ロココさんの危機2 *
その後、キャンプ場の広場を使って着工式代わりの宴会が行われていた。
屋敷の規模を知らなかったロココさんはあまりの職人の多さに驚き固まっていた。
「なあ、タカヤマ。な、なんでこんなにいっぱい人がいるんだ?」
「今作ってる俺達の家はちょっとした豪邸サイズなんですよ。ここに居るのはその屋敷を作って貰う為に来てもらった職人さん達なんです」
「そうなのか。お前たちが建てる家だから一軒家サイズよりは大きいとは思ってたんだが、所詮一軒家なので職人も二~三人ぐらいかと思ってたんだけど、想像を超えてたな。こんな大きな宴会にドワーフの私が参加したらしらけたりしないか?」
それを聞いたカリンさんが人懐っこそうにロココさんと肩を組む。
「そんなしょーもないこと言う職人は、私のとこには居ないから安心していい」
「そ、そうか」
「さー、のめのめ!」
カリンさんは、遠慮がちなロココさんを強引に宴会の輪の中に連れて行くと強引に酒を飲ませ始める。
「さー、飲め飲め!」
「おおう!」
「私はカリンと言って大工をしている。今回はタカヤマ発案の水車という物を使って給湯する風呂付の屋敷を作ってるんだ」
「そうなのか。私はロココと言って商会を経営している。タカヤマと二人だけの小さい商会だけどな。ハハハ」
「なにを売ってるんだ?」
「今はクーラーボックスと言う、冷気を断熱して生ものを冷やしたまま新鮮な状態で運搬できる箱を売っている」
「冷気を断熱する箱か。面白いな。その断熱は暖かい物にも使えるのか?」
「使えるな」
「そうか。それを風呂桶に使ったらいつまでも冷めない風呂が出来そうだな」
「それ、面白そうだな! やってみるか?」
「おう、やってみよう! さあ、飲め飲め!」
二人で酒を注ぎ合っていると徐々にヒートアップ。
意外と相性のいい二人。
気が付くと酒飲み比べとなっていた。
「うんくっ! うんくっ! ぷはー! どうだ! お前の注いだ杯は飲み干したぞ! 大工をなめんな!」
「なかなかやるな! ドワーフの中でバッカスとも呼ばれた私の底力を見せてやる! ごきゅ! ごきゅ! ごきゅ! ぷはー! どうだ?」
「いい飲みっぷりだな!」
「お前もな!」
「がははは!」
「ぐははは!」
近づくと絡まれて記憶が無くなるまで飲まされそうなので避けとこ。
一応俺は召喚を何度もされてるので実年齢的には三十五歳ぐらいの年月を経過している筈だから酒を飲んでも問題ない歳なんだけど、肉体的には十七歳の現役高校二年生だからな。
深酒は飲まないに越したことはない。
広場中央ではシェリーさんが忙しそうにオークのステーキを焼き、セーレが切り分けた後に配り歩いていた。
シェリーさんは元々ここでの調理役としての仕事の依頼で呼んだんだが、セーレは俺を騙した罰で働かせている。
セーレはあまりの人数の多さに捌ききれず目が回る程のてんてこ舞いだ。
「ねーちゃん、酒と肉の追加頼む!」
「はい、今行きます!」
「こっちは酒瓶三本頼む!」
「はいはい、今行きます!」
「セーレちゃん、酒こぼしちゃったから布巾頼む!」
「はーい! 今すぐー!」
「おい! 酒まだか?」
「いきます、今行きますよー!」
忙しすぎて半泣き状態だが罰としてはちょうどいい感じだ。
俺はと言うと宴会の輪から少し離れてくつろいでいた。
ついさっきまで職人さん達に酒を注いで回って挨拶をしていたから今は休憩中だ。
隣にはミドリアとエリザベスが座っている。
「我が君、一緒にお酒を飲みませんか?」
「一応主催だから酔いつぶれる訳にはいかないので今日は止めとくよ」
「残念ですわね」
「タカヤマ、この酒美味いぞ」
