禁忌5 *
俺は魔晶石部屋の床が抜けようとしている、その時に時間を遡った。
ついさっきまで死んでいた石川もリリィさんも香川ちゃんも何事も無かったかの様に目の前にいるので、今迄の事が夢だったんじゃないかと思ってしまう。
三人娘とリリィさんも時間が遡ったことで、混乱している。
「私、死んだんだよね? なんで生き返ってるの?」
「僕も死んだと思ってたけど……なんで生き返ってるの?」
「なんか凄く嫌な夢を見ましたぁ」
「私も……」
記憶を引き継いだまま過去へ戻った事で混乱している様だ。
そりゃ時間を巻き戻した張本人の俺でさえ混乱しているんだ。
事情を知らない彼女達が混乱しない訳がない。
そんな事を思っていると、システムちゃんから声が掛かった。
『勇者様、誰の思考に干渉しますか?』
『そうだな……』
全滅をした原因はリリィさんの足のケガから始まっているのは明らかだった。
それならばリリィさんに干渉するのがいいと思ったが……。
でも、その原因の元をただせば石川と長野さんが気絶し、その二人を抱えて着地した事。
ならばその原因を消し去る為に、石川に干渉した方がいい!
俺は石川の思考に憑りついた。
『あれ、おかしいな……私間違いなく死んだはずなのに……』
石川の心の声が俺に伝わって来た。
そして至近距離に居る俺の耳元で鼓膜が破れそうなぐらいの大きさの石川の叫び声!
「きゃー! また床が抜けた!」
魔晶石部屋の床が再び抜けた事で石川が大混乱している。
俺は彼女の気を落ち着けようと話し掛けた。
『うるせーよ! バカ! 静かにしろよ!』
『高山? なの?』
『おう! 俺だ! 高山だ!』
『あれ? 私、変になった? 空耳にしては凄くハッキリしてるような……』
『空耳じゃねーから! お前を助ける為に未来からやって来たんだ!』
『うそ! さっき私、カマキリに殺された夢を見た気がするんだけど! あれ夢じゃなかったの?』
『さっきは間に合わなくてすまなかった』
『いいよ。だから助けに来てくれたんでしょ?』
『おう! そういう事だ。時間が無いから細かい説明は無しで、俺のいう事を素直に聞いてくれ! 絶対に助けてやるからな!』
『うん! どうすればいいの?』
『とりあえず、生きろ!』
『それじゃどうすればいいか解んないんだけど?』
『お前は俺と話していればいい。気絶さえしなければ後はどうでもいい』
『なによ。随分と投げやりね』
『細かい事は気にするな。それじゃ指令だ! 長野さんが気絶しているはずだから、起こせ!』
『長野さん? うーん、何処にいるのかな?』
石川が辺りを見回すと、遥かに下の方を長野さんが頭から落下していた。
『あ、居た! ものすごく下の方を物凄い勢いで落ちてるね』
『何としてでも追い付け!』
『うん! でも、あっちも結構速いスピードで落ちてるから追い付けないよ』
『じゃあ壁を走れ!』
『やってみる!』
石川はスカイダイビングの要領で壁まで移動すると壁に取りつく!
そして壁を走る!
