ロココさんの危機3 *
宴会の翌日、解りやすく言えばエリザベスと朝チュンと言う名の添い寝をした日の昼、俺達が屋敷の基礎工事を手伝っていると王都へロココさんと帰ったはずのセーレがまたしても血相を変えて戻って来た。
「助けて下さいー! ロココさんが大ピンチなんですー!」
また、このパターンかよ。
嘘つくにしても、もう少し新しいネタを考えてから来いよ。
「またそれかよ! 今度はなんだ? また嘘じゃないだろうな? ちゃんと事情を説明してくれれば行かない事もないぞ」
「いえ、今度は嘘じゃないです! 今度は本当にピンチなんです! 本当なんです! 信じて下さい!」
「で、何が有ったんだ?」
「ロココさんが衛兵に拘束されて裁判に掛けられそうなんです!」
この世界は裁判で弁護士制度など無い。
疑わしい者は問答無用で罰する!
そんな世界だ。
弁護士制度が無いので、裁判に掛けられた時点で有罪はほぼ確定する。
おまけに有罪になった場合は地下牢で死ぬまで幽閉されるか架刑にかけられるかのどちらかだ。
つまりロココさんの命に危機が迫っているという事だ!
俺は慌ててセーレから事情を聴きだす。
「なんだと! 何が有った!」
「昨日、セミナーでクーラーボックスの作り方を教えたのですが、言われた通りに作ってもクーラーボックスが出来ないとクレームがついて、ロココさんが衛兵に詐欺容疑で拘束されてしまいました」
「解った! すぐに向かう!」
俺達は裁判が開かれる架刑場の詰め所にやって来た。
詰め所の牢にロココさんが拘束されているので、面会に来た。
俺達がロココさんに面会すると、引き吊った顔でロココさんが笑っていた。
「私としたことが、嵌められてしまった」
俺は深く息を吸って気を落ち着けてから話し始める。
「師匠、どうしました?」
「ダスティー商会の奴らに嵌められた」
「ダスティー商会?」
「この王都で一番汚い事をやって荒稼ぎしている商会さ。その商会がロココ商会のクーラーボックスの利権欲しさに私を亡きものにしようとしている」
「マジですか!」
「実はな、昨日クーラーボックスの製造法を公開したのもダスティー商会に狙われてるからだったんだ。ダスティー商会に利権を奪われるぐらいならと思ってクーラーボックスの製造法を信頼のおける知り合いの商会に公開したんだ。それがな、セミナーに参加した参加者を商会ごと買収するとは……やられたよ。もっと早くお前に相談しておけばよかった」
「なるほど。それでどうなったんですか?」
「昨日のセミナーで教えた通りクーラーボックスを作っても出来なかった。だから、これは詐欺だと衛兵に通報して、私は詐欺容疑でこのざまだ」
「わかりました。その商会に話をつけて通報を取り下げさせればいいんですね」
「あいつらは私の利権目的だ。私を亡き者にして、セミナー参加費の代わりにクーラーボックスの利権を奪うのが目的だから、取り下げる訳がない」
「何とかしますから、気を確かに持ってください」
「期待しないで待ってるさ。期限は今日の日没。日没を過ぎれば私は処刑される」
「今日の日没? それはまた随分と早いですね」
「普通は裁判の手続きに3日は掛かるんだがな。全てはダスティー商会の差し金さ」
「わかりました、何とかしてみます」
俺達はミドリアを連れてダスティー商会へと向かう。
商会は街中に有ったが、貴族の屋敷なんじゃないかと思うほどの広い敷地の中にある大きな屋敷であった。
手入れされた広い庭園がまるで貴族の屋敷のよう。
商会では商会長のダスティーが俺達を待っていた。
美味しい物を食べ過ぎて脂肪で張り裂けそうな腹を持つ男。
それがダスティーだった。
ダスティーは俺達を見下した様に睨んだあと後、話し始める。
「やっとドワーフの使者が来たか。待っていたぞ」
「不当な通報を取り下げて貰いたい」
「ふむ、ワシの通報が不当だと? 何を根拠に言う?」
「クーラーボックスは既に実用されて運用もされている実績のある物だ。それなのにセミナーで教えた通り作っても出来ないと言うのならば明らかにそちらの製造上のミスだ」
「よかろう。ではこうしたらどうだ? 処刑の行われる本日の日没までに新たなクーラーボックスの材料を用意して裁判長の前で作ってもらう。そこで裁判長の目の前で性能検査をする。それでお前達の言う通りの性能が証明されて問題が無ければ通報は取り下げよう。でも性能を満たさなければ、高額のセミナー代支払いの損害の対価として、クーラーボックスの製造の権利を全て渡して貰う。それでどうだ?」
やはりそう来たか。
やはりこいつらの目的はクーラーボックスの利権。
それが欲しくて騒ぎを起こしたのがハッキリとした。
ならば、この条件で受けるしか無いと腹をくくった所で、横で聞いていたミドリアが口を挟む。
「それは釣り合わない取引ですね。わたくし達の訴えが裁判長に認められたとしても、あなた達は通報を取り下げるだけで何も失う物がありません。利権を要求するなら、それ相応の対価を支払って貰わないと困ります。例えばこの商会の持つ利権全てなど対価として支払うのはどうですか?」
「面白い。被害者で有る我々が商会の利権を賭ける訳にはいかないが、もしクーラーボックスが作れると言うのならば、王都の城壁内南端にある3キロル四方の土地を明け渡そう。ただし、作れなかった場合はロココ商会の持つ利権全てを我々に明け渡す、それでどうだ?」
「いいですわ。では契約書を交わしましょう」
ロココ商会とダスティー商会で契約が結ばれた。
・期限は本日日没までとする。
・ロココ商会は期限までに断熱効果のあるクーラーボックスを作成する。
・断熱効果が認められた場合はロココ商会の勝利。断熱効果が認められない場合はダスティー商会の勝利とする。
・ロココ商会が勝った場合はダスティー商会保有の王都南端の土地を手に入れ、ダスティー商会が勝った場合はロココ商会の利権を全て手に入れる。
ダスティーは勝ち誇ったように言う。
「さてと、契約は結ばれたが、君達はこんな所でのんびりとしていていいのかね? 急がないとクーラーボックスを作る時間が無いぞ。もっとも、急いだとしてもクーラーボックスが作れるかは解らないがな! ガハハハ!」
ダスティーは含みのある言葉を俺に残した。
そしてその言葉の意味を知った。
カニの居るダンジョンは全てダスティー商会によって買い取られ出入りを禁止され、買い取りが出来なかったダンジョンはダスティー商会によって雇われた冒険者でごった返していてカニの一匹も見つけられない状態だった。
つまり素材を押さえられていて作れない状態であった。
嵌められたと気づいたのは午後四時。
タイムリミットとなる午後六時の日没まで二時間前であった。




