冒険者ギルド1
主な登場人物
高山亜流人(タカヤマ アルト) 男 主人公 クラス唯一のEランク
石川 女 口うるさい Dランク
長野さん 女 特に特徴がない、いい人 Dランク
香川ちゃん 女 ロリッ子 Dランク
俺達DEランクグループは早速大神殿を後にして街の冒険者ギルドへと向かう。
丸一日、大神殿に軟禁状態だったので、空の見える屋外は気持ちいい。
ここの街並みは以前訪れた記憶の中に有るものとあまり変わらなかった。
前回の召喚からあまり時間が経ってないのだろうか?
それとも時を経ても変わらぬ街並みなのかは解らない。
時間軸の件は冒険者をしていればいずれ解る事なので、あまり細かく気にしない事にした。
地図を持って先導しているのは自称リーダーの石川。
地図を見ながら自信満々で先を歩くが、時々道を大きく間違う。
お前地図の見方も解らないのかよ。
俺は道を間違う度に「あっ!」と思わず言葉を漏らしてしまうと、その度に石川に睨まれる。
慌てて口を塞ぐが、石川に変な奴といわれる始末。
「なにさっきから、変な声出してるの? きっと私のプリップリのお尻でも見てハァハァ興奮してるんでしょ? マジキモいんですけど!」
「そんな事してねーから!」
うん。ムカつく奴だ。
散々道を間違い15分で辿り着く距離を30分掛けて目的地の冒険者ギルドに辿り着いた俺達。
着いた先は少し古めかしい酒場の様な感じ。
中は照明が足りて無いのかすこし薄暗い感じで、出入りしてる冒険者も酔っ払いや街のゴロツキって感じでお世辞にもいい雰囲気の建物では無かった。
出入りしてる人に酔っ払いが多いと思ったら、中に酒場が併設してある。
石川は酒場に興味津々の様だ。興味有るのはお酒じゃなくつまみの食い物の方だけどな。
「なにあれ? あそこの人が食べてるの? 焼き鳥みたいだわ。おいしそう! あっちの人はステーキみたいなの食べてるし! あ、こっちの人はシチューみたいなの食べてる! 食べたいなー! ねぇ食べていい?」
「今は金が無いんだから、食いたくても食えないだろ」
「そう言えばお金ないのよね。残念」
「冒険者ギルドで仕事をこなしてランクが上がれば報酬貰えるだろうから、そうしたら食べようぜ」
「そうね。うん、頑張ってランク上げよう!」
でもさ、頑張ってもランクはそう簡単に上がらないと思うぜ。
冒険者の依頼なんて最初は薬草取りや薪集めや鉱石集めから始まるのが普通だろ?
知らないけど多分そう。
高ランクにならなければ碌な依頼は無い。
だから最初は素材集め系の誰にでも出来る簡単なお仕事。
そんな簡単な仕事で簡単にランクなんて上がるもんじゃない。
当然、誰でも出来るお仕事なので報酬も子供のお駄賃程度の雀の涙しか手に入らない筈だ。
いくら頑張ってもお金が貯まらなくて美味しいものを食べられない。
ついには諦めて、石川のハートがポキリと折れる。
その時だ!
俺がシステムちゃんのショップから買った極上スイーツや鳥のグリルなんかをくれてやる。
するとどうだ!
石川だけじゃなく、長野さんや香川ちゃんまで涙を流して大喜び!
彼女らの胃袋を掴んで一瞬で俺にデレモード。
そうなったら美味い食い物欲しさに、俺無しには生きていけない従順な食の奴隷と化すのだ!
これでハーレム奴隷とご主人様の誕生さ!
フハハハハハ!
