8.これが現実
不審者扱いされてしまったら、なんて僕の心配をよそに、外に人の姿はなかった。
時間は7時30分ごろ。
普段ならサラリーマンとすれ違うところだが、ダンジョンが発生してからというものスーツ姿の人を見かける回数はウンと減った。
おそらく出勤時間をずらしているのだろう。
さすがに仕事が休みになった、とかではないだろう。
その証拠に一部駅、鉄道の利用は出来なくなり、自衛隊や警官は常に緊張状態である以外今までとさほど変わらなかった。
初日こそ品物がなくなったスーパーだが、2日もすれば在庫が補充された。
ネットだってサーバーが混雑していることもなく、サクサクと動いてくれた。
学生と思わしき子ども達は制服やランドセルを身に着けていないだけで、近所で遊んでいる姿も目にした。
ダンジョンに触れるニュースが数を減らせば、今までと変わらない、政治や最近の流行りのニュースが流れる。
マイクを持つアナウンサーの後ろにスーツを着たサラリーマンが汗を拭きながら歩く姿が映っていたのは一度や二度のことではない。
そう、ダンジョンが出来てもこの国の人達はあまり変わらなかったんだ。
けれど今度はそうはいかない。
特に今朝方、東京に居た人の生活はきっとガラリと変わることだろう。
周りから一切の声が聞こえてこないのが不思議なくらいだ。
アナウンサーですらあんなに取り乱していたのに一般市民が取り乱さないなんて。
…………あり得なくないか?
敏捷を上げたお陰で僕の歩くスピードは格段にアップした。
今までのペースだったら学校に着くまで1時間ほどかかるが、今の僕はたった15分歩いただけでもう少しで学校に着くというところまで到達している。
なのにここに至るまで人の声を一切聞いていない。
すでにモンスターにやられてしまったのだろうか。
嫌な考えが真っ先に浮かぶ。
けれど僕はここに来るまでに人とも遭遇していないが、モンスターとも遭遇していないのだ。
それはもう拍子抜けするほどに。
おそらく池袋駅のモンスターが何かの理由で溢れたのではないか、と思うレベルだ。
でもそれなら、やはり声が一つとして聞こえてこないのはやはり異常としか言いようがない。
一体何が起きている?
足を止め、周りを見渡す。
するとつい先ほど隣を通り過ぎた家の窓から、画面越しに何度となく見てきた物体が湧きだしているのを見つけてしまった。
水色のボディのそれは、窓にあったほんの少しの隙間から自らの身体をねじ込んだのだろう。
まるで液体のようなそれは外から侵入しようとしているのではなく、家の中から出てきている。
外にいないから大丈夫だと、僕はきっと無意識のうちに安心してしまっていたんだ。けれどそうではない。
すでにモンスターは家に侵入していたのだ。
その事実を認識した僕の足はガタガタと震える。
たかがスライム?
そんなのゲームの中の話だ。
この世界でそのモンスターを侮ったら死ぬ。
それは柏木君の言葉であり、何より誰の声も聞こえない閑静な住宅街がそれを教えてくれた。
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