再び勇者召喚5
快適な畳ベッドで寝た後の目覚めは最高だった。
俺が起きると女の子たちは慣れない藁のベッドであまり良く寝れなかったのか、この境遇に泣き濡れていたのかは知らないが目を腫らしていた。
特に石川の目の下にクマが出来てて酷い。
「おはよう、寝れた?」
「全然。あんたはどうだった?」
「良く寝れたよ」
「さすが、男子は無神経でいいわね。あんなベッドでよく寝れるわね」
「君らの方がシーツ付いてるから俺よりマシなベッドだったんだろ?」
「そうだけど、わたしこんなひどいベッドで寝たの初めてだからぜんぜん寝れなかったわ。それにお風呂にも入れなかったし、最悪」
「ダンジョンとかに潜ったりしたら当然ここには戻って来れないから風呂には入れないし、寝る時も石の床の上で寝る事になるだろうから、少し慣れておいた方がいいと思うぞ」
「そんなとこで寝ないといけないの? あー、やだ! やだ! 早く日本に帰りたい!」
俺は「俺達は二度と日本には帰れないんだけどな」と言おうとした言葉を飲んだ。
昨日の夜と同じ粗末な朝食を取った後、大神殿の大聖堂に行く。
今日からダンジョンでのトレーニングが始まるから装備の支給が有るそうだ。
大聖堂には既に多くの生徒が集まっていた。
でも、昨日までと明らかに雰囲気が違う。
一晩明けて、ランクによる上下関係が出来ていた。
まるでスクールカーストを酷くしたような感じの階級だ。
「ランクCのくせに態度でけーんだよ」「おいおい! 喧嘩するなよ!」「お前はランクCだろ?」「ランクBの俺様の言う事が聞けないのか?」「ランクC? だっさー! 低ランクがうつるからこっちくんなよ!」
所々でランクに関わる小競り合いの様な物が起きてた。
「なんか雰囲気悪いな」
「そうね。なんかいつものクラスと雰囲気違うね。私たちDランクだから絶対に絡まれるわよ」
「部屋の隅でおとなしくしてた方がいいな」
「そうですねぇ」
部屋の隅で小さくなって大人しくしてると、男子生徒2人がわざわざ部屋の隅までやって来て早速俺に絡みに始める。Bランクの奴だ。
「うわははは! だっせー! 高山ってこのクラスの中で最低のEランクなんだろ? どんだけショボいんだよ! 召喚された勇者なのにEランクなんてありえねーな。だっさー!」
絡んで来た奴は隅田だ。
隅田の友達の荒川も一緒に居た。
向こうの世界じゃいけてない二人組で有名。
スクールカーストの底辺近くに居た奴だ。
ランクの上位に食い込めた事で、ここぞとバカリに辺り構わず絡みまくってる様だ。
俺は二人のステータスを覗き見る。
まずは隅田に金魚のフンのごとく付いている荒川からだ。
>名前:アラカワ コータロー
>性別:男
>ジョブ:戦士
>
>LV:1
>HP:8/8(E)
>MP:64/64(B)
>
>STR:4(E)
>VIT:128(A)
>INT:32(B)
>LUK:128(A)
>
>ユニークスキル:【高速詠唱】LV1
>スキル:【毒耐性】LV1 【通訳】LV5
あ、こいつはダメだな。
Dランクより使えない奴だわ。
戦士なのにHPとSTRが低いのが致命的だな。
それに戦士なのに魔法使い向きの高速詠唱とかって意味ないだろ。
どう見ても魔法使い向きだわこいつ。
普通はジョブに適したスキルが付くものなんだが、どうしてこうなってしまったかは謎だ。
ジョブチェンジが出来るLV30に育つまでかなり厳しいことになるだろうな。
神官がまともにステータスを見て無くて成長Aのスキルが2個有ったからBランクにしたってのが丸解り。
さてと、もう一人も見てみるか。
>名前:スミダ ケイバ
>性別:男
>ジョブ:踊り子
>
>LV:1
>HP:64/64(B)
>MP:64/64(B)
>
>STR:32(B)
>VIT:32(B)
>INT:32(B)
>LUK:32(B)
>
>ユニークスキル:なし。
>スキル:【潜水】LV1 【炎耐性】LV1 【水耐性】LV1 【通訳】LV5
こっちは狙い過ぎなぐらい、成長度B揃いだな。
ステータスはBで揃っててステータス的にはいいんだが、スキルがな。
なんといっても召喚されたのにユニークスキルが無いのが痛い。
ごく稀に居るユニーク無しのダメっ子ちゃんだ。
レベル上げの過程でユニークスキルが取れなければ勇者人生が詰むわ。
それに通常のスキルも防御系ばかりで、戦闘に直結する物が無くて微妙過ぎる。
炎耐性に水耐性って熱湯風呂にでも入るのかよ。
こいつも結構苦労するだろうな。
俺に絡んできた2人に石川が突っかかる。
女なのに男二人相手に歯向かうなんて勇気あるな。
「あんた達やめなよ! 高山だって好きでEランクやってるんじゃないんだよ!」
すまん。
俺は好きでEランクやってるんだ。
あれ?
