冷蔵庫作り5 *
目の前にはこの世界には有ってはいけない武器『サブマシンガン』が存在した。
それはあまり古臭さを感じさせない物であった。
銃器は日本で一般に流通してる武器ではないので俺が使った訳もなく詳しくも無いがデザイン的にここ三〇年ぐらいの物だろう。
曲線を基調にした近未来的なデザインと光学サイトを装備している事から少なくとも第二次世界大戦で活躍した武器には思えなかった。
「これは火薬の力を利用して鉄の弾を連続で打ち出す物理的な武器ですね。俺達の世界の凶悪な武器です」
「やはりこの武器は異世界の武器だったのか。どうりでこの世界の何処を探しても手掛かりが見つからなかったはずだ」
「これは何処で手に入れたんです?」
「わたしの故郷の村は物を作るのを生業とする村でな。その村で作り上げた商品の商談で私が出掛けている間に村が何者かに襲われてな、その犯人が使っていた武器らしい。生き残りが子供数名しか居なかったので正確な事は解らないが、一人の男が乗り込んできてこの武器で村民をあっという間に皆殺しにしたそうだ。私の兄はその男と戦ったらしくて、その武器を奪い取り抱き抱えたまま崖の下へと飛び降り下の河原で骸となって見つかったのさ」
「そうだったんですか」
以前、俺以外にも召喚が有ったと聞いたことが有る。
きっとその時に召喚された奴がこの世界にマシンガン持ち込んだんだろう。
その召喚者がロココさんの親や兄妹を殺した犯人だ。
召喚者の犯罪は召喚者の俺が絶つ!
俺はロココさんの敵討ちに手を貸す事を決意した。
*
その後ベッドに戻って横になってもサブマシンガンの事が忘れられずに寝れなかった。
この世界にサブマシンガンを操る者が居たのは事実。
そして多くの命を殺めたのも事実。
散々人の命を殺めてきた俺だったが今迄理由のない殺しはしてこなかったはず。
つい最近も盗賊を皆殺しにした。
意味の無い殺戮に憤りを感じ心が荒れる。
寝れそうもなかったのでシステムちゃんに頼んで睡眠状態にしてもらい寝た。
翌朝起床時間に睡眠状態から回復するとシステムちゃんが声を掛けてきた。
『昨日は大変でしたね」
『寝ている間に何が有ったのか?』
『ミドリアさんがそこの窓から、勇者様と同じベッドで寝ているセーレさんを鬼の形相で睨んでいましたね』
『うげ! ミドリアが来てたのかよ! それはヤバすぎるだろ! そういえば昨日の夜はミドリアと添い寝する順番だったわ! クーラーボックスを作る事で頭がいっぱいで綺麗サッパリ忘れてた!』
ミドリアからすれば旦那だったはずなのに嫁を放りっぱなしで新しい女と浮気してる様にしか見えないもんな。
その上、セーレと同じベッドで寝てたら……。
どう見ても浮気確定。
俺が逆の立場だったぶち殺してるわな。
ちょっとミドリアをないがしろに扱い過ぎた。
こりゃミドリアに何か穴埋めしないとまずいな。
俺が倉庫に降りると既に二人とも集まっていた。
ロココさんが俺の方を振り向く。
「よ! おはよう。起きてきたか」
「おはようございます」
「ちょうど箱開けするとこで起こしに行こうかと思ってたんだ。さあ、早速蓋を開けてみるぞ」
ロココさんがクーラーボックスを開けると箱から白い冷気の霧が溢れ出た。
中のカニは冷たく冷え氷結晶も解けきっていなかった。
クーラーボックスの試作試験は成功した。
「いい感じだな。早速これを茹でて食べてみよう」
ロココさんはカニを持ってキッチンに調理しに行った。
俺達もついていってテーブルで待っているとボイルしたカニをもって来た。
カニをワサビ醤油につけて食べる。
うまい!
これはうまい!
ジューシーでコクの有る肉汁が口の中で踊る!
これはマグロ並みの美味さだ!
