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14.スライムの発生源①

「とりあえずそこのベンチにでも座って飲もうか」

 少女に声をかけて、並んでベンチに腰を降ろす。

 少女は喉が乾いていたのか、すぐさまプルタブに手をかけるとすぐにゴクゴクと喉に流し込んでいく。


 その一方で僕の手にはまだ手をつけていないブラックコーヒー缶。

 喉は乾いているが、なかなかブラックコーヒーを開ける気にはなれない。


 だがお礼に、ともらったそれを飲まずにお茶を買って飲むなんて酷なことが出来る訳がない。


 それなら苦いコーヒーを我慢して飲み込んだ方がずっとマシだ。


 マシ、なのだ。

 そう分かってはいてもプルタブに手をかけるのには勇気が必要なのだ。


「飲まないの?」

 少女は僕の気を知らずに首を傾げる。

 彼女の手の中の缶は軽そうだ。

 きっと一気に飲み干してしまったのだろう。


 手持ちぶさたになった少女は僕の顔をのぞき込むようにして、冷たい缶の中身がなくなることを待っている。


 よし、飲むか!


 いつまでも苦手なんて言ってられないし、飲まないという選択肢がない以上はいつか飲む時がくるのだ。


 男は度胸! 腹を括れ!

 いざとなったら僕にはべっこう飴がついているじゃないか!


 そう、生徒達にも大人気のべっこう飴が……。


「ねぇ、べっこう飴食べる?」


 腹をくくったとはいえ、一気飲みはさすがに無理。

 胃が荒れる。そうすれば今後に差し障るだろう。

 だがじいっと見られている中でチビチビと飲むのは、なんというか落ち着かない。


 ならば少女に何か与えればいいのではないかと考えたのだ。


 ――だが、少女は目をぱちくりと動かすだけ。


 もしかしてべっこう飴とか古い?

 思えば生徒達もおじいちゃんっぽいとか言いながら食べてたっけ?

 1人1つまでと伝えたはずのそれを手の中に3つも4つも入れながら、ではあるが。


「あ、ええっとね。べっこう飴が嫌ならチョコレートクッキーもあるよ?」

 焦りながらリュックサックの中をガサゴソと漁り、クッキー瓶を取り出す。

 けれど少女はその手を掴んで、きらきらとした目で問いかける。


「べっこう飴って何?」

「え?」

 どうやらべっこう飴を知らなかったらしい。

 そうか、最近の子はべっこう飴を知らないのか。


 僕の小さい頃はよく祖母に作ってもらったものだが、思えばスーパーのお菓子コーナーには並んでいなかったように思う。

 知らないのも無理はないのかもしれない。


「これだよ」

 そしてクッキーの瓶をしまって、代わりにべっこう飴の詰まった瓶を取り出せば少女の目は一層輝く。


 何とも子どもらしい目だ。

 きっと先ほどまでのことは頭の端にぎゅっと寄せてあるに違いない。


 まさかこんなことになるとは思わなかったが、役立ってくれて良かった。

 瓶の中から一つ取り出して手の上に乗せてあげる。


 すると少女は「ありが……」とお礼を言い掛けて、口を閉じた。そしてべっこう飴を乗せた手をこちらへとついっと突き返す。


「……やっぱりいい。ママが知らない人からお菓子もらっちゃダメだって。ママ、今はいないけど帰ってきたら、怒られちゃう」

「そっか。ごめんね」

「ううん。おじさん、助けてくれてありがとう。……じゃあ、あずさは帰らなきゃ」

「帰るっておうちに?」

「うん。さっきのぐにゅぐにゅしたやつが蛇口から出てきたのにビックリして出てきちゃったけど、ママとパパが帰ってくるまでお留守番してるって約束したから」

「そっか……。ってえ? 蛇口? 蛇口ってあれのことだよね?」


 少女――あずさちゃんというらしい――が勘違いしているのではないか、と公園の端にある水飲み場を指指してみる。


 するとあずさちゃんは「そうだよ。お水飲もうと思ったら出てきたの」と平然と答えるのだった。


お読みいただきありがとうございます!


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