9.生存者
何なんだよ……。
これをどうしろっていうんだ。
僕は武器を片手に、潤みそうになる瞳をスライムに向け続けることしか出来ない。
勝つか負けるか。
その二択だったら、僕はおそらく負けてしまうだろう。
僕の本能が早くここを離れろとサイレンを鳴らしていた。
あれはお前の手に負えるものではない、と。
けれど足がすくんで動かないのだ。
ずっと立ちすくんでいれば、次々に他の家からもスライムがあふれ出す。
いくら距離があるとはいえ、次第に近づいてくるのは視覚と聴覚の二つで感じ取っていた。
ステータスを上昇させたことにより聴覚までも発達したのか、ペタペタとスライムがアスファルトの上を這う音が妙に耳に響いているのだ。
一番近い個体で後50mくらいか。
進行速度の速い個体だったら6~7秒で僕のところまでゴールしてしまうくらいの距離。
なのに頭によぎるのはどうでもいいことばかり。
出てくる家とそうではない家って規則性があるのだろうか。
スライムって想像していたよりもずっと粘度が高そうだ。
これはポリビニルアルコールとホウ砂を合わせて作ったお手製スライムで再現するならどれくらいの割合で混ぜればいいのだろうか?
パニックを起こしている頭はそんな、どうでもいいことばかりを考えてしまう。
きっと飲み込まれてしまったら、息、出来なくなってしまうんだろうな。
そこまで考えて、ゴクリと唾を飲み込む。
逃げなければ、死ぬ。
それがいよいよ目の前まで迫っているのだ。
幸い、スライムの進行速度は極めて遅い。これが最大速度という訳ではなく、僕のことを認識していない可能性すらある。
その証拠に各家から出てくるスライム全てが僕に向かってきている訳ではなく、たくさんいる中でたったの3体だけなのだ。
視覚や嗅覚が存在しないか、とても弱いものなのか。
どちらにせよ、このスピードであれば柏木君達の言葉通りに上げたステータスならきっと逃げられるはずだ。
だから動け、僕の足!
バンバンと足を叩く。
するとその音と共に何かが微かに聞こえる。
僕とスライム以外の何かの音だ。
「……って」
いや、声?
誰か近くにいるということだろうか。
スライムへの恐怖よりも人間がいることへの希望が打ち勝った。
すうっと息を吸い込み、精神を安定させて耳を澄ます。
「…………っぁ」
するとやはり人の声が聞こえてくるのだった。
声というよりも音に近い、その微かなものを頼りに進んでいく。
途中、スライムに遭遇しそうになっては道の端に寄る。するとスライムは僕のことなんて気にせずにまっすぐ進んでいくのだ。
そのおかげで多少時間はかかったものの、音の元へとたどり着くことが出来た。
その場所は高校からほど近い公園の入り口付近。
「……っけて」
そこにいたのはスライムに溺れている少女だった。
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