dr-3
「それで?なんで私が狙われてるのさ」
時刻は深夜、何時ものように彼女達は公園に集まっていた。
「さぁ?そんなこと言われても、分からないものは分からないわ。分かるのは貴女が次の標的だって事だけ……良かったわね、あなたに危害が及ぶのは避けられなさそうよ」
狙われている女、トリは大きな溜息をつく。
「良くありませんよ。………アンタとこうして会ってるから、という事はありませんかね」
相変わらず失礼な物言いだが、別にジェーンは気にもとめなかった。いちいちこんな事に腹を立てても仕方が無い。そもそも、彼女は自分に礼を尽くす意味は無いのだ。その点で言えば彼女はわざわざジェーンにある程度の礼節を保っている分、立派ですらある。
「無い…とも言いきれないのがどうしょうもないところだけど…一応、音は漏れないようにしてるし、この辺りに他人は居ないというのは、まず間違いないわ」
そりゃ、ここに来るまでの行動を監視されていたり、それこそ遠方から監視されていればその限りではないのだが、こればかりはどうしようもない。
「まあ、そうでしょうね。私もホントにそんなこと気にしてたわけじゃないし」
そして、トリは真面目な顔になる。何時も気だるげな顔をしている彼女からしたら珍しい。
「敵は誰なんですか」
単純にして明解な質問。単純が故に全くの嘘をつくほかに、誤魔化しも効かない訊き方。別にジェーンに誤魔化す気は無いのだから関係ないが。
「そうねぇ、良く分からないのだけれど…分かることと言えば『異能持ち』だって事かしら?それも、かなり強力なのが…少なくとも一人」
組んだ腕の中から、人差し指だけ立ててトリへと示す。
「それは、アンタが正体を掴めないほど…という事でいいのでしょうか」
「ん、そうね。私達の領域内にいながら『空間移動』を平然と使う程だもの、相当なものよ」
これは誇張でもなんでもない、実際にジェーンは"領域"と呼ばれる力場を展開していた。この領域内では他の『異能持ち』は少なからず制限を受ける。能力発動に時間がかかり、力量差が大きいと、そもそも発動さえできない。しかし、あの仮面の男は何の障害も受けずに能力を行使していた。
「少なくとも、素人では無い訳ですか」
「無いわ、私も油断してたってわけじゃないし……貴女は今も能力使えるわよね」
「ええ、不便でない程には。不快ではありますが」
「領域を解く訳にはいかないから、少しぐらい我慢なさいな」
少なくとも、トリがあの男に遅れをとることはないだろう。
「ただ、貴女の部下さん達が問題よね…『異能持ち』は居たかしら?」
「そんな便利な奴は居ないですよ、そもそも私が超能力者だなんて知ってるやつ自体がいないしね」
鼻で笑うように言い切る彼女の言葉は、随分と皮肉めいているが、どこか寂しげでもある。
「それは…貴女だけじゃ大変な事になるわね」
「正直、そうですね。空間移動さんだけなら何とかなる気もするけど…流石にそれ以外もいるとしたらかなり微妙ね。私の能力はそもそも対異能戦闘用じゃないから」
「……助けてあげたいとこだけど、こっちにも人員がいる訳じゃないのよね」
「いっその事、逃げ回りますか。ずっと飛んでればいい」
「それじゃ根本的な解決にならないわよ。それに相手にどんな能力者か居るかも分からないのに、そんなの上手くいくかも分からないでしょうに。」
「何で私を狙うのか、それを考えた方が良さそうですね」
いよいよ行き詰まった所で、トリが話の方向転換を行う言葉を口にした。
既に、考えるのに疲れたのか、投げやりな口調に変わっている。彼女らしいと言えばらしい。
「さっきも言ったけど、それは難しいわよ……」
これでは、本当に逃げていてもらった方がいいかもしれない、それ位彼女達は行き詰まっていた。
ただ一つ言えることは、トリは口では戦えないと言うが、実際はそんな事は無い。いや、むしろ戦闘面に特化していると言っていいほどだ。
「貴女が多人数を相手にするのが苦手だってことは承知で訊くけど」
「何ですか」
彼女のそれはもはや質問ではなく、そのキツイ言い方は明らかに猜疑に満ちた、もっと具体的に言えば、面倒な事を言わないで欲しい、という声音のものである。
「撃退くらいできないの?」
そんなトリの様子は完全に無視し、ジェーンはいかにも当然な事を言うかのように軽い口調で逆に問い返す。
「……………、正直に申しましょう。結論から言えば、可能です」
長い間を空け、大きく息を吐いてからトリは切り出した。
「ただし、私は最悪、部下を全て失うことになるでしょうね」
トリの態度は今までの態度とは打って変わった瀟洒な態度で、驚いた事に柔らかい笑すらも浮かべていた。本来、彼女の立ち位置はそれとは正反対なはずなのだが。
そして、ジェーンにはその顔を知っていた。
「そうね…それは、確かに避けるべきなのでしょうね、我々の今後の為にも、貴女の為にも」
「おや、私の為とは、アンタらしくもない。アンタはもっと冷酷じゃなきゃ」
「なに、言ってみただけよ。少なくとも、前者は建前ではないわ」
何ら表情も変えず、適当な返事を返す。
「アンタのそういう所が嫌いですよ。まるで人間味を感じない」
言葉とは裏腹の満足そうな顔のトリに笑い返し、ジェーンは一つの案を示す。
「一つあるわ、貴女が喜びそうな案が」
「それは?」
未だ笑を顔に浮かべたまま、トリは訊いてくる。
「アイツを使いましょう」
なんか、学生生活始まると忙しくなったので、当初の予定通り週一投稿になります。さらに進行が遅くなりますが…