俺がゲスな妄想をしてると、石川は辺りの人を捕まえて書類提出の手順を聞くと冒険者ギルドのカウンターに依頼書を渡していた。
仕事はえーな、おい。
カウンターの受付嬢が依頼書の処理をしてくれた。
ちなみに金髪褐色肌の健康的な笑顔が美しい女の人。
営業スマイルだろうけどな。
こんな薄暗いブラック企業の社屋顔負けの雰囲気のとこで働いてるのに健康的な笑顔を見せてくれるのは謎だ。
「はい。依頼者は神官長さんで、依頼は『初心者冒険者の訓練:30日』の依頼ですね。訓練の対象はあなた達ですか?」
「はい。この四人です」
「えーと、勇者ランクがDランクのイシカワ様、ナガノ様、カガワ様、あとEランクのタカヤマ様ですね。冒険者ギルドの登録も済ませろとの事なので皆さんにギルドカードを発行しておきますね」
ステータス鑑定の石板を使い俺達のステータスを読み取ると、転写機みたいなもので冒険者ギルドカードに書き写す。
俺達は冒険者ギルドのギルドカードを貰った。
名刺サイズより二回りぐらい大きい感じのカード。
材質が何か解らないがプラスチックみたいに耐久性が有る感じなので多少雑に扱っても破れたり壊れる事はなさそうだ。
ランクはFのギルドカードだった。
ギルドカードを貰うのは初めてなのでなんか嬉しい。
今まではどこに行っても俺の顔が身分証明書みたいなもんだったもんな。
一般冒険者として過ごす異世界は凄く新鮮でいいわ。
でも、ギルドカードを見た石川が騒ぎ始める。
ギルドカードに書かれているランクがFだったのが気に入らないらしい。
カウンターのお姉さんに物凄い剣幕で食って掛かる石川。
トラブルメーカーに絡まれるお姉さん、マジ可哀想。
「なんで私達はDランク勇者なのに、Fランク冒険者なのよ! 無能な商人の高山がFランクなのは理解出来るわ。でも、なんで優秀な僧侶のわたしが2ランクも落ちて高山と同じFランクなのよ! 頭おかしいんじゃないの? ウジ湧いてるんじゃないの? こんなランクじゃ美味しい依頼できないから、いつまで経っても美味しい物食べられないじゃない!」
美味い物食いたさに欲の権化となる石川。
見てられなくなって思わず助け舟を出した。
石川にじゃなく、お姉さんになんだが。
「おい何やってるんだよ! 頭おかしいのはお前だよ! 勇者ランクと冒険者ランクじゃ、そもそもランクの名前が『勇者』と『冒険者』で明らかに違うだろ! そんな事も解らないのかよ!」
「そ、そうなんです。同じランクと名前が付いていても全くの別物なんです。本当に申し訳ございません」
石川の理不尽な要求に受付のお姉さんはただただ謝っている。
「あんた、高山のくせに僧侶様のわたしに、たてつく気?」
おい、バカ!
その〇ャイアンみたいな発言よせ!
俺が出来損ないの〇び夫くんになったような惨めな気分になるじゃないか!
「ダンジョンで敵に殴られて死にかけてても回復してあげないわよ!」
おまけに臼様宣言来たよ!
ジョブの役割放棄かよ!
回復役の僧侶なのに回復放棄かよ!
どんだけ自己中なんだよ!
お姉さんは俺をかばう様にクレーマーと化した石川に説得を続ける。
「申し訳ございません。勇者ランクはあくまでも非公式な物なのに対して、冒険者ランクは国発行の公式証明書となる冒険者ギルドカードに記載される物なので登録は誰もがFからとなるんです」
「わたしはその国に召喚された勇者様なのよ! しかもランクD! それがなんでランクFからまたやり直さなくちゃならないの! 頭おかしいんじゃないの?」
「そう言われましても、決まりですからどうにもなりません」
「なんとかしなさい!」
怯える受付嬢の鼻先に杖を突き付けて脅す石川。
これが日本だったら恫喝で即逮捕される案件だわ。
するとギルドカウンターの奥からモヒカンマッチョなおっさんがやって来た。
怯えた受付嬢がすがり付く。
「助けて下さい、ギルド長!」
「なんだい、俺のギルドの中で揉め事か?」
モヒカンマッチョは鋭い目線で石川を睨む。石川も負けじと睨み返す!
引く気全然ないな。
「ギルド長! この勇者様が自分は勇者ランクがDだから、冒険者ランクもDから始めて欲しいと無茶言うんですよ」
「あー実力の有る勇者様か。うんそうだな。よし今回は特例でDランク、いやCランクにしてやる」
「ほんとう?」
その言葉を聞いて、石川のプライドが満足したのか一瞬で顔をだらしなく崩す。
冒険者ギルド長は胸を張って言葉を続けた。
「ただしだ。元Aランク冒険者だったこの俺様に勝てたらだがな」
その言葉を聞いて、いきなり戦意を喪失して動揺しだす石川。
「えっえー!? こ、こんなハゲデブマッチョと戦わないといけないの?」
その人デブじゃねーし!