『できたよ!』
『よし! その調子で長野さんに追いつけ!』
『うん! やってみる!』
物凄いスピードで遥か先方を落下する長野さんに追い付いた。
長野さんは完全に気絶をしていて声を掛けるぐらいでは目を覚まさなかった。
『どうする? 抱き抱えて着地する?』
『いや、それはやめとけ。長野さんを抱いて着地して、お前まで怪我されたら困る』
『じゃあ、どうするの? 腹パンで起こす?』
『おい!』
『じゃあ、起きるまで往復ビンタでいいかな?』
『女の子にそんな事すんなよ! おまえ、思ってたよりもガサツだな』
『じゃあどうすればいいのよ?』
『人工呼吸しろ!』
『人工呼吸って……キスだよ! 女の子同士でキスだよ!?』
『キスじゃない。人工呼吸だ』
『でも、この唇は高山専用って決めてるから』
『おい! 勝手に俺専用って決めるなよ! ちょっと嬉しいじゃないか!』
『てへへへ。でもさ女の子同士でキスするのはちょっとやだなー』
『じゃあ、後で俺が口直しのキスしてやるからそれでいいだろ?』
『うん! やる! やるよ!』
『すげー気合の入りようだな!』
『そりゃ、恋する女の子だからね』
人工呼吸のやり方がよく解らなかった石川だけど、鼻を押さえて口から肺の空気を軽く吸ったり吐いたりしたら長野さんが「げほげほ!」と声を上げて起きた。
石川は目覚めたばかりの長野さんに声を掛ける。
「気がついた?」
「うん」
『ふー、長野さんが目を覚ました事だし、これで一安心かな?』
『でも、物凄いスピードで落ちてるから、地面に着地する時にみんな大怪我だね』
『そこは何とかスピードを殺せ!』
『どうやって?』
『そうだな……壁にナイフを突き立ててブレーキにするとか?』
『わかった!』
『じゃあ、みんなにもナイフを使う様に言ってくれ』
『うん!』
石川は風切り音に負けない大声でみんなに言った。
「壁にナイフを突き刺して落下速度を弱めるの! いい?」
「うん!」
「わかった!」
みんな、両手で短剣を持つと、壁に突き刺す!
ナイフから物凄い火花が散り辺りを照らす!
洞窟の底までもうすぐだ。
このままいけば皆生還出来る!
ミドリアの犠牲が無駄にならなかった!
みんな無事に着地出来て最悪の運命から回避することが出来た!
するとシステムちゃんが慌てた声をあげる!
『勇者様! 香川ちゃんが気絶しています!』
『マジかよ! もう落とし穴の底までもうすぐだぞ!』
遥か上方を落下していた香川ちゃんが俺達を追い抜いて下の方へ落下していった。
リリィさんが香川ちゃんの異常を察して壁を走り、香川ちゃんを抱き抱える!
このままではまたリリィさんが怪我をするという前回と同じ運命になってしまう!
俺は必死に叫ぶ!
『リリィさん、香川ちゃんを抱くと怪我をするぞ!』
「リリィさん、お願い! そのまま香川ちゃんを抱いていると、リリィさんが怪我をしちゃうからすぐに離して!」
「そんなこと言っても、このまま放っておいたら香川ちゃんは怪我じゃすまないよ! もう他には何も出来ないよ! もう時間が無いんだよ!」
結局リリィさんは香川ちゃんを抱いたまま着地。
風の魔法で衝撃を和らげたものの、結局足を痛めて歩けなくなった。
捻挫、いや骨折しているかもしれない。
戦いの軸となるリリィさんは前の時と同じく動けなくなった。
もしかして彼女達に訪れる死という運命は避けられないのか!
変えられない物なのか?
いや、今度は石川と長野さんは動ける!
それに俺もここにいる!
確実に運命は変わってるはずだ!
俺がリリィさんに代わって指示を出せば何とかなるはず!
絶対に運命の更新は出来る!
