禁忌2 *
ミドリアによって開かれたダンジョンの奥底への巨大な縦穴の底。
巨大なカマキリが石川を襲っていた。
俺とミドリアは巨大な竜と化したエリザベスから飛び降りる。
俺は石川を捉えているカマキリの腕を引きちぎり、ミドリアは身体をバネの様にしならせて残ったカマキリの本体に強烈な蹴りを叩き込む!
蹴り飛ばされたカマキリは凄まじい勢いで壁にブチ当たると、その姿を壁のシミへと変えてこの世から姿を消した。
石川の怪我はかなり悲惨な状況だった。
背から胸にかけてカマキリの鎌が貫通していて、腹から下の部分が切り落とされていた。
現代日本の医療技術だったらどう考えても助からないレベルの怪我である。
生きているのが不思議なぐらいの怪我だった。
でもここは魔法が当たり前に使えるファンタジー世界だ。
生きていれば回復魔法で何とかなる。
俺が魔法を掛けようとすると石川が俺に気が付いて声を掛けて来た。
「高山なの?」
その声はか細い小鳥の様でいつもの元気が有り余った石川の声ではない。
すぐに回復しないと命の灯が潰えてしまうかもしれない。
俺はカマキリの腕を石川から引き抜くと回復魔法を掛ける。
「石川! 大丈夫か! 今治療してやるから! 待ってろ!」
俺は必死で回復魔法を掛けまくるが全く効かなかった!
石川の顔色がますます悪くなる。
「なんで効かないんだ? なんで効かないんだよ!」
俺は必死に回復魔法を掛けまくる。
でも胸の大穴や切り取られた下半身がつながる事はない。
このままでは死んでしまう!
石川が死ぬなんてありえないだろ!
俺は石川の死が現実味を帯びて来た事で焦り始めた。
「どうなってるんだよ! なんで回復魔法が効かないんだよ!」
俺は泣きながら呪文を掛けまくる。
ポッカリと開いた胸の穴と切断された胴から血が流れ続け石川の顔色は悪くなる一方だ。
するとミドリアが沈んだ声を掛けて来た。
その横にはエリザベスと無事だった長野さんも来ていて二人とも悲しそうな顔をしていた。
「我が君……もう手遅れです」
「手遅れって……まだ生きてるんだから魔法で治るだろ!? そうだ! 俺の回復魔法スキルは低いから効かないんだ! ミドリアなら直せるだろ! 治してくれよ! なあ、ミドリアお願いだ! 石川を治してくれよ!」
「魂隗を破壊されているので、もう死んでいます」
「なんだよ魂隗って! そんなもの知らねーよ! まだ息してるんだから治せるだろ? なあ、ミドリア! 治してくれよ!」
「魔族の魔石と同じく、人間にも魂の核となる魂隗が有るのです。それが既に砕かれているので蘇生は無理なのです」
「だから、魂隗なんて知らねーよ! そんな物人間にはねーよ! なあ、頼む、石川を治してくれ」
「我が君……」
ミドリアの事だから嘘は言ってないだろう。
ミドリアが治せないと言うのだから石川は治せないのだろう。
ミドリアが死んだと言ってるんだから石川は死んでしまってるのだろう。
そんな事は解ってるんだ。
でも石川を失うなんて、考えたくない。
石川を失うと思うと胸の中が悲しみで溢れかえる。
ここ最近味わった事のない悲しみの感情。
胸が苦しい。
人を失うって事がこんなに悲しい事なのかよ。
俺の目からとめどもなく涙が流れて来た。
石川が俺に向かって何かをささやいた。
あまりに小さな声なので聞こえない。
俺が耳を寄せると再びささやいた。
「私をだきしめて」
そう石川の口から声が漏れる。
俺は石川を力いっぱい抱きしめると石川の唇に俺の唇を重ねた。
石川は一筋の涙を流すとそれっきり動かなくなった。
『完全に生命機能を停止したようです』
「石川!!!」
俺の叫びが洞窟の中にこだまする。
俺の胸の中に悲しみが溢れ返る。石川が死んだ!
石川が死んでしまった!
あの石川が!
なんでなんだよ!
お前は死ぬようなキャラじゃないだろ!
いつも元気いっぱいで俺の事を馬鹿にするキャラだったろ!
それなのにいつの間にか俺にデレていたツンデレキャラだろ!
なんで、そんな元気の塊みたいなやつが死ぬんだよ!
訳わかんねーよ!
ここで何が有ったんだよ!
生き返ってくれよ!
生き返らせてくれよ!
そう言えば前に生き返りが出来るとミドリアが言ってたよな?
死んですぐなら生き返らせられるって!
ミドリアなら出来るはずだ!
ミドリアなら生き返らせる事が出来るはずだ!
俺はミドリアに縋りついた。
「たのむ! 石川を生き返らせてくれ! お前なら出来るだろ! 石川を生き返らせる事が出来るよな? たのむよ!」
ミドリアは首を振った。
「我が君、死んだ者を生き返らせることは無理なのです」
「前に食堂で言ってたじゃないか! 吉田さんと田中君が生き返ったって言ってただろ? それにミドリアも死にたてなら生き返らせられるって言ってたじゃないか! なあ、何とかなるんだろ! 出来るって言ってくれよ!」
「申し訳御座いません。生き返りには非常に多くの準備が必要なので死んでしまってからでは手遅れなのです。でも……」
「何か有るのか! 何か有るんだな!」
ミドリアは俯いて少し考え込んだ後に口を開いた。
「この死を無い事にすれば……。運命線収束、古代に失われた禁忌です」




