冷蔵庫作り1 *
俺はロココさんとセーレを連れて冷蔵庫の制作を始める事にした。
セーレに俺の手伝いを頼むとやたら怯えていた。
「ミドリアさんの許しも無くタカヤマさんのお手伝いは出来ません!」
話を聞くとセーレがミドリアから離れると首が締まって死ぬ呪いが掛かっているそうだ。
「なんでそんな訳の解らない呪いを掛けてるんだよ。すぐに解いてやれよ」
俺が咎めるとミドリアは渋々呪いを解いたが「逃げたら地の果て海の底まで追い駆けますわ!」とセーレを脅すのでセーレは顔を青くしてブルブルと震えていた。
冷蔵庫を作りにやって来たのはロココさんの家だ。街の裏通りに面した石造りの家で間口はそれほど広くない3階建てのビルみたいな家だ。
ヨーロッパの下町みたいに軒を連ねて道路に沿ってビッシリ立ち並らんでいた。
商売用の倉庫にも使ってる家で、一階が荷物搬入用のガレージの様になっていて研究にはうってつけだ。
ロココさんは故郷から出て来てこの家に一人で住んでるらしい。
ロココさんは机の上に広げられたセーレの書いた冷蔵庫の設計書を見るとしきりと感心していた。
アイテムバックの中に冷蔵用の氷結晶を入れた箱を固定するバンドを取り付けた感じになっている。
「時間経過の無いアイテムボックスと近い効果を持つ冷蔵庫とは面白い物だな」
「確かにこういう物はこの世界には無かったですしね」
設計書を書いたセーレも自分で感心していた。
「まずはこのセーレの書いた設計書通りの物を作ってみよう」
ロココさんは集めて来た材料を机の上に置く。
旅行鞄ぐらいのサイズのアイテムバッグにセーレの生成した氷結晶を入れる。
そして商品と氷結晶を隔離する小さな網状の箱だ。
ロココさんは集めた材料で冷蔵庫を作り始める。
「箱に氷結晶を入れてアイテムバッグの中に入れる。それをアイテムバッグに取り付けた紐で固定する! よし完成だ!」
「随分と早いですね」
「ぶっちゃけた話、アイテムバッグの中に氷結晶を入れただけだからな。これは商売になりそうもない気がする」
「そうなんですか?」
「だってアイテムバッグの中に氷結晶入れただけだろ? こんなもん、アイテムバッグの使い方の新たな提案にしかならず、使い方が知れ渡ったらそれでお終いだな」
「そう言われるとそうかも知れないですね」
「商売になるとするなら、この氷結晶を入れる箱だろうが、これはタオルや布巾で氷結晶を包んで中の物と接触しなくするだけでもいい気がする」
「商材としてはダメですか」
「まあ、使いもせずに使えないと言い切るのもなんだから、実際に使ってみよう」
アイテムバッグの中に肉や魚、果物、野菜等を入れてみる。
氷結晶から冷気が出てアイテムバッグの中を冷やす。
でも氷結晶は外気に触れて消えるのと同じぐらいの時間でドライアイスが消えるみたいに消えてしまった。
氷結晶が持ったのは一時間。
生鮮食品を遠い距離から運ぶにはあまりにも短い保存時間だった。
「思ってたよりもずっと短い時間で氷結晶が解けてしまうな」
「バッグが断熱でないので冷気がダダ漏れの感じですからね」
「タカヤマから話を聞いた時は物凄い物に思えたんだけどな。非断熱のアイテムバッグだから冷気ダダ漏れだし、それにアイテムバッグという事が欠点だ」
「アイテムバッグではダメなんですか?」
「ダメという事はないが、アイテムバッグは大きくなれば大きくなるほど値段が凄まじい額に跳ね上がるんだ。見た目がウエストポーチぐらいの収納容量がバケツ一杯サイズのアイテムバッグなら庶民でも頑張れば手の入る価格なんだが、このぐらいのアイテムバッグとなると500万ゴルダぐらい掛かる。マグロ一匹が丸々入るサイズの物だと家一軒買えるぐらいの値段になるからな。この氷結晶を入れて置く箱はアイテムバッグを作ってる業者が取り扱うべき商品だな」
