人化修行1 *
高山がロココの所に出掛けたのを見計らうと、エリザベスはおどおどとするセーレを捕まえ完璧な人化の方法を問い詰める。
「どうやってそんなにうまく人化出来るんだ? 今すぐ教えるんだ!」
セーレは物凄い剣幕で問い詰められて、また何かされるんじゃないかと足をガクガクさせて震えた。
そこにミドリアも加わり今にも気絶しそうだ。
「人化についてはわたくしも聞きたいのですが、これは私の下僕です。エリザベスさん、私の物に勝手に手を出す様な礼儀知らずな事をするのを止めてもらえますか?」
「物なんですか? 私……」
「三日だ!」
「三日?」
三日が何の事かさっぱり解らないミドリア。
セーレも解らず、呆気にとられた表情をしている。
エリザベスはミドリアの鼻先にビシッと指を突き付ける。
「タカヤマとの添い寝、今日から三日間でどうだ?」
「!」
「セーレと、タカヤマとの添い寝権三日の交換でどうだ?」
「貸しますわ! その取引受けました! ただし下僕のセーレの拷問にはわたくしも参加します。いいですね?」
「いいだろう」
拷問と言う言葉を聞いて青ざめてブルブル震えるセーレ。
「拷問なんてやめて下さい! 何でも言いますから! 乱暴しないで下さい!」
「じゃあ教えろ、どうやれば人化が上手くなる?」
「そうですね。コツ程度の物しかないのですが、あえて言うならば人間と関わり合いを持って人間をより知ることです。そうすれば自然と人間の事を理解出来るようになり、より完璧な人化をすると事が出来ます」
笑顔になって頷くエリザベス。
「なるほど! わらわは人化の術を身に着けたが、あくまでも城に竜の姿では入れないのでサイズを小さくする為に人化しているだけであって、人間になりたくて人化を覚えた訳ではないからな。人間との係りを持とうなど考えもしなかったわ」
「人間と恋をし、一緒に暮らしていればいつかは人と全く同じ姿で化けれる様になります」
「セーレの相手はどんな奴だったんだ?」
「す、捨てられましたーー! うわわーん!」
大粒の涙を目からボロボロこぼすセーレ。
よほど嫌な事を思い出したらしい。
「そういう事を聞いてるんじゃない。どういう相手と一緒に暮らしていたんだ?」
「海でおぼれていた人間の子供です。拾ってじゃない、助けて我が家で育ててるうちに『お姉さん好き!』と慕われて情が移ってしまって。好きになってしまい、お婿さんにしようと思ったんです。相手も喜んで私からの告白を受けてくれたんですけどね。でも故郷の両親に挨拶をすると言って里帰りしたんですが、近所の幼馴染の糞女に掻っ攫われた挙句に駆け落ちしてその後消息が解らないのです! うわわーん!」
「なんか、報われなさ過ぎて可哀想な奴だな」
「ですね」
「で、お前は人間と暮らしてそこまで化けられる様になるのに何年掛かったんだ?」
「私は7年ぐらい掛かりました」
「7年だと! そんなに待てん! この三日のうちに何とか人化したい! 完璧とまではいかなくてもせめてこの尻尾だけは無くしたい」
「そうですね。そうなると人とより多く接するしかないですね。例えば大きな街に行って店員として多くの人と接しながら働くとか……」
「多くの人と接して働くか」
エリザベスは腕組みをして考え込んだ。
でもエリザベスが下等な人と接することなど、イメージでさえ頭の中に浮かばなかった。
「わらわが人間の街で店員なんて出来るんだろうか? どんな店で働けばいいのか想像もつかないな」
「うーん、そうですね。例えばギルドで受付嬢をするとか料理店でウェイトレスをするとかが、多くの人と接する事が出来ていいかもですね。ウェイトレスとして働きながら意識して人間を観察して人間の外見や気持ちを知る。そしてより人間に近づけるように魔力の許す限り何度も何度も人化を試みる。そうすれば人化の習熟度が上がり人化の精度が上がります」
ミドリアは何かを思い出した顔をした。
「料理店ですわ! うんそれがいいですわ! そういう事で、行ってきますわ!」
転移魔法陣を描くと一人でどこかに消えた。
それを見てハッとした表情をするエリザベス。
「もしや!」
「どうしたんです?」
「あいつ、王都のマグロ料理を出すあの料理屋で働こうとしてるんだよ!」
「あー、あそこで働けばお店にお客さんがたくさん来てるから、すぐに人化を覚えられますねって……あれ? 苦しい! ミドリアさんが居なくなってから見えない首輪みたいなのが徐々に締まってきて息が出来なくて苦しいんですけど! た、たすけて!」
「しょうがないな! ほれ、これでどうだ? しばらくはこれで持つと思うぞ」
首が締まる呪いをエリザベスにより一時的に解除されて肩で息をするセーレ。
「ぜーっ! ぜーっ! ありがとうございます」
「お前なら、その位の呪いはすぐに解除できるだろ?」
「時間を掛ければ解除は出来ると思いますけど、勝手に解除したら次は何されるかと思うと怖くて出来ないんです」
「そうか。とんでもない奴が主人になってお前も大変だな」
「とんでもない目に遭ってます」
「さ、ミドリアを追うぞ、私の背に乗れ!」
エリザベスが小屋から出て巨大な竜に姿を変える。
でも羽ばたこうとしたところでハッとして人間の姿に戻った。
「そういえばタカヤマに竜になるなって言われてたんだな。走っていくぞ!」
「はい!」
二人は突風の様な速度で王都を目指した。