「おいしい!」
カニ肉は全く腐って無く、くさい臭いもしない。
生の状態で食べてないので鮮度の劣化は何とも言えないが、保存は間違いなく成功している。
ロココさんは試作実験の成功で顔を綻ばせていた。
「よし! 成功だな」
「成功ですね!」
「試作はこれで大成功だ。今度はマグロ一匹をそのまま入れられるサイズの冷蔵庫を作ろう!」
*
再びダンジョンへ行くが、受付で入場を思いっきり断られた。
「あんたたち! 何してくれたの! 初心者の狩場でカニを狩り尽すから『カニがいない』だの『レベル上げ出来なかったんだから金返せ!』だの苦情が来まくって大変なのよ! もうあんたたちは出入り禁止! 二度と来ないで!」
かんかんに怒っている受付の人。
どう言い訳しても入れる気がしない。
完全に出入り禁止だ。
ここのダンジョンに入るのはダメそうだ。
「ここには入れそうも無いですね」
「だな。調子に乗って狩り過ぎてしまったな」
「他のダンジョンに行きますか?」
「うーん。私は冒険者じゃないからここしかカニの狩場を知らないんだ。セーレはリバイアサンだからカニの狩場を知ってるだろ?」
「私は深海が縄張りなのでカニの居る様な浅い海や陸の上はあまり知らないのですよね。ほかのダンジョンを探した方が早いと思います」
「こんな時にミドリアがいてくれればな。転移魔法陣で他のダンジョンにすぐに移動できるんだけどな」
そういった瞬間に赤い魔法陣が俺の前に現れてミドリアが魔法陣から現れた。
まるで今までの話を聞いていたんじゃないかと思えるほどのタイミングだった。
「我が君……昨日は一人で寂しくベッドで我が君の帰りを待っていたのに、帰って来てくれなかったのですね」
演技なのか本気なのか知らないがミドリアはめそめそと泣いていた。
セーレと同じベッドの上で寝ていたとこを見られいる以上言い訳は効かない。
俺はミドリアに「ごめん!」と謝ると同時にミドリアの口をキスでふさいだ。
いきなりキスをされ驚いて「むぐぐ」と口籠るミドリアであったが、すぐにキスを受け入れてくれて逆に激しい口づけをして来た。
「若妻を一人にして申し訳ない。でも、今はどうしてもやらないといけない仕事が有って手が離せなかったんだ。ごめん!」
「いえ。我が君の事を下から支えるのが妻の務め。わたくしなぞ気にせず、お仕事に精を出してください!」
ミドリアはキスをしたことで先ほどまでの恨みつらみを忘れてしまうほど満足してくれたようだ。
おれはミドリアに甘える事にした。
「そう言ってもらえると助かる。早速なんだか少し手伝って貰えないかな?」
「我が君の為ならなんでも致します」
「カニの居る狩場を知ってたら連れていって欲しい」
「カニですか?」
「カニの泡でマグロを運搬するための冷蔵庫を作っているんだ。カニの居る狩場を知っていたら連れていって欲しい」
「わたくしはこの世界ではない所から来たので、さすがにこの世界の事はあまり知らないのです。でも、エリザベスさんなら知っているかもしれませんわね。聞きに行きましょう」
ミドリアは魔法陣を展開した。
転移魔法陣を通ってやって着たのはいつものシェリーさんの食堂だった。
店の前には既に行列が出来、店の中ではシェリーさんとエリザベスが待っていた。
エリザベスはやたらニコニコしている。
「タカヤマ! 見てくれよ! この店で昨日一日頑張って働いたら、尻尾が少し細くなって短くなったんだぞ!」
すごい笑顔で言ってるけど俺が見た感じほとんど変わってない。
満面の笑みのエリザベスの横に立つシェリーさんはオロオロしていた。
「あのー、タカヤマさん。マグロ持っていますか? 今日はマグロが出ないと聞いた客が今にも暴れ出しそうで、暴動寸前レベルで大変なんです」
「あー、ごめん。今朝、食堂にマグロを届けるのを忘れてたな。すぐ出すよ」
俺はアイテムボックスからマグロの切り身の入った桶2つとワサビと醤油の入った小桶を2つ出す。
シェリーさんはホッとして生き返った顔をする。
安心ついでにいい報告もしておこう。
「もうすぐ、俺がいなくてもマグロを出せる冷蔵庫という保存庫を作っていますのでもう少し待ってください」
「そんなすごい物を作ってるんですか? さすがは勇者さんです!」
「我が君はとても優秀なのです」
配膳をいつもの様に手伝い殺到する客を捌きつつ昼の営業を終え、賄い食を取る。
今日も食堂は大盛況だった。
心配なのは評判が評判を呼んで徐々に客が増えてる事。
毎度の行列で周りの店に迷惑を掛けてしまってるので、そのうち店を移転しないとダメかなーって気もする。
賄いを取りながらエリザベスに聞く。
「エリザベス。悪いんだがカニの居る場所を教えてくれないか?」
「わらわに任せろ」
連れて来られたのは砂漠の中にあるダンジョン。
カニなのになんで砂漠なんだ?
