13.自販機と缶コーヒー
ひとしきり泣き終わると、少女はすくっと立ち上がって「おじさん、助けてくれてありがとう」と頭を下げた。
恐怖がつい今しがた去ったばかりだというのに、強い子だ。
けれどそれはきっと強がりにすぎない。
少女の手は小さく震えていた。
ただ涙が止まっただけ。
ただスライムから解放されただけ。
たったそれだけ。
きっと僕が見てきたスライムはまだあの道にいることだろう。
池袋を含む4つの駅だってまだダンジョンのまま。
モンスターはまだこの国に、東京という場所にはびこっているのだ。
それは恐ろしいことで、東京が占領されてしまったら、交通機関だけでなく生活ラインまでも麻痺してしまったら……と考えなければいけないことは多い。
けれど今一番大事なのはきっと目の前の少女を放っておかないことなのだ。
「ねぇ、なんか飲もうか。喉乾いたでしょ?」
目線を合わせて問いかければ、少女はゆっくりと頷いた。
そしてウサギのリュックサックからコインケースを取り出して、近くの自動販売機をめがけて走り出す。
そんなに喉が乾いていたのか。
そう思いながら追いかけると、少女の身体はフラリと揺れた。
「危ない!」
敏捷を上げたおかげですっかり早くなった足で少女に追いつき、身体を支える。
きっと長い間、スライムの中でHPを削られていたのだ。
まだ身体が万全ではないに違いない。
「好きなの買ってあげるから、ゆっくり歩こう? ね?」
言い聞かせるように肩を抱くと、少女は小さく頷いた。
無事自動販売機までたどり着くと、少女はコインケースから500円玉を取り出した。
そして真っ先に選んだのはブラックコーヒー。
少女はぱっとみた感じ、小学校低学年くらいにしか見えない。なのにブラックコーヒー。
僕なんてアラサーになっても未だに微糖がやっとなのに、だ。
最近の小学生はなかなか渋い? 趣味をしているらしい。
りんごジュースを買ってあげようと思った自分が恥ずかしい。
子ども心の分からないおじさんに飲み物の決定権を与えたくなかったのだろうか。
そう思うとなんだか自分がやけに年をとった気がして、少しだけ寂しく思えてしまう。
ブラックコーヒーを飲み少女の隣で、僕は緑茶でも飲みますか……。
リュックサックから財布を取り出そうとすると、少女が僕の手を引いた。
「はい」
「え?」
「助けてくれたお礼」
差し出されたのはブラックコーヒー。
どうやら少女は僕のためにブラックコーヒーを買ってくれたらしい。
「ありがとう」
まさか僕のためだとは思わなかった。
驚きつつもしっかりと冷えたそれを両手で受け取る。
すると少女はコクンと頷いて、再び自動販売機へと向き直る。
今度は自分の分を買うのだろう。
真ん中の段にあるりんごジュースにココア、お茶にミックスジュースのどれかを買うのだろう。
今後の参考として、最近の小学生はどんな飲み物を選ぶのか見ておかなければ。
じっとその背中を見つめると、少女は残金380円が入っている自動販売機のとあるボタンを押した。
買ったものは加糖のコーヒー。
どっちにせよコーヒーは飲むらしかった。
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