「それならアイテムバッグに拘らなければいいんじゃないかな? 俺の居た世界だと魚を入れる『クーラーボックス』という物が有りました」
「それはどんな物なんだ?」
「アイテムバッグみたいな大きい物を小さくして入れる機能は無いただの保温箱です。断熱素材の箱に氷を入れて冷気をなるべく逃がさずに魚を冷たいまま長時間腐らせないで運搬する箱なんです」
それを聞いたロココさんが椅子から立ち上がり、目を丸くして大声を出した。
「それだ! それだよ! 私としたことが常識に捕らわれていた! アイテムの運搬にはアイテムボックススキルやアイテムバッグが必須と考えてしまった。でも、マグロを運ぶのにはそんな物はどうでもいい事だよな。氷結晶を入れて冷やして、新鮮なまま魚を運べればいいだけの事だ! その『くーらーぼっくす』を作って流通革命を起こそう! タカヤマ! 早速そのクーラーボックスの設計書を書いてくれ!」
俺はペンでさらりと設計書を書く。設計書と言ってもタダのふたの開閉できる箱だけどな。
「出来ました」
「ほほー、これがクーラーボックスか。ただのふたの開閉できるだけの箱だな」
「ですねー。断熱機能だけを備えただけのただの箱です」
図面の文字を見てロココさんが不審な顔をした。
「ここに書かれている箱の素材の『はっぽうすちろーる』ってなんだ?」
「発泡スチロールですか? これは空気を沢山含んだプラスチックで物凄く軽いんです。空気を含んでいるので熱も通さないので冷温保存箱の素材として向いています」
「ほほー。で、作り方は?」
「たぶん、こっちの世界じゃ作れません」
「なんだと!」
「石油から作りだしたプラスチックと言う素材が必要なんですよ」
「なんだ? その魔術用語みたいな『せきゆ』とか『ぷらすちっく』というものは?」
「俺も作り方を良く知らないんですが、地面を掘って沸き出させた油から膨大な工程を経て作るらしいです」
「膨大な工程が必要だから作れないのか」
「そうなりますね。作るとなると大きな化学工場がいくつも必要ですね。まあ、そんな物が作れるようになったら流通や産業の大革命が起こるでしょうが、工場を作るハードルはやたら高いです」
「そうか、無理なのか」
「代わりに熱を通さない素材が有ればいいんですけどね。氷の呪文の冷気を通さないとか、炎の呪文の熱気を通さない様な素材が有れば代用できるんですが……」
「そんな物は聞いた事が無いからな。作るのは無理か。何か他の物で代用できないかな? こっちの世界で断熱材としてよく使われている綿とかおがくずとかじゃ無理か?」
「それだと断熱効果は低いでしょうね」
「そうか、ダメか」
それを聞いてセーレが言った。
「冷蔵庫の素材に使えるかどうか解りませんが、そういう熱を通さない物なら有りますよ」
「あるのか!」
「蟹さんのアワアワです」
ロココさんはそれを聞いて目から鱗を落とした様に大喜びだ!
「あ! その手が有ったか! カニのバブルガードのアワアワだな」
「はい! それです」
「バブルガード?ってなんです」
「あ、タカヤマは知らないか。モンスターの中にカニがいてな、奴に攻撃とかすると防御スキルで炎を通さないアワアワを吐いて体に塗りたくるんだ。そうなると炎魔法も氷魔法も一切通じないから魔法使い殺しの技と言われている。バブルガードを使った直後のカニを倒せば良質な断熱材が手に入るかもしれない」
「いけそうな気がしてきましたね!」
「だな」
「じゃあ、アワアワを集めてクーラーボックスの素材に使えるか試作してみましょう!」
「おう! カニを狩りに行くぞ!」
俺達はカニを狩りに行く事になった。