「おう、そうか。まだまだ酒は有るから好きなだけ飲んでいいぞ」
「じゃあ、遠慮なく飲むぞ。この酒美味いよな! ミドリア。さあ、飲め飲め!」
「ありがとうございます、美味しいですわね。今度は私がお注ぎしますわ」
二人で盛り上がっているので俺は二人を眺めていた。
皆の楽しそうな顔を見ていると、このままこんな日が続けばいい。
そう思う反面、続かないだろうなという気もしていた。
『なにか心配ですか?』
俺の事を心配してシステムちゃんが声を掛けて来た。
『今後の事がね。この後の俺達はどうなるのかなと考えていた。ダンジョン踏破コンテストが終われば、魔王討伐の開始だ。でも、俺達が召喚された真の目的は魔王討伐では無いという事は既に解っている。俺達の召喚された目的は何か? その目的によっては、今後の俺達の運命も大きく変わると思うんだ』
『そんな事は気にしなくていいと思いますよ。最悪の場合、勇者様を召喚をした王女を倒せばいいだけの事ですから』
『クラスメイト達の命がかかる様な願いだったら、王女を倒すしかないよな。それによって元の世界に戻れなくなるかもしれないし、国を追われる身になるかもしれない。ある程度の事は覚悟しておいた方がいいかもしれないな』
『そんな事になっても、勇者様ならどうにでもなるんじゃないですか? 魔族の国に行ってエリザベスさんやミドリアさんを従えて魔王を始めてもいいと思いますよ』
『魔王か……俺、今は勇者なんだけどな。あははは』
『王女を殺したら重罪人確定ですから、その後はまともな日の当たる道は歩けないと思います。避けられるなら多少の事は目を瞑って見なかった事にするのも、今の生活を守る一つの手だと思います。それに王女を殺すと人を殺したという事で心に傷が残るかもしれませんよ』
『俺たちを罠にかけた王女を殺すのは何とも思わないだろう。日本に帰りたいクラスメイト達を騙して処刑機械で殺そうとしたぐらいだしな。殺したとしても、心にこれっぽっちの痛みも湧かないと思う。街道で襲ってくる盗賊を退治するのと同じ感覚だ』
『ならばいいんですけどね。でも、今回は今までの勇者様一人の時と違って、守るべき者達が居る事も忘れないで欲しいのです』
『ああ、ここにいるみんなの笑顔は守るさ』
俺が考え事をしていると、ミドリアとエリザベスは酔っぱらって完全に出来上がっていた。
「うへ、うへへへ、ミドリア! お前、よく見るとかわいいな」
「エリザベスさんも、かわいいですよ」
「なあ、ミドリア。タカヤマとの初夜はどうだった?」
「素晴らしい一夜でしたわ。我が君の熱い愛に心がとろける様な素晴らしい一夜でした」
「そういえば今夜はタカヤマとわらわの初夜の日だな。よし! タカヤマ、いくぞ!」
「そんなに酔っぱらってたら無理だろ?」
「大丈夫だ、問題ない!」
俺の手を引いて強引に連れて行くエリザベス。
とても力が強くて逆らえそうもない。
俺は小屋のベッドの前まで連れていかれた。
「それじゃ、わらわがベッドに横になるから、貪るように喰らうんだぞ! わらわはこういうのは初めてなんだからタカヤマがしっかりとリードしてするんだぞ!」
エリザベスは服を着たままベッドに横になる。
エリザベスと初夜か。
こいつとこんな関係になるとは初めて出会ったときには予想も出来なかった。
まさかこんな関係になるとはな。
俺もエリザベスの事は嫌いじゃない。
いや、むしろ最近は好きかもしれない。
すごい好かれてるみたいだし……。
俺がこいつをもっと好きになるべきなのかもしれない。
目の前には覚悟を決めた少女が横になっている。
やっちゃっていいんだよな?
