2.ダンジョンと届かぬ手紙
池袋駅、東京駅に続いて東京で3番目、日本で15番目に出来たスカイツリーダンジョンが占拠されたのはもう半年も前のこと。
世界で一番高い送電塔からの電波供給が不能になり、再び大活躍しているのは真っ赤なボディーが特徴的な東京タワーだ。
まさかスカイツリーが出来てから何十年も経過して再びこんなにも注目されることがあろうとは誰も予想していなかったことだろう。
僕だって幼少期に祖父母に連れられて登ったきりで記憶にはあまり残っていなかったほどだ。
子ども達の中には東京タワーと言ってもピンと来ない子も多かったのではないかと思う。だが今は東京の電波塔と言えば東京タワーである。
スカイツリーは電波塔というよりもダンジョンもしくはモンスターの巣だ。
だがその東京タワーですら一般人用の回線を担ってはくれない。街や役所に設置されたテレビや国の機関が使用するための電波を送るので精いっぱいなのだ。
そんなバカなことがあるかと一時は暴動も起きたものだが、スカイツリーから妨害電波が出ている以上、制限されるのは仕方のない話だろう。
それでも暴動を起こす彼らの気持ちも分からなくはない。
家族が関東内にいれば会いに行くことも出来るが、それ以外の地方に居れば顔を合わせることはおろか、連絡を取ることすらできないのだから。
だが2週間ほど前、やっと一般人による手紙の配達が限定的に可能になった。
それを機に僕のような実家が別の地方にある人や、単身赴任中の人達はこぞって手紙を書いて、各役所に設置されたポストへと投函した。
だが今のところ無事届いたのは茨城エリアから3便、群馬エリアから4便、栃木エリアから3便、埼玉エリアから2便、神奈川エリアから5便、千葉エリアから1便のみらしい。
運送に失敗した主な原因は、ポストに擬態したミミックに手紙を食われたか、配達員が途中で襲撃されたかの二択である。
それを乗り越えて、見事成功した便でさえもエリアの高ランク冒険者が張り付いてやっと関東を抜けることに成功したらしい。
とはいえ紛れ込んだ小型のモンスターや、植物系モンスターを討伐したりと、エリアを越える直前に色々と面倒ごとがあったらしく、一部の手紙は熱処分対象となってしまったらしい。
処分対象になってしまった手紙を書いた人は少し可哀想だとは思うが、これ以上エリア認定される場所を増やす訳にはいかないのだ。
それに届くかもしれないと希望があるだけマシな方だ。
だって東京エリアは手紙の配達に成功していないのだから。
やはり関東圏以外の県と隣接している県の配達率は高い。
東京エリアからは官僚を筆頭とした重役達の文書を優先して届けているのも理由の一つなのだろう。
他県が羨ましいとは思うが、物資の輸送は人口が特に多い東京を中心に送ってもらっているため文句も言うまい。
安否の報告よりも生存が重要なのだ。
ちなみにそんな東京エリアだが、実は高ランク冒険者が一番多い地区だったりする。
そして高ランク冒険者の中には僕の教え子達が多く在籍している。
実は一番初めに出現が観測された池袋ダンジョンのダンジョンボスを討伐し、ダンジョンコアを破壊――ダンジョンの無力化に成功したのは教え子の一人、柏木 圭吾君である。
柏木君が初めてのダンジョン発生に遭遇してから一年が経ち、あれから色々とあったが僕はあの日のことは鮮明に覚えている。
多分これからもずっと忘れることはないのだろう。
あの日、彼が学校にやってきてくれなかったら……僕はきっと今頃死んでしまっていただろうから。
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