ハゲてねーし!
失礼過ぎるだろ!
その失礼極まりない石川のハートにとどめを刺しに来るマッチョ。
「ちなみに、安物の剣の攻撃はこの俺には効かんからな」
目の前でモヒカンマッチョの胸板に剣先を突き立てると粘土細工の棒でも折り曲げるかのように銅の片手剣をぐにゃりと真っ二つに折り曲げた。
すげー胸板の筋肉だな!
このおっさん見かけ以上に結構力ありそうだ。
石川にはどうやっても勝てない相手だろう。
こういうバカ女は一度世間の厳しさを味わった方がいいんだ。
「わ、わかったわ。うちのメンバーの中の一番の実力者の高山に戦わせるから! 覚悟しなさい!」
「ちょ! なんだよそれ!」
石川が訳わからない事言いだした。なんで俺が戦わないといけないんだよ!
「文句言ってないで、さくっとやっつけて来なさい!」
「おい、お前さっきまで俺の事Eランクがどうこうとバカにしてなかったか?」
「しらない。いってない」
「いや言ってたよ! 間違いなく言ってたから!」
俺の抗議は聞き入れられずにモヒカンマッチョに首根っこを持たれて、冒険者ギルド併設の闘技場へと連れてこられた。
モヒカンマッチョはやる気満々だ。胸の筋肉をピクピク動かして怪しい踊りを踊ってる。
「さあ、いくぞ!」
いきなり全力で殴りかかってくるモヒカンマッチョ。
武器は持たずに素手での攻撃だ。
力に任せた格闘メインの戦闘スタイルなんだろうか?
拳を俺に向かってフルスイング。
確かに凄い破壊力のパンチだ。
一般人としてはな。
でも致命的にダメな点がある。
凄く遅くて凄く隙だらけ。
こいつ本当にAランク冒険者だったのか?ってレベル。
すごく動きがスローなんですが?
おまけに高そうなのは攻撃力だけで、防御力はそうでもなさそうだぞ?
鑑定するまでもなく、多分一般人に毛が生えた程度の防御力。
システムちゃんに頼んで思いっきり攻撃力を落として、爪の先でチョンと突けばいい感じで怪我なく倒せるとは思うんだけど、俺が倒しちゃっていいものなのかな?
俺の実力が知れると面倒な事になりそうだしな。
異世界に来たばかりの勇者ランクEの俺が自称Aランク冒険者のモヒカンマッチョに勝ってしまうのはチョットまずいんじゃないか?
それとも、転んだ時にうまくパンチを当てて、ラッキーパンチで運よく倒せたと嘘で通すか?
うーん、どうしよ?
そんな事を考えながら、モヒカンマッチョのパンチを避けまくってたら、モヒカンマッチョの息が上がってきて死にそうな表情をし始める。
たった1分ぐらいパンチを繰り出してただけだぞ?
どう見ても訓練不足、運動不足って感じだった。スタミナなさすぎだろ。
きっとこのマッチョは筋肉を育成する事しか考えずに、プロテインがぶ飲みで筋トレしかして無かったんだろう。
まさに脳筋。
「はー、はー、ちょろちょろとネズミの様に、はーはー、逃げ、はーはー、やがって」
顔から滝の様な汗を流してた。
ちょっとの運動でそんなに汗かくって絶対糖尿だから。
お医者さん行って診察受けた方がいいよ。
きっと甘いおしっこ出てるよ。
すると入り口から声が掛かった。
若い女の人の声だった。
「はーい、そこまでー!」
その声の主はホットパンツを履いておへそを出した軽装の、いかにも盗賊って感じの姿をした女の子だった。
ちなみに銀髪で少しだけ小柄でお胸も少しだけ残念気味。
「お、おまえ、試合に、水を差すなよ」
怒るモヒカンマッチョ。
そうは言ってても汗ダラダラで息はゼーゼーと切らせてて今にも死にそう。
「父ちゃんはBランク冒険者を引退してずいぶん経つんだから、無理すんなよ。その子は父ちゃんの倒せる相手じゃないよ。動き見れば解るだろ?」
やっぱBランクだったのね。
納得なっとく。
多分攻撃力だけでBランクまで成り上がったんだろうな。
俺の見立てだと攻撃力以外はCランク、ひょっとするとDランクって感じの実力の持ち主だ。
