12.身を守るのは日用品だけ
『ゲーム感覚でこの中に入れば間違いなく死にます』
青年のその言葉は柏木君の言葉と言い方は違うけれど、込められている意味は同じものだった。
『死』――それは人間に限らず生きているもの全てに訪れるものである。
けれど安全な日本に生きていればそれを意識する機会は意外と少ない。
なのにそれが急に間近なものに思えてくるのは、テレビに映っている青年も、柏木君と似た物を手にしているからだろう。
柏木君が所持していたのは大きなハサミ。
僕が貸した、ごくごく普通の、どこにでも売っているものをベースとしたもの。
そして青年が持っているのは水筒だ。
ステンレス性の、おそらく元の色は鮮やかなブルーだったのだろうと思われるもの。
けれどその大きさはやはり僕達が普段目にする物とは違って、数倍ほど大きくなっている。
そして違うのは大きさだけではない。
色も形も違うのだ。
色はおそらくモンスターの血が付着しているのだろう。
つい少し前に教室で見たものと似たような色合いの、ペンキによく似たものが付着してしまっている。
そしてその形だが……ところどころにへこんでしまっている。
ちょうどへこんだところのあたりに色が付着していることを考えると、鈍器として使用したのだろう。
柏木君がハサミであったように、ダンジョン発生に遭遇してしまった人達は日常的に所持しているものを武器として使うしかなかったのだ。
いくら大きさが変わろうとも、それが水筒であることくらい誰でも見ればわかる。
そしてなぜ青年がそんなに大きい水筒を持っているか。
武器登録について知らない多くの視聴者には疑問で仕方がないかもしれない。
けれど僕はそんなことよりも、水筒のへこみの大きさに目がいった。
なにせそのへこみはその青年の頭と同じ、もしくはそれよりも少し大きいくらいだったのだから。
顔が異常に大きいモンスターと対峙した訳ではないのであれば、駅の中には成人男性と同じくらいの体長のモンスターがいるということになる。
平日昼の池袋駅。
そこにはきっと子供も、女性もたくさんいたことだろう。
一体何人がこの中で光に溶けていったのだろう。
職員室内が謎の冷気に包まれ、誰もが未知なる『モンスター』を恐れた。
「しばらく、休校ということで異議はありませんね」
そして校長先生の言葉に誰もが首を縦に振るのだった。
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