俺は石川に指示を出す。
『ここの部屋にいる巨大なカマキリを長野さんと協力して倒せ! お前ならできるはずだ!』
『そんなこと言っても短剣がボロボロだし、無理だよ』
『大丈夫だ。武器なんてそこら辺に落ちている石ころを拾って投げつければいい! 神速の速度を載せて投げればピストルの弾丸より威力が有るはずだ! 神速使って石ころを当てまくれ!』
『うん、わかった! 怖いけど頑張る!』
『あと、香川ちゃんとリリィさんは壁の隙間に逃げるように言ってくれ』
石川は座り込んで苦痛に呻いているリリィさんに声を掛けた。
「リリィさん! これから私たちは巨大カマキリと戦うから、そこは危険だからすぐに壁の割れ目に逃げて!」
「うん、でも僕の足が……」
「そこに居たら死んじゃうから! 我慢して這ってでも移動するか、香川ちゃんを起こして連れて行って貰って!」
「うん、解った。君達も気を付けてよ」
「大丈夫! 今度は高山が居るから!」
「高山が!?」
「うん! さ、急いで逃げて!」
リリィは香川ちゃんを起こすと肩を借り壁の割れ目へと移動を始めた。
それと同時に部屋の隅にいた巨大カマキリが襲って来たので石川はリリィさんに注意が向かないよう、石つぶてで攻撃をする。
石つぶての攻撃は一発のダメージは致命傷にならないかすり傷程度。
だが、神速のスピードをもってする攻撃なので、石川と長野さんによる凄まじい手数で徐々にダメージを蓄積させた。
戦闘開始から一分程度で自慢の鎌は両手とも折れ、子供を産み続けた尻もほとんど姿を残していなかった。
そして、俺の意識が段々と薄れる中、辺りが急に明るくなった。
竜となったエリザベスが上空を飛んでいる。
エリザベスは火炎弾を吐くと、死にかけのカマキリを炭へを変えた。
どうやら、石川達は俺達の救援の到着まで耐えきったようだ。
*
気が付くと俺は竜と化したエリザベスの背の上に乗っていた。
ただ、一つだけ腑に落ちない事が有った。
どうやって、エリザベス達がやって来たかだ。
誰に呼ばれたのかが解らない。
前回の時は石川の叫び声を聞いた俺達が救援に駆け付けた。
でも今回はその様な窮地に追い込まれる状況は無かったので石川の心の叫びは無かった。
では誰がエリザベス達を呼んだんだ?
過去にちょっと戻っただけで、いきなりタイムパラドックスが出現か?
『勇者様もおかしいと思いましたか』
『システムちゃんも気が付いたのか?』
『はい。このままでは救援が来ないと思ったので、荒業ですが食堂に居るシステムちゃん|(現在)にお願いして石川さんの声で勇者様に救援を頼んだのです』
『それで新しい運命線上の俺達も救援に来たのか。システムちゃんグッジョブだぜ!』
システムちゃんの機転により、タイムパラドックス問題は既に解決ずみだった。
俺はほっと一息ついているとエリザベスは人化する。
「ふー、間に合ったな。わらわの翼の速さはなかなかのもんだろう?」
「ああ、速さは認めるよ。でも、今頃王都じゃ再び現れた竜の姿に怯えて大混乱だろうな」
「うぐっ! あ、あれは仲間の緊急事態だったからノーカンだ!」
「仲間って……石川達を仲間と認めてくれるのか?」
「お、おう。お前の仲間だからわらわの仲間だ。そういう事でいいだろ?」
「ありがとうな。エリザベスからそんな言葉が聞けるとは思わなかったぞ」
「わらわは空気を読める嫁だからな」
するとミドリアが三人娘達を連れて来た。
「さ、エリザベスさん、今来たばっかりですがキャンプの小屋にこの子達を連れて戻ってください。わたくしはこの大穴を埋めないといけないですから」
「解った」
「わたくしも、この大穴を埋めたらすぐに戻ります」
俺達はエリザベスを笑顔で見送る。
すると、ミドリアと俺の目と目が合った。
ミドリアは俺に向かってほほ笑んだ。
記憶が消えると聞いていたのでどんなことになるかと心配だったが、何も変わって無くて一安心だ。
「ミドリアの記憶が消えると聞いていたから心配したんだけど、何も変わって無くて安心したよ」
「さっきから気になっていたんだが、お前は何者だ? なぜ私の名前を知っている?」
その声はいつものミドリアの甘ったるい声では無かった。
氷の様に冷たい声。
闇の様に暗い声。
本来のミドリアの声だ。
それがミドリアの口から発せられた。