モヒカンマッチョは「うむ」と一言だけ言うと戦うのを止め、地面にひっくり返ってぜーぜーと息をし始める。
代わりに娘が俺に話しかけてきた。
「僕が君たちの教育係になった盗賊のリリィだよ。よろしくね」
石川が女の子につめ寄る。
「ら、ランクはどうなるの! 試合に勝ったんだからCランクにしてくれるのよね?」
「ランクかー。ランクは気にしなくていいよ。Fランクからスタートだから」
「はあ? 試合に勝ったのになんでそうなるのよ?」
「僕が直接指導するんだから30日後にはCランク、いやBランクまで鍛えてあげるから」
「本当?」
「僕に任せろって!」
ニコリと笑うリリィにつられてさっきまで怖い顔をしていた石川まで笑う。
つられて香川ちゃんと長野さんもほほ笑む。
「じゃあ、受付のミント姉ちゃんが冒険者ギルドの説明をするから、親父と受付に戻ってくれな」
「はい」
「あ、あとそこの男の子、名前は何だっけ?」
「高山です」
「君はちょっと残って。実力を見る為に僕とちょっとだけ手合わせして欲しい」
リリィさんに呼び止められて闘技場に残った俺。リリィさんは両手に短剣を構える。
「いくよ! ちなみにこれは親父が受付で折ったみたいなおもちゃの剣じゃないから、刺されると痛いよ」
モヒカンマッチョが受け付けでへし折ったあれは模造刀だったのか。
どうりでね……。
リリィさんが突然襲い掛かって来た。
その剣筋は確かで鋭い。
しかも、親父さんとは違い連続で剣撃を放っても全然息が上がらない。
それなりに実戦経験を積んでいて現役でもあるらしい。
だが、その鋭い剣筋も俺にしたらナメクジが歩いているぐらいの速度でしかなかった。
容易にかわせる。
何回攻撃をして来ても無駄。
でも1分位避け続けて悟った。
『これは俺が負けない限り終わらない』なと。
この子の息は何度攻撃を仕掛けて来ても全然上がらないし、攻撃の速度も遅くならない。
間違いなく実戦で修羅場を経験している。
そんな感じの実力者だ。
俺が負けるか、この子に負けを認めさせるまで終わらない。
俺が勝つわけにはいかないので、選択肢は一つしかない。
これはわざと負けた方がいいな。
俺はシステムちゃんを呼び出す。
『システム!』
『はい!』
『俺の左足を折ってくれ』
『折るって? 骨を折れと言う事ですよね? 正気ですか?』
『ああ、一思いにやってくれ。このままじゃキリが無いから怪我して試合を中断させる』
『解りました。いきますよ』
ボキリ!
俺の耳に響く鈍い音。
その瞬間、俺の足に激痛が走る!
足先から頭のつむじに向かって衝撃がはしった。痛みで全身の毛が逆毛立つ!
ぐはっ!
うごー!
いてーよ!
思わず涙目になる俺。
久しぶりに骨を折ったけど、結構痛いな。
システムちゃんに痛覚遮断もして貰うんだった。
あとは事故で足が折れたように見せかける様に上手く立ち回ればいい。
俺はリリィさんの攻撃を避けて、リリィさんの肘に体をぶつける。
その衝撃を殺さず、自然に転倒横転!
そして、転がって2~3回転して!って、うはっ!
やべっ!
勢い付けて転がり過ぎた!
と、止まんねー!!!
ゴロゴロゴロっ!と、壁を目掛けて猛突進!
凄く大げさに転がったせいで壁に叩きつけられてビタン!と叩きつけられる。
頭から血が~!
マジやべぇ!
額が割れてドクドク血が出てるよ!
きっと顔面血みどろプロレスラー的なビジュアル。
でもまあいいか。
ここまでやっときゃ演技は完璧だ。
「勝負ついたね」
リリィさんは勝者の余裕といった感じで俺に語り掛ける。
俺は「うう……」と一声だけ唸り声をあげ気絶する事とした。
後は自然な成り行きに任せよう。
「おい! キミ? どうした? キミ!」
俺の血に染まる顔面を見てリリィさんは青ざめた。
俺が気絶をして揺さぶっても返事をしないので慌て始めるリリィさん。
回復魔法を掛けるが目を覚まさないのでかなり慌ててる感じ。
リリィさんは顔面蒼白となり、俺を揺さぶり続けた。