いいんだよな?
この一夜で子供が出来たとしても後悔はしないよな?
ちゃんと責任をもって子供を育てられるよな?
俺が自問自答しているとエリザベスの声が聞こえた。
「くかー!」
くかー!ってなんだよ!
思いっきり寝てるじゃねーか!
エリザベス寝ちゃったよ!
飲み過ぎだろ!
こりゃ、初夜は無理だな。
でもなんだ。
可愛い寝顔だな。
よく見るとエリザベスってすげー可愛いな。
しかもすごくいい匂いがするし!
元が竜という事を知らなければガバッと上から覆いかぶさって襲いたくなる。
いや竜と知ってても襲いたくなるぐらい可愛い。
しかも俺の事を慕ってくれてるってヤバすぎるだろ!
冷静になれ俺!
混乱してるぞ俺!
平静を保て!
システムちゃんに混乱を抑えて貰わねば!
ふー!
何とか正気に戻ったぜ。
寝てるとこを無理やり襲うという人として最低な行為に手を出すとこだった。
初夜は無理そうだから、どうするか。
別のベッドに移動して寝るかな?
でも、こいつと寝てやると約束をしたから、添い寝ぐらいはしてやるかな。
俺はエリザベスに腕枕をしてやった。
横を見ると俺の腕の上でスヤスヤと眠る美少女が居た。
こんな可愛い子が隣で寝てると思うとゾクゾクする。
やばい!
なんかまた興奮して来た!
しっぽが無くなるだけでこんなに興奮するものなのか。
こりゃマズイ!
システムちゃんに睡眠状態にしてもらわねば!
*
翌朝、小鳥の声で起きた。
朝チュンてやつだ。
なんにもしてないけどな!
俺が目が覚めたのに気が付いてエリザベスが甘い声を出してくる。
「タカヤマ。わらわは酔っていたせいか何も覚えていないんだけど、どうだった?」
「いい夜だったぞ」
睡眠的に。
熟睡できたし。
嘘は言ってない。
「いい夜だったか」
「俺の腕の中でエリザベスが寝ているとゾクゾクしたぞ」
嘘は言ってない。
エリザベスの寝顔を見て可愛すぎて本当にゾクゾクしたし!
「ゾクゾクしたのか。そうかそうか!」
「お前の可愛い寝顔は最高だったぞ」
「そうかそうか。ついにわらわも大人の女になれたんだな。子供の名前はどうする?」
「いや、一夜ぐらい寝たぐらいじゃ子供なんて出来ないだろ」
なんにもしてないしな。
添い寝だけじゃ子供が出来る訳がない。
ごめんよ、エリザベス。
「そうか……、また一緒に寝てくれるか?」
「おう!」
俺がそう言い終わる前にエリザベスは俺の唇にエリザベスの唇を重ねて来た。
しっとりとした唇だった。
そして甘い匂い。
意識が飛びそうなほどいい匂い。
キスが終わるとエリザベスがポツリと言った。
「タカヤマはわらわの事をあまり好いてないんじゃないかと思ってたんだ。扱いは雑だし、キスも殆どしてくれないし。好きと言う言葉も貰った記憶が無い。いつ捨てられるんじゃないかと不安で不安で堪らなかったんだ。でも、わらわの初めてを貰ってくれて少し安心したよ」
やべー、こいつ凄くいい子じゃないか!
もっと大事にしてやらないと!
俺はエリザベスに唇を重ねた。
キスを終えるとエリザベスは涙を流していた。
「ありがとう」
何このエリザベス!
すげー可愛いんだけど!
いつものエリザベスじゃない!
俺、マジで恋してしまいそうなんだけど!
やべーよ!
おい!
俺はエリザベスに一瞬で心を奪われてしまった。
高山君はエリザベスに恋をしてしまいました。
もちろんミドリアも好きですよ。
異世界では重婚は罪ではありません。