石川、結構いいとこあるじゃねーか。
グループの中では散々コケにしてたのに俺を庇ってくれるの?
意外といい奴かも。
「それに何? 学校じゃ誰にも相手にされてないで教室の隅でうずくまってる二人組で有名だったのに、異世界に来た途端デカい顔して他人に絡みまくるの? 最低の男子ね!」
「なんだよ、この糞女! お前DランクなのにBランクの俺に歯向かう訳? 前から生意気で俺を小馬鹿にしてて気に食わなかったんだよな、こいつ」
隅田がいきなり石川を殴りかかって来た。
しかも顔面を。
いくらムカつくと言っても女の子を殴るのは無いだろ。
俺は隅田の拳が石川の顔面を捉える前に手首を握って止めた。
「なんだよ! 高山。お前、ヤル気か?」
「女の子に手を出すなら、俺は容赦しないぞ」
「Eランクのくせに生意気な! Bランク様にEランクが勝てると思うのか?」
「やってみるか?」
俺はほんの少しだけ力を入れて軽く手首を握りしめる。
『ゴキッ!』と手首から嫌な音がした。
やべ!
怒りでちょっと力を込め過ぎた!
間違いなくポッキリいっちゃってるね、これ。
すると隅田は今にも死ぬんじゃないかと思えるほどの絶叫。
見ると手首の関節が外れたのか折れたのかして手のひらがブラブラしてた。
手首を握る時に、すこし力が入り過ぎてしまったようだ。
隅田は折れた腕を押さえて床の上をゴロゴロとのた打ち回っている。
騒ぎを聞きつけたクラス委員長の吉田さんともう一人のクラス委員長の田中君が来てくれた。
ネックレスを見ると、どうやら二人ともAランクの様だ。
吉田さん、思い人の田中君と一緒のランクになれて良かったね。
そんな吉田さんはクラス委員長らしいキリッとした態度で状況を確認する。
「なにしてるの!? 何の騒ぎなの?」
「高山君は悪く無いの。隅田がわたしを殴ろうとした所を高山君が助けてくれただけなの」
「そうなの?」
吉田さんは石川の言葉の真偽を確かめる為、第三者の目撃者である長野さんに確認する。
いきなり吉田さんに質問されてオドオドしながら返事をする長野さん。
ビクつく感じが小動物みたいで可愛い。
「は、はい。そうなんです」
「男子が女子に手を出したらダメでしょ!」
「すいません。隅田によく言い聞かせます」
荒川が必死に吉田さんに謝り続ける。
謝る先は吉田さんじゃなく石川だろ。
と、思ったがこれ以上事を荒立てても仕方ないので黙っていた。
「荒川君! 神官さんに隅田君を魔法で治療してもらうから、運ぶの手伝って!」
「はい」
吉田さんは、殺虫剤を掛けられて床の上でのた打ち回るゴキブリみたいな隅田を、田中君と荒川に抱えさせると神官の元へと連れて行った。
騒ぎが収まると石川さんがポツリと言った。
「助けてくれてありがとう」
「いや、こっちこそありがとう。お前って俺をかばってくれて、案外いいとこ有る奴なんだな」
「一応同じグループの仲間だし、昨日のお菓子をもらったお礼もあるし、案外いい奴だったし」
「もしかして俺に惚れたか?」
「な、何言ってるのよ! そんなわけないでしょ! このバカ!」
顔を真っ赤にした石川に、ポカリと軽く頭を殴られた。
部屋の隅で固まって座っていると、石川や香川の友達がちらほらやって来て話を始める。
やはり、AランクやBランクの部屋や食事はかなり豪華だったようだ。
粗末な食事はDランクだけだったんだろうな。
Aランクは見た事のない様な豪華なフルコースの食事で、人数の多いBランクはホテルのバイキングみたいな料理、Cランクは定食みたいな食事だったそうだ。
それを聞いた石川はマジ泣きしていた。
「お腹空いたよー」
香川ちゃんはBランクの生徒から余った食事を貰う約束を取り付けていた。
ロリっ子なのに意外とちゃっかりしている香川ちゃんである。
「私達ってホント期待されてないのね」
「悲しいですぅ」
「実際、役に立ちそうも無いからこの扱いなんでしょうね」
そんな話を聞いてると少し頑張って、こいつらと高ランクの奴らを見返してやろうかな?なんて事を考えてしまう俺が居た。