「ここには暑さを逃れた生き物たちが集まっているんだ」
たしかに、暑さを逃れる為にトカゲとか蜘蛛とかがたくさん居た。
でもカニは見当たらない。
エリザベスの案内でダンジョンの奥へと進むと大きな地底湖の湧く部屋が有り、そこにカニが無数にいた。
カニを見たロココさんがブルブルと震えだした。
「サンドデスクラブか! こんな強そうなカニと戦うのか!」
「強いのか?」
「雑魚だろ。どう見ても雑魚だな」
「雑魚ですわね」
「私達商人は、このカニを見たら死を覚悟するレベルの強さなんだがな。お前達にとっては雑魚なのか」
魔王ツインズが攻撃を始る。
「いくぞ!」
「行きますわよ!」
かなり手加減した攻撃なのに、一撃で撃破。
かなり強いカニなので爆散する事は無かったが、これじゃカニ肉しか取れない。
俺もセーレも倒してみるがやはり泡を吐かせるのは無理っぽい。
そこで白羽の矢が立ったのがロココさん!
「え? 私があれを倒すのか?」
「この中でカニのアワを吐かせられるのはロココさんしかいません! 強化魔法を掛けてサポートしますので頑張ってください!」
「ちょっと怖いけど、冷蔵庫の為に頑張ってみるか」
「ひい」!だの「うひゃ!」だの「うぎゃ!」だの騒ぎまくりのロココさん。
敵の攻撃の度に悲鳴を上げながら攻撃し続けるロココさん。
なんかリアクションが微笑ましく、すごく可愛い。
さすがにこのクラスの敵だとロココさんの攻撃ではダメージが通りにくくて、カニが危険を感じないのかアワを全然吐いてくれない。
ダメージがさっぱり入らないので30分経っても倒せない。
魔王ツインズが呆れてあくび連発。
カニも呆れて逃げ帰ってしまった。
「強敵だったな!」
「いや、お前が弱いだけだろ」
「ロココさんはちょっと弱すぎますわね」
「すまない、私は商人だから弱いんだ」
ガックリとうなだれるロココさん。
でも何かを思い出したのか急に笑顔になる。
「タカヤマがあれ使えばいいんじゃないか?」
「あれって?」
「ゴブリン」
「その手が有ったか! ゴブリンの大群で狩りか!」
「なんですの? ゴブリンとは?」
「まあ見ててくれって」
早速システムちゃんを呼び出す。
『システム!』
『はい。なんでしょうか?』
『【モンスタートレーナー】スキルをセットしてくれ』
『はい。出来ました』
『ゴブリン5000匹出してくれ』
俺の目の前に湧き出るゴブリン達!
さすがにこの数のゴブリンが一瞬で目の前に現れると魔王ツインズでもビビるようだ。
「な、なんなんだ?」
「これはいったい」
「俺が出したんだ。倒すんじゃないぞ」
さすがにこの数のゴブリンを見るとエリザベスもミドリアも驚いた顔をする。
「こんなにゴブリンを収納してたのか!?」
「さすが我が君、こんな常識はずれな事をいとも容易くやってしまう。惚れますわ」
「このゴブリンで何をするんだ?」
「ゴブリンを操ってカニを狩るのさ」
俺はゴブリン達に命令を出す!
『指令だ! ゴブリン達よ! 皆で協力してカニ達を皆殺しにしろ! カニを突いて怒らせて、泡を吹いたのを確認したら倒して、ここに連れて来い』
『了解しました!』
ゴブリン達は蜘蛛の子を散らすようにフロアに隅々へと散っていった。
そして次々にカニの死体を持って戻って来た。
凄まじい勢いでアワアワ付きのカニが集まりだした。
「タカヤマはこんなことも出来たのか!」
「さすが我が君です!」
ゴブリンが集めてきたカニを俺は次々に収納にしまう。
最初は物凄くいいペースで集まったが徐々に戻ってくるゴブリンの数が減り、ついには戻ってこなくなった。
「全滅しちゃったかな?」
『いえ、北西の方角にゴブリンが集まっています。何か巨大な敵と戦闘しているようです』
行ってみるとそこには巨大な丸いカニがゴブリンと戦闘していた。
その背丈は10メートルぐらいある、丸くて巨大なヤドカリみたいなカニだった。
その足元には力尽きたゴブリンが数十匹の単位で横たわっていた。
「倒すか?」
エリザベスがやる気満々の表情をして言う。
「いや、ここは俺に任せて欲しい。エリザベスやミドリアが出ると他のカニまで巻き沿いにして全滅させかねないからな」
倒すのは面倒なので俺はその巨大ガニを収納にしまう。
「どりゃーーー!!!」
物凄く大変だったがどうにか収納に収まった。
ゴブリン達は目の前から巨大なカニが消えると一瞬だけ呆然としたが、再び部屋四方に散りカニの討伐を続ける。
一時間ほどでゴブリン達は洞窟のカニを狩り尽した。
「これだけ素材が有れば大丈夫だろう」
「ですね」
俺達は大量のカニアワを手に入れて洞窟を後にした。




