16.5か所目のダンジョン
「おじさん、ママがおじさんに変わってって」
少しずつ減らしていった缶の内容量が半分よりも減った頃、あずさちゃんは僕にずいっとスマホを手渡した。
少し前から「おじさん」という言葉を何度も口にしていたし、お母さんとしても心配なのだろう。
少なくとも甥や姪が知らないおじさんと一緒にいるなんて電話をかけてきたら僕は自転車を爆走させることだろう。一週間続くだろう筋肉痛よりも子どもの安全である。姉の子どもでこれなのだから、自分の子だったらその心配は計り知れないものがあるだろう。
「お電話変わりました、鈴木と申します」
なるべく不安にさせないように、誠実に対応しようと心がけてスマホを取った僕に真っ先にかけられた言葉は「ありがとうございます」だった。
涙がふんだんに含まれたその言葉。
きっと連絡が付かない間、ずっと不安に押しつぶされそうになっていたのだろう。
何度かその言葉が繰り返された後で、僕は自分が高校の教師であること、そして高校の名前と住所を伝えた。その上であずさちゃんのお母さんと遭遇しようと思った――のだが。
「鈴木さん。あの、対面でのご挨拶もまだのあなたに頼むことではないことは重々承知の上で、厚かましいお願いではありますが、どうかあずさをしばらく預かっていてはいただけないでしょうか?」
「えっと、それは構いませんが……」
「ありがとうございます! このダンジョンから脱出でき次第、そちらの学校に向かいますので!」
「ダン、ジョン……? あの、今どちらに?」
ダンジョンってあのダンジョンだよね?
周りには厳戒態勢が敷かれており、一般人は入ることは出来ないはず。
仕事かよほどの物好き以外、あんなところ入ろうとも思わないだろう。
ダンジョン化に遭遇しさえしなければ……。
「東京駅です」
東京全域がエリア化された上に、ターミナル駅の東京駅がダンジョン化なんて……。
平日朝の東京駅の利用者は平日昼の池袋駅利用者の10倍以上はいることだろう。いや、初めにダンジョン化した4駅の被害者の10倍をも越えるかもしれない。
その上でのエリア化。
一体被害者は今日だけで何十、何百万に上り詰めるのだろうか。
東京全域がダンジョン内と同じルールに組み替えられたとすれば、正確な数値はおそらく不明だろう。
死んだ人は光に溶けて消える。
死体すら残らないのだろうから。
『人は死んだら何になる?』
有名なこの問いの答えは人によってバラバラだ。
けれど今まで『光の粒』なんて答え、ファンタジー以外には適応されなかったはずなのだ。
それがこれからは一般的な答えとなる。
到着するのがもう少し遅ければ。
彼女のHPがもう少しでも低かったら。
僕の筋力と敏捷に振った数値が低かったら。
隣の少女は今頃、光と混ざって空に溶けていただろう。
――だがその危険から完全に逃れられた訳ではない。
あずさちゃんも、僕も、そして電話越しのあずさちゃんのお母さんも。
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