りていい? ダンジョンのこと話しておかないとこれから先ヤバそうだから」
「どうぞどうぞ」
そして教卓と黒板使用権までも彼に明け渡